第十六話 決意
シャルルが去ってからちょうど三日目の夜だった。
ターフォンヌ伯爵は約束どおり馬車で暗闇をコリーンの待つアレクシオン城へ向かっていた。
ターフォンヌ伯爵は不安だった。皇女がもしこのことを女帝に密告でもしたら,首を即刻切られてしまう。伯爵だけでなく,少しでもこの脱走に関与したものは死罪になるはずの大仕事だった。
七時半,ターフォンヌ伯爵の馬車は静かに薔薇庭の側で止まった。
伯爵は質素な服装をしていた。これは市民達に気付かれないためだった。こんな夜を豪華な馬車と服でうろついていたら,疑われるはずだった。
ターフォンヌ伯爵は急いで庭に入った。そこに人影があった!
コリーンだった!コリーンはモスリンの薄いドレスに身を包んでいた。顔を隠すためのショールもかけていた。コリーンは伯爵の腕に飛び込んだ。
「殿下!!!」
コリーンは周りをうかがいながら呟いた。
「行きましょう。伯爵。寒くてたまらないわ」
コリーンと伯爵が馬車に飛び乗ると,馬車はもうスピードで走り出した。
コリーンはホッと一息つきながら伯爵に訊ねた。
「伯爵,私のダミーとはどういうことですか?」
ターフォンヌ伯爵はコリーンに向き直った。
「殿下にそっくりだと評判のクララ・デーンという少女です」
「クララは承知なの?」
「ええ。彼女は殿下のためなら身を投げ出しても良いと言っておりました」
コリーンは俯いた。
「私のために無垢な少女が犠牲になってしまうのですね」
伯爵は慰めた。
「大丈夫です。クララは我々の仲間でなんとかいたします。決して悪いようにはしませんので」
「そう。良かった…」
コリーンはそう言うと,背もたれによっかかって眠り込んだ。