表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/25

第二十四話 再会のレクシアス


三日後、とうとう弱りきったエレーナ皇女を臣下たちが扉をこわして部屋から運び出し、なんとかことなきを得たが、今度は女帝が部屋に引きこもってしまい宮廷中が大騒ぎだった。


どんなに仲が良かった友人も、身内の貴族達も(もちろんアンドレイも)相手にされず、コリーンは嘆くばかりであった。こんなことをしていてはいけない、と分かってはいるのにあふれる感情をおさえることができず、彼女はナターリアの死とエレーナの憎悪の間でもがき続けていた。無力な自分をどう励まし、奮い立たせてやれば良いのか分からなかった。


彼女の古き友人達は、ある日レクシアスの居所をつきとめ、彼にクリスタリアにきてもらえるよう頼んだ。最初はとまどったレクシアスだったが、やがて彼がスペインを立ったとの情報が友人等にもたらされ、彼らは狂喜した。だが、レクシアスさえもコリーンが拒んでしまったら、もう今度こそどうにもならないと覚悟もしていた。

皇女クリスティーナは仕方なく乳母に育てられることになった。

コリーンは愛する子にさえも興味を示さなくなっていた。

レクシアスの到着をまつ間、国の中で再び国家不信をとなえる者たちがあらわれ、内政だけでなく国の雰囲気さえも乱れていた。


そんなある日、とうとうレクシアスが馬車にのって入城した。

それは極秘として早朝のうちにされた。レクシアスは入城してすぐ、コリーンの私室へ走っていった。貴族の取り巻きは一人もつれていなかった。彼はコリーンと二人だけになりたかったのだ。


「コリーン……?」彼は扉に向かって優しく語りかけた。

しばらくすると、中からかぼそい声が返ってきた。「……レクシアス…なの?」

美しいソプラノの声。レクシアスは感嘆に胸が震えたが、冷静に応えた。

「そうだよ。入ってもいい?」

数分返事がなかったが、やがて扉をあける音がし「どうぞ」とコリーンの声がした。


レクシアスがなかにはいると、そこには髪が乱れ、目が腫れ、急速に衰えた女帝がベッドに横たわっていた。すでに枕には大量の涙がしみついており、びしょびしょだった。だが、彼女は何も気にしていないようだった。「コリーン」

レクシアスはゆっくりとコリーンに近づき、骨が折れそうになるくらいきつく彼女を抱きしめた。

「帰ってきたよ…。僕だよ」

「…レクシアスなのね…?」ほとんど涙声でコリーンがつぶやくと、レクシアスは涙を流しながら微笑み、彼女のひたいにキスをした。すると、みるみるうちに女帝の頬に赤みがさし、目に生気が戻ってきた。

「どうしたんだい?君らしくないな、コリーン。まさかナターリアの死をまだ悼んでるのかい?」

いいえ、とコリーンは首を振った。

「自分の死を悼んでるの」

「自分の死?」レクシアスはききかえした。

「…女帝としての私よ…。もう私は女帝としての威厳も、振る舞いも忘れてしまったの…」

「私は、何もできないの」彼女は繰り返し、それからガックリと首をうなだれた。


二人のあいだにしばらく沈黙がただよい、時間が止まったように音がなかった。

レクシアスはじっと紺碧にかわってしまったコリーンの目を見つめ、それから優しく微笑み、彼女の白い手をにぎった。

「何いってるんだよ…。コリーン。僕は…自信がなくて弱々しいコリーンなんか見たくないんだよ」

コリーンはピクッと肩を動かし、顔を上げたが、すぐに苦しそうな顔になって声を上げた。

「ごめんなさい…!でも私もう限界よ…。好きでもない人の相手して、あれしろこれしろってしつこい重臣達の要望をきいて、国民の誹謗に耐えて…」

「妹の死と私に対する憎悪に耐えなければならないの」

彼女は涙を流して瞳を揺らした。そこには強い悲しみが浮かんでいた。

「ねえ、どうすればいいの?私どうしたらこの国を治められるの?ねえ、どうしたらナターリアは…!」

「やめろ!!」

レクシアスが叫び、そして再び彼女を抱擁した。彼のぬくもりは、冷たい彼女の体にすぐに伝わり、コリーンは力が抜けるのを感じた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