表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】銀と血のダンピール 〜吸血鬼殺しの怪物になった、家畜神父の物語〜  作者: 岫住胡乱
第四章 黒豹の古城

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

24/57

③アイレン城

 アイレン城内に入る。

目の前に広がるのは大きなホールだ。

 黒豹のタペストリーや像も置かれている。


 扉がいくつかあり、通路も見える。

 立ち込める林檎の匂いが、バルーの不安感を刺激する。


「分散するのは危険だ。固まって動くぞ」


 マルクの意見に、バルーは頷いて賛同した。


 バルーはいつもと違い、トランクの中にナーデルが入っていることを認識していた。


 急に襲われる可能性もある為、トランクから出て来てもらおうと開く。

 スカートの裾を整えながら現れた彼女は、驚きの表情を浮かべていた。


「バルー。体調に問題はないの?」


 そう心配そうに言うナーデルに愛しさを感じ、バルーは胸の奥がキュッとした。


「うん、大丈夫。気にかけてくれてありがとう」


 バルーは目を細めて、ナーデルを左腕で抱きかかえた。


 一際葡萄の匂いが強い扉がある。

彼はその前に立つ。


「ここから確認しよう」


 サプナが相変わらず先行していく。

それについていく形で、全員が扉の中に入った。


「どうだ?」


「あれ? 中はそこまで匂いが――」


 そんな風に話す後ろで、勝手に扉が閉まる。


「なっ!」


 マルクがその扉にタックルしようとするのを、バルーがそっと止めた。


「扉から葡萄の匂いがしてる。必要以上に触らない方がいいかも」


「マジか……。これは、閉じ込められたか……?」


「この先が廊下になっているみたいね。進んでみましょう。何かあればわたしが守ってあげるわ」


 自慢げにナーデルが鼻を鳴らし、マルクは生意気な娘を咎めるように、その鼻をちょんと優しく突いた。


「この前まで落ち込んでたやつと同一人物とは思えないな?」


「あら、誇らしいでしょう? 好きな人と父親の、仇の能力を奪って自分のものにしたんだから」


 バルーはその言葉を聞いて顔を真っ赤に染め上げ、汗をかきながら歩き始めた。

マルクはそれを見て微笑みながらついていく。


「ああ、お前は本当に誇らしい娘だよ」


『早く』


 サプナがちょっと怒った顔で銀文字を浮かべた。


「ああ、ごめんなサプナ」


 マルクはサプナを置いてけぼりにしてしまったことに罪悪感を抱いたのか、彼女の側まで駆け寄った。


「いつも悪いな。折角一緒に働いてくれてるのに、疎外感とか感じてるんじゃないか?」


「……」


「サプナがもっと話しやすいように、銀文字出す機械を改良しようか!おじさんに任せろ」


「……」


「……本当にすまん」


 肩を怒らせながら先へと進んでしまうサプナに、マルクはついていくのがやっとだ。


 マルクが装備している機械腕のエリーゼは、普段カソックの中に格納され、腰回りにベルトのように装着されているのだが、これが案外重い為、マルク自身は動き回ると結構体力を奪われるのだ。


