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【完結】銀と血のダンピール 〜吸血鬼殺しの怪物になった、家畜神父の物語〜  作者: 岫住胡乱
第三章 血塗れの因縁

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⑧子どもたちの言葉

 飢餓状態になったバルーはサプナを一瞥したが、彼女ではなく、銀の壁に包まれているラファエラに向けて威嚇するような唸り声をあげ、近づいていく。


「バルー! 俺の言葉が分かるか?」


「グルルルル……」


 唸り続けてはいるが、真っ直ぐマルクの目を見て、何を言おうとしているのか聞いている。


「今から俺とサプナの二人が隠れて、この壁を解除する。そしたら思う存分暴れていい。分かったか?」


「バウッ」


「よし、えらいぞ。サプナ、俺の後ろに来い」


 彼女が後ろに下がると、マルクが機械腕のエリーゼから火炎放射器のように銀色の液体を射出し、二人を覆い隠す。


 硬化して完成した銀色のシェルターの中で、マルクはラファエラを包んでいる壁の硬化を遠隔で解いた。


 液体を被った彼女の悲鳴が上がるが、致命傷ではない。

 理性を失ったままの状態でバルーに飛びかかり、喉元に齧りつこうとする。


 だが、大人しくやられるはずもない。


 ナーデルの髪が赤く染まり、筒のような形へと変形した。

  筒の中心から、銀と血が混ざったような砲丸が生まれ、ラファエラに向かって放たれる。


 顔面でまともに受け、半分失われたが、上位種なだけあってそれだけでは死なない。


 顔の血から星球を生み、バルーに向かって振り払うように飛ばした。


 狂犬と化した青年は一旦距離を取り、それを避ける。

ナーデルは追加の砲丸を敵に向かって発射した。


 飢餓状態のせいで本能的にバルーの血を求めてしまったのだろうか。

 ラファエラは砲丸を口で受け止めたが、それには血だけでなく銀も含まれている。


 理性を失って訳が分からなくなっている彼女は、混乱しながら砲丸を吐き出した。


「ぐううっ……」


 誰かの血を吸わないと死ぬ。

本能が叫んでいる。


 ラファエラは銀のシェルターの方に飛びかかった。

中にいるマルクとサプナの血を飲んで回復しようと考えたのだ。


「やめなさい!」


 ナーデルが赤い髪を解いて伸ばし、ラファエラの両手足を縛りあげる。


 そのまま引き寄せ、残った髪で作った長剣を突き付ける。

 いつもの長剣とは違い、血呪いを使って硬化している為、刺されば確実に殺せる。


「っ……!!」


 ラファエラは血呪いを全身に使った。

だがいつもの能力ではなく、どの吸血種も扱うことが出来る変形能力を使用した。


 ナーデルの髪の剣が床に刺さる。


 金髪の美少女だった吸血種は、トカゲのように細長い身体へと変形していた。


 頭の先から足先まで全てが細長くなり、拘束を擦り抜け、床の上をみっともなくダバダバと音を立てて這う。


 この廃病院で一番最初にバルーを捕縛していた部屋に女性の遺体を残してある。

そいつの血を吸って回復しろと本能が言っている。


 部屋の入り口の方まで這っていった彼女の後ろから、ワイヤーが飛んできた。


 それはしっかりと首に巻き付く。


「ぐううぅっ……」


 二本目のワイヤーが胴体の辺りに巻き付き、勢いよく引っ張られる。


 銀色のシェルターに小さな穴が空いており、そこからサプナのワイヤーが伸びている。


 引き寄せられた勢いで銀の上に叩きつけられ、背中の方から少しずつ身体が爛れていく。


 ラファエラは悲鳴をあげた。


 金髪に赤い目の、美しく自信家な女性。

その面影は微塵もなく、頭の半分が削れた細長い謎の生命体と化した彼女は、中途半端に理性が戻ってきていた。


 吸血種はダンピールと違い、血呪いを使って戦った方が有利な為、飢餓コントロールなどしたことがなかったのだ。


 自分の状態を確認したラファエラは絶望した。


「見、見ないでぇえええッ!!」


 好きな男にこんな姿を見られていることが、死ぬほど恥ずかしかった。


 そこに、ナーデルが声を掛ける。


「おまえの血。全部使ってあげる」


 ナーデルの髪の毛が食虫植物のような形へと変化した。


「させるかッ……!」


 ワイヤーを引き千切ろうとするラファエラの頭に、機械腕の砲口がピタリと当てられる。


「悪いな。俺もお前と因縁があるんでな」


「へ?」


 マルクが大量の弾丸を放ち、空薬莢が辺りに散らばる。

 足先からはナーデルの髪がバクバクとラファエラの身体に噛み付くような動きをし、血を吸っていく。


「あがぎがががが」


 バルーが口輪の向こうからラファエラの血を舐めようとするが、それは叶わない。


 こんなはずではなかった。


 知らないオヤジとただのガラクタ人形に、こんな惨めな姿のまま殺されるなんて!


「私……あがッ……! 何も……! 悪いことなんてあがが……! してな……! がが」


 赤ん坊の頃に血呪いを人に掛けたこと?

赤ちゃんなんだからしょうがないですよ。ただのイタズラじゃないですか。


 バルーの施設をめちゃくちゃにしたこと?

あれは彼が私をフッたのが悪いんですよ。それまで人間のふりをしてあげてただけマシですって。


 女王(クイーン)が「同胞がまた殺された」とか言ってたけど、それならあの女がバルーを殺せば良かったじゃないですか。

 計画が上手くいかないのを人のせいにするなんて、随分な他責思考じゃないですか?


 バルーを今度こそ恋人にしようと思っていたのに……!

私……、とっても可愛いのに!どうして!?


