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第一話 回想録
1857年 12月11日
サーレ公妃の回想~
「 私がまだ子どもの時……そう,私が皇女だったとき。
母はとても偉大な方でした。生まれながらに華があり,
気品に満ちていて,上品で賢明な方だったのです。
ですが,母は政治には向いていませんでした。
なぜなら,彼女は幼い頃から教育は受けず,ただ隣国に
嫁ぐ道具として育てられたのですから。
私の祖母にあたる,元王妃様は,母を娘とも思わず,
厳しく育てたそうなんです…。
私に見せる母の笑顔からはとうてい想像できないことでしたが…。
母は運命をいつも呪っていました。
政治の才能がない自分をひどく悔やんでおいででした。
確かに臣下や民達の前では厳格な女帝になり,
たしかに物腰良さそうな,正しい政治をするような女性には
見えませんでしたが,忙しい中,私と兄を愛し,育ててくれたのです。
母を……あらゆる階級の人々が嫌いました…。
教育不足で何の罪もない母を……。
好かれようとすればするほど嫌われる母の姿は…
幼かった私の心に,深く刻まれていきました…。 」
1865年 6月18日発行
『忘れ去られた薔薇の回想』 による