「サプナさん! ちょっと待って!」


 バルーが後ろの方から声を掛けたその時だった。


 サプナの下の床が抜ける。


「!」


 ナーデルが髪を伸ばしてサプナを捕まえようとするが、距離が離れていて間に合わない。


「サプナ!」


 彼女の近くにいたマルクが、エリーゼをカソックの下から出し、サプナの身体を持ち上げた。


「うわ!」


「……!」


 男の身体がバランスを崩し、前の方へと倒れていく。

持ち上げられたサプナは床の方に乗せられたが、代わりにマルクが穴の中へと落下していった。


「お父さま!」


 バルーが走る。

ナーデルも髪を伸ばす。


 しかし、マルクの落下は避けられない。


「やだ! お義父さん!」


「お父さま!」


 サプナはその後ろで動揺するような表情を浮かべて、胸を押さえている。

 呼吸も荒い。


「サプナさん! 怪我は!?」


 サプナは首を横に振ったが、まだ動揺していた。


「バルー! ナーデル! サプナは無事か?」


「お父さま!」


 穴の中から声が聞こえる。


「無事なの!?」


「そこまで高くなかったし、エリーゼが落下の衝撃を抑えてくれたから問題ない」


「良かった……。髪で引き上げるわ」


 ナーデルがそう言って髪をまた伸ばそうとする。


「いや、こっちにも通路が続いているらしい。俺はこの先を進んでみようと思う」


「バラバラになったら危険だよ!」


「バルー、エリーゼは強いんだぞ? ……それから、たまには()()愛する妻と二人きりになりたいんだけどな」


 バルーはそう言われて口をギュッと閉め、頬を赤くした。


「ちょっとー! からかってるでしょ!」


「はいはい。デート楽しんでー」


 ナーデルが呆れたように言った。


「じゃあ、行きましょうか」


『御免なさい』


「大丈夫。お義父さん強いから」


 サプナはバルーとナーデルを見た。

バルーは優しげな表情を浮かべていたが、ナーデルはかなり不機嫌そうだった。





 マルクはエリーゼと二人で廊下の先へと進んでいく。


「この部屋はどうだ?」


 脇にいくつか部屋があり、エリーゼが扉に機械を当てて、部屋の中をスキャンしている。


「密閉空間か。何か動いてるな」


 エリーゼはよく出来ましたとばかりにマルクの頬を撫でた。


「人が居るのか?」


 エリーゼは再度扉に機器を押し当てた。

熱源の形がおかしい。

生物の熱を感じるが、形が動物らしくない。


「椅子、タンス……?」


 付けている眼帯経由で、形を理解する。

家具の形だ。


「……何で動いている?」


 この部屋に入るのは控えておこうと、マルクは扉から離れた。

 通路はまだ続いている。


 マルクは通路全体をスキャンした。

いくつか罠のようなものを発見し、先ほど感じた動く家具の存在も感じるが、まばらに人の形の熱源も感じる。


「……吸血種か?」


 人間か吸血種かは、熱源だけでは判断が付かない。

彼らの血液を採取出来れば確認可能だろうが、マルクだけでは相手の正体を突き止められそうにない。


「……俺、これを上でやっておけば、罠に掛からなかったじゃねえか……。間抜けー……」


 サプナの機嫌取りに夢中になっていたことを思い出し、頭を抱える夫の頭を、エリーゼは愛しそうに撫でた。





 バルーたちも通路の奥の方へと進む。

 相変わらずサプナが先行していく。


「かなり焦ってるね」

「ええ」


 バルーとナーデルはついて行きながら、そう小さな声で話した。


 サプナはバッと勢いよく、近くにある扉を開く。

その瞬間、葡萄の匂いがバルーの鼻を掠めた。


「あ!待って!」


 部屋の中に彼女が入っていき、勝手に扉が閉まってしまう。


「まずい!」


 扉が開かない。


 完全に分断されてしまった。

扉に攻撃しようとしたが、下から銀文字が現れ、動きを止める。


『私、問題、無い。通路、発見。別行動、推奨』


「え! いや、だって……、その部屋から葡萄の匂いがするんだ!危ないよ!」


 バルーは再度攻撃しようとしたが、再び銀文字が伸びてきた。


『問題、無い』


「行きましょう。何か考えがあるのよ」


「わ、分かった」


 彼は戸惑いながらもナーデルと二人で進むしかないと決断した。



 サプナは静かに、部屋の中へと目を向ける。


「久しぶりだなァ? 予言の子、サプナ様よォ」


 金髪碧眼に健康的な肌色の、口元に傷がある男が話しかけてきた。


 サプナは静かに彼を睨みつける。


「何だァ? ジルヴァ教の奴らと仲良しごっこかァ? あの男、オメェを庇って穴に落っこちたなァ? どういう手を使って掌握しやがった?」


 男は下卑た笑みを浮かべて、いきなりサプナの尻を右手でギュッと掴んだ。


 しかし、彼女はそんなことで狼狽えない。

彼のことを真っ直ぐ睨みつけている。


「アイツはそんな男じゃない、って言いたいみてェだな? 肩入れかァ? え?」


 サプナはため息をつきながら銀文字を宙に書く。


『ダンピール、監視、継続。不自然、行動、発見時、即処分』


「……ははッ! オメェもほんとひでェ女だなァ。ダンピールさんも仲間に命狙われて可哀想なことだ」


『私、侯爵(マーキス)、為、何でも、する』


 男はそれを読んで爆笑した。


 サプナは銀文字で冷酷なことを書きつつも、ほんの少し悲しそうな表情をしている。


侯爵(マーキス)様の右腕はこのオレだァ。あんま出ばんじゃねェぞォ? クソアマ」


 男は憎々しげにサプナを見ると、その部屋にあるもうひとつの扉の先まで歩いていってしまった。


 ホッと肩の力を抜いたサプナは、触られた場所をサッサッと手で払った。





「うーん。やっぱりサプナさん、わざと罠に掛かろうとしてたよね」


「わたしも同意見よ。お父さまを分断するのが目的ではなく、自分が離脱したかったのでしょう」


 バルーとナーデルは罠に掛からないよう、匂いを嗅ぎながら怪しい場所を避けつつ歩いている。


「ってことは、この城で起きていることを理解した上で動いてるってこと……なんだね」


「……あの子は敵に回るかもしれないわ。覚悟を決めておいた方がいいわね」


 それを聞いたバルーの頬に一筋の涙が流れた。

ナーデルが右手でそれを拭う。


「……仲良くなれたと思っていたけれど、さみしいわね」


 そっぽを向きながらそう呟いた。


「言えてなかったんだけど、サプナさんの靴から葡萄の匂いがするんだ」


「……あら、そうだったの」


「……何か事情があるんだろうと思って、……話してくれると思ってたんだけどな」


 バルーは涙を拭いながら言った。


「その靴の匂いと、ここで時々感じている葡萄の匂いが似ている気がするんだ」


「匂いに違いがあるの?」


「うん。確実なことは言えないんだけど、上位種と普通の吸血種の違いは分かりやすいかも。サプナさんの靴からは上位種の血の匂いを感じるんだよね……」


 ナーデルは考えるように顎に手をやった。


「そうなると、ラファエラのように特別な能力を持っている吸血種が、この城を支配しているということになるのね……」


「僕たちの知らないところで、吸血種たちもこちらと戦う為に動いているのかな……」


 そんなことを話しているうちに突き当たりまで来た。

大きな扉が目の前に現れる。


「葡萄の匂いだ」


「下がって。わたしが開けるわ」


 髪を伸ばして器用に取っ手に巻き付け、二人は後ろの方に下がりながら扉を開いていく。


「ガウウッ」


「!」


 突然部屋の中から巨大な黒豹が飛びかかってくる。

バルーは横に跳躍して攻撃を避けた。


 取っ手から髪を解いたナーデルは、赤黒い毛の黒豹が床を爪で深く抉ったのを見て、緊張するような表情を浮かべた。


「何だ……。何か変だ」


「どうしたの?」


 バルーは鼻をくんくん動かしている。


「この黒豹、二種類の葡萄の匂いがする」


 二人の間に緊張が走った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