「何で、人形は良くて、がが、私はダメ、なんだこのクソ野郎がッ! あがッ」


 ナーデルに身体の半分を吸われながら、マルクの弾丸を受けながら、ラファエラは吐き捨てるように文句を言って、息絶えた。


 めったにないことだが、吸血種も失血しすぎれば力を失い、死ぬ。

 加えて頭に銀の弾丸を浴びせかけられたのだから、これでもだいぶ生き永らえた方だ。


 ラファエラの死体は血がほとんどカラカラになって、干物みたいだった。


「さようなら、ラファエラさん」


 ナーデルが吸った分の血がバルーの中に入り込み、理性が戻ってくる。


 口輪が眼鏡の形に変形し、上半身の拘束も解ける。


「自力で戻ったの……?」


「彼女の血が普通と違うのかもしれない。力が満ちるような感じがする」


「それは……大丈夫?」


 バルーは嬉しそうに微笑みながら、しっかりと頷いた。


「カソックが力を制御してくれているし、問題ないよ」


 そう言いながらナーデルの頭を撫でた。


()()()()()に、話しかけたら、反応あるのかな?」


「……どうかしら。分からないわ」


 ナーデルの身体を持ち上げて、胸に耳を当てる。


「みんなは……バルーお兄さんが、あの時あなたたちに危害を加えたから、苦しくて心中してしまった……?」


 何も聞こえない。

 代わりにナーデルが首を横に振った。


「わたしの記憶ではないけれど……、それは違うって思い出せるわ」

「じゃあ、どうして死んでしまったの?僕は……みんなに生きていてほしかったよ……」


 鼻を啜りながら、彼は泣いていた。

そんな青年の頭を、少女人形が優しく撫でる。


「みんな、『バルーお兄ちゃん』のことが大好きだったからよ」

「……?」


 ナーデルはバルーの頭を優しく抱擁した。

まるで母親のように、大切なものが壊れてしまわないように。


「悪いことをしている自覚はあるのに、殺戮を止められなくて辛かったのもあるけれど」


 ナーデルは自身の胸に手を当てた。


「美味しそうな匂いのおまえを見て、その血が欲しくて堪らないと思ったから、『わたしたち』は死ぬことにしたのよ」


「バルーお兄さんは、みんなになら殺されても良かったのに……」


「お互い様ね」


 バルーは泣きながら、目を伏せた。


「今なら分かるでしょう? ……吸血種に命令されて、止められなくなってしまった後天性吸血種は処分対象だって」


「……」


「『わたしたち』も、それならあなたの腕の中で死にたかったのよ。結果、一緒に居られて、仇も討てたのだから、悪いことばかりじゃないわ」



「ナーデル!」


 話している二人のもとに、マルクが腕を広げて近づいてくる。

銀のシェルターから出てきたらしい。


 彼女はジャンプして、父の腕の中に飛び込んだ。


「父さんに顔を見せてくれ!」


「もうちょっと早く来なさいよ! おまぬけお父さま!」


「そう言うなよ! ……帰ったら新しい素体に移植しような!」


 再会を噛み締める二人を、サプナがいつものジト目で眺めている。


「サプナさん」


 彼女が振り向くと、そこにはいつになく真面目な面持ちのバルーが立っていた。


「その靴は贈り物?」


 サプナは何も答えない。


「教会では持物検査と、血液検査を徹底して行うよね。内部に吸血種を潜り込ませない為に」


 サプナは何も言わない。


「サプナさんが所属している『銀の心臓』は特に、医療行為を司る部署だから、教皇聖下や枢機卿猊下から検閲もされているはず」


「……」


「だから、教えてほしいんだ。どうしてその靴から、『葡萄の匂い』がするのか」


 サプナはバルーを見た。


『時期、未到達』


 それだけ答えた。





 その部屋は、ジルヴァ教の聖職者としては異様だった。


 室内のどこを見てもジルヴァラインに関連するような装飾は無く、あるとすれば着せられている修道服くらいなものだ。


 その代わりに存在しているのはクロヒョウの置物や、刺繍された寝具、タペストリーなど。


 彼女がこの動物を神格化しているのが人目で分かるような部屋だった。



 机の上に一通の手紙が置かれている。

 修道女はペーパーナイフを使ってそれを開けた。


『親愛なるサプナ・アートマー様』


 サプナは愛おしそうに書かれた文字を撫でる。


『君にプレゼントした靴、使ってくれているようで安心した。お陰でジルヴァ教内部の動きが手に取るように分かって助かる』


 信仰する神を違えたふりをしてまでここに居るのは、ある重大な使命の為だ。



 あの御方は私の苦悩を理解され、こうしてお褒めくださる。

そのなんと喜ばしいことか!



『さて本題なんだが、当初の計画通りパンテル村の村民は消えた』


 その一文を読んで思わず笑みが浮かぶ。

我々にとって、必ずやり遂げなければいけなかったことだからだ。


『そちらの作戦も上々だと確認出来ている。計画通りダンピールは成長した。そろそろ時が来たと判断していいだろう』


 サプナは手紙を置いた。



 しゃがみ込み、額の前で両の手の平と甲を、地面に平行になるように重ね合わせる。


『ヘルター様の御子。我が愛しの侯爵(マーキス)


 彼女の瞳はいつになく輝いている。


『あなた様の、仰せのままに』



 置かれた封筒の表には、教皇と枢機卿の、検閲済みを示す印が押されていた。

◇◆◇


ここまで読んでくださってありがとうございます!

これにて3章は終了となります!

サプナは一体何を企んでいるのか……、次章明らかに!


もしよろしければ、下にある☆☆☆☆☆にて、正直なご評価を頂けますと幸いです!


また、ブックマーク登録もして頂けますと、大変励みになります!


どうぞよろしくお願い致します!

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