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第十七話 崩御

コリーン・アリステッド皇女がクァール・アレクシオン城を脱走してまもなく,フィンステラウ城は女帝アルセリーナの健康状態で大騒ぎだった。


無論,コリーンとその崇拝者の隠れ家,ペーセッツ邸でも女帝の話でもちきりだった。

オルセンシェール伯爵によると,家臣と侍医が囲む豪華なベッドでコリーンの脱走を聞いて,女帝がヒステリーを起こし,病状が悪化したとのことだった。


侍医も,これ以上の回復は不可能とさじを投げた。

国民達は暴君の臨終を望んでいたため,これを聞くと熱狂して喜んだ。国家への誹謗と中傷をしてきた過激的なダルシャン・クラブはこの勢いにのって首都カッセントリノの町を女帝批判の紙を槍に掲げて練り歩いた。


今や,聡明で高貴なる皇女コリーン・アリステッド・スー・ル・ナルセーシュタノリアの登場を皆が待っていた。だが,その次期クァールス(皇帝はクァール,女帝はクァールスと呼ばれた)はと言えば,ペーセッツの個室でずっと引きこもっていた。


1人で,じっと窓の外を見ているのだ。それ以外はいつも聖書や歴史書を読んでいた。

彼女の支援者および崇拝者達は彼女の消極的態度に不満が隠せなかった。女帝の地位が危うい今だからこそ,後継者であるコリーンが猛勉強をして女帝になる準備をするべきだった。


明日にでも女帝崩御と聞いても,きっと誰も驚かない。

それくらい,現実が押し寄せ,ターフォンヌ伯爵が話しても,コリーンは馬耳東風とでもいうように全く聞いていなかった。


「私は,母が汚した祖国をなおす自身がないのです」


コリーンは伯爵にこう呟くだけだった。










「女帝崩御!!!女帝崩御!!!」


町の新聞売りが朝早くから叫び続けていた。

人々は起きはじめ,新聞売りから新聞や情報をひったくった。


やがて彼らは歓声を上げながら町中を行進した。フィンステラウ城ではといえば,次期女帝の会議の真っ最中で誰もが混乱し,呆然としていた。女帝の臨終はあまりに急だった。


政府がそんなものだから,民衆たちの不謹慎な行進(のちに「カッセントリノのパレード」と呼ばれるほどに)を止める軍隊を出すこともできなかった。


もはや軍隊を送っても止められそうもないこの行進は昼頃になると熱狂的なお祭り騒ぎと化し,暴動も起きはじめた。だが,政府はちゃんとした対策をだせずにいた。皇女コリーン支持者と第二皇女エリザヴェータ支持者に,議会は真っ二つになってしまったのだ。


「国家に対し,反逆的な皇女コリーンを女帝になどすべきでない」


「未熟なエリザヴェータ皇女にはいまのクリスタリアを救うことは不可能である」


さまざまな意見が飛び散り,ぶつかり合い,とうとうエリザヴェータ自身からこの件については身をひくとの伝言が届き,国を二つにしかねなかった問題は終結した。そもそもは,故女帝アルセリーナが決定的な遺言を残さなかったのが問題だった。ここでも,故女帝は批判された。


やがてコリーンの身元が分かると(ターフォンヌ伯爵達の脱走計画は完全にスルーされた)重臣達はコリーンを城に呼んだ。コリーンはしぶしぶながらフィンステラウ城に入った。


行く途中でも,コリーンは国民達に支持された。

そして国民達はコリーンに魅了された。「望まれた者」としてコリーンは帰ってきたのだ。







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