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第九話 皇女の翼

一体いくつになれば自分の思い通りになるのだろうと,コリーンは苛立っていた。


この前の対面式も自分以外の王族は満足し,宮廷の女達には嫉妬された。全く,コリーンにとっては有害無益な結婚なのである。次期女帝といえども,他の可憐な皇女たちのように政略結婚の駒の一つに過ぎないのははたから分かっていた。コリーンは一種の欲求不満を感じていた。そんな時には,こっそりと5歳になったばかりの妹,ナターリアをつれてレクシアスの塔へ行くのだった。


ナターリア・アリステリア(皇女にはテリアがつき,次期女帝はテッドがつく習わしだった)はコリーンとレクシアスのお気に入りだった。無邪気なナターリアはいつもコリーンとレクシアスを癒してくれた。


ナターリアとレクシアスは自分達が兄弟だとは知らなかったが,兄弟以上に仲が良かった。

幼いナターリアはよく質問した。「レックス(彼女はこう呼んだ)はこの塔から出ないの?」

そのたびに,コリーンは俯いたがレクシアスは少し困ったように微笑んだ。


「僕は,君みたいに翼をもっていないんだよ。ナターリア」


ナターリアは自分の背中を見た。そして首をかしげて言った。


「あたしには翼なんてないわ」レクシアスは眩しそうに窓から空を見上げた。


「人は皆,見えない翼をもっているんだよ。ただ,この広い空を飛ぶことは出来ないけどね。

 けれど,その翼を失うと人は外へ出られなくなってしまうんだ。僕はその翼を小さい頃,永遠に失くしてしまった」


そして寂しそうに,ナターリアを抱きしめた。コリーンは微笑ましそうにそれを見守っていた。


「君が僕の妹だったらすごく良いなと思ったよ。ナターリア。君は僕の天使なんだ」


ナターリアは不満げに口をとがらせた。


「翼があるからだわ!!それならコリーンだって天使なのよ!」


レクシアスはナターリアを離して,コリーンに向かって笑った。


「この天使はいつも僕を手こずらせるな!君は特別なのさ,ナターリア。本当だよ」


“特別”と聞くと,ナターリアは機嫌をなおして,それからずっーとレクシアスに向かってぺっちゃくっていた。二人は本当に微笑ましかった。コリーンは相変わらず,白い薔薇を窓に飾ってから,ナターリアの頬にキスをした。


「貴女にはこの白い薔薇のようにいつまでもいてほしいわ。お母様のように,私のようになってはだめよ」


ナターリアはアルセリーナが嫌いだった。そしていつもコリーンに愚痴っては泣いていたのだ。母の名がでると少し不機嫌そうに聞いたが,愛する姉のようになってはいけないと聞いて,驚きながらコリーンを見つめた。


「なんで?どうしてコリーンみたいになっちゃだめなの??」


コリーンは何も言わなかった。ナターリアに返したのは微笑みだけだった。そして背を向けてしまった。レクシアスはコリーンを一瞬見たが,すぐに笑いながらナターリアを抱き上げた。


「さあ,帰ろう。おチビさん。コリーンは疲れてるみたいだからね。きっと他のお姉さん達もまってるだろ」


ナターリアは素直に頷くと,コリーンの手に連れられながら「バイバイ」とレクシアスに手を振った。

レクシアスも振り返した。コリーンは振り向かなかった。


帰り道,ナターリアは黙っているコリーンにたずねた。


「どうして,コリーンはレックスに冷たいの?」


コリーンはハッと顔を赤らめた。


「……そうかしら?私が?」ナターリアは頷いた。コリーンは慌てて言い返した。


「…きっとナターリアにはそう見えるのね。でも大丈夫よ。別に普通。心配しなくていいんだから」


城の裏口にくると,コリーンはナターリアに言った。


「レクシアスのところへ行ったことは,いつもだけど,お母様や姉妹に言っちゃダメよ。言うと,レクシアスから聞かされた,貴女の大事な翼を悪魔にもっていかれてしまうからね」


ナターリアはすくみあがって,しきりに頷いた。コリーンは少し言い過ぎたかなぁとは感じながら,ナターリアを抱きしめ,そして別々に城に入った。


入りながら,コリーンは自分の翼が無くなりかけているのを悟った。








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