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第六話 芽生えたモノ

「僕があの狭い塔に閉じ込められていた時,いつか君をつれていきたいと思っていた場所があったんだ」


手をひく少年の横顔は普段10歳位にしか見えないのに,今日だけは違って見えた。

コリーンと同じくらい,いや,それを少し上回るほどに大人っぽく見えたのだった。コリーンは感じたことのない気持ちに胸がドキドキした。


少年が立ち止まったのは,夕焼けの空の下に広がる,カスティーノ海だった。

カスティーノ海は首都カッセントリノの宮殿からも見える絶景として知られている海だった。

コリーンはその絶妙な美しさに心が奪われ,同時に夕焼けの光に照らされる,美しいレクシアスにも魅了された。コリーンはやがて海ではなくレクシアスを見ていた。


「レクシアス……」


「なんだい?」と聞き返す彼は海をじっと見据えたまま,ゆっくりとコリーンを見た。

コリーンは彼しか目に入らなかった。彼はギリシア神話のアポロンのような一つの彫刻だった。


「貴方……塔にいるときとは別人だわ…。まるで私より年上みたいよ」


レクシアスは微笑んだ。そしてコリーンの髪に触れた。


「君もだよ……コリーン・アリステッド……いつもは姉さんのように見えるのに,今日は妹…いや……………」


コリーンは先をうながした「なあに……?」

レクシアスは首を振った。そしてまた少年の顔つきにもどって言った。


「なんでもないさ…可愛い妹みたいだよ」


海のざわめきが遠くなった。コリーンは妹と聞いて何故かがっかりして,またホッとした。

レクシアスの彼女の手をにぎる力が強くなった。


「いつか……僕が大人になって,あの塔をでたとき,今の僕の夢は変わっているかもね。母さんでない,他の女性を求めるかもしれない……」


コリーンはハッとしたが,それ以上何も言わなかった。

レクシアスはそれだけ言うと,かすかに笑って彼女の手をひいた。もどる場所は,あの塔へ……。



森の手前で,レクシアスはコリーンに微笑んだ。


「今日はおもしろかったよ。また二人で行けたら良いね」


コリーンは虚ろな目で彼を見ていた。私は宮殿に戻らなければいけない。この思いが彼女に重くのしかかる。


「また行きましょう。けれど,もう少し大人になってから。そうしたら,母様から少しは自由になれるから……」


レクシアスは黙って頷いた。そしてにぎっていた手を離し,森に入っていった。

コリーンはじっとその背中を見つめていた。この思いはなんなんだろう。この切ないような,寂しい思いは……。


コリーンは,この謎めいた思いにひどく不安を感じて,それを振り切るかのように走って城に帰った。

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