第二十二話 強固な拒絶
「来ないで」
中からは拒否するエレーナの声が響いてきた。「入ったら死んでやるわ。ナターリアのところへ行くの。みんな悲しませてやる」
一同は皇女の脅しに震え上がったが、コリーンは毅然とした態度でドアごしでエレーナに対抗した。
「やってみなさい。貴女にはできないわ」
返ってくるのは沈黙だった。長い沈黙の末、エレーナとは思えない低い声が聞こえた。
「コリーンに何が言えるの。私の何も知らないくせに」
あの素直で可憐だった少女の言葉とは大違いだった。エレーナは一度もコリーンに反抗することはなかったのだ。ただの一度も。コリーンは何か冷たく痛いものを感じて、声が震えた。
「知ってるわ……」
その言葉には弱々しい響きがあった。すぐにエレーナの勝ち誇ったような声が上がった。
「あなたはずっと私のことを知っているふりをしていたのよ。女帝になってから、あなたは私のことなんか無視してたわ。ドレスが小さくなっていたのをあなたは気付いてたの?私が女官にいっても、あなたは「忙しい」といって聞いてくれなかったわ」
「ナターリアも疎外感をいつも味わっていたわ。私と同じように。なのに彼女はあなたを理解して我慢してたの」
“ドレスが小さい”
はるか昔、エレーナと同じくらいだった頃、私も母にその言葉を言っていた。
気付いてるのか、気付いてないのかわからないような態度をとる母を、私は憎悪していた。あんな女を母だとは思いたくなかった。
なのに、私はあの女と同じ態度をナターリアやエレーナにしていたのだろうか…
「何もいえないでしょう。真実だもの。ナターリアは孤独の中でさんざん苦しんだあげく、死んでしまったのよ。1人きりでね」
エレーナの言葉が、心に深く突き刺さった。頭の中が真っ白になった。何歳も年下のはずのエレーナが、恐ろしくてならなかった。周りの者はただ呆然として立っていた。コリーンはその場にいられなくなり、考えるより先に走り出していた。
“みんな私のせい”コリーンは後悔で胸がいっぱいになりながらも、涙が止まらなかった。