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第4章~第1話 ネズミの楽園・ユニバース25①~

 暑い季節は、まだまだ続いているけど、私たちの通う國際高校も二学期の授業が始まった。


 夏休みが終わったあと、合宿所での監獄実験のレポートを提出した生物心理学研究会は、その活動実績が認められ、晴れて正式にクラブ連盟の加盟団体として認められた。


 まあ、実際のところ、被験者の心理状態に深刻な問題を残しかねなかった実験を行ったこと自体が問題されなかったのは、夏休みの前半期間を使って大規模なテストを行わなくても、とりあえず、それっぽいレポートさえ出しておけば良かった、ということなのかも知れないけど……。


 それはともかくとして、今度こそ安定期に入った生心研(せいしんけん)の存在に安心しながら、文芸部の活動日でないこの日、私は、親友の佳衣子と一緒に、久々に第二理科室を訪れた。


「こんにちは、ネコ先輩。夏休みのレポートが認められて良かったですね。これで、生心研(せいしんけん)の活動についても、一安心なんじゃないですか?」


「久しぶりだね、ネズコくんに蚕糸(さんし)さん。キミたちの協力のおかげで、生物心理学研究会の活動も安泰と言ったところだ。これからは、引き続き、生徒のお悩み相談に乗りながら、活動を続けてほしい、とのことだ」


「そうですか! アタシたちの活動が報われてよかったね、音寿子(ねずこ)?」


「そうだね! でも、監獄実験なんて危険な内容が、よく認められましたね?」


「フフフ……ワタシも、少しくらいは世の中の空気というやつを読めるからね。今回は、部活動における暴力問題と、既存の実験に関する疑問点をテーマに押し出した内容でレポートを提出したからね。もちろん、デブリーフィングでアフターケアを行っていることも、キッチリと付け加えてだ」


 誇らしげに語るネコ先輩だけど、桑来さんに対する対応は、あれで良かったのか? という疑問は私の中に残っている。


「これも、音寿子(ねずこ)が、深夜の合宿所に日辻先輩を呼び出してくれたからじゃない? あたしじゃ、男子の看守を止められなかったもん。あのとき、日辻先輩が来てなかったら、看守チームは、もっと暴走してたと思うわ。ですよね、先輩?」


 佳衣子は、ニマニマと笑いながら、ネコ先輩にたずねる。


「ま、まあ、そうだな。ヨウイチを補充人員として呼び出していたネズコくんの起点には大いに助けられたよ。ありがとう」


「そんな……私は、なにもしてませんよ! それより、佳衣子の方がスゴイと思ったよ。二回目の実験で看守の男子たちが、次々に無茶なことを言い出すのを止めようとしてたじゃない? 実験が終わったあとも、真っ先に九院さんや桑来さんに謝りに行って、囚人チームのわだかまりが無くなったみたいだし……」


「ううん……あたしは、看守チームとして、結局なにもできなかったしね……それより、ケンタくんの方を誉めてあげなよ。二回目の実験じゃ囚人チームにいたのに、ムード―メーカーとして、あっという間に看守の男子たちと打ち解けてたでしょ? あたしは、せいぜい数人に頭を下げるだけで良かったけど、囚人としてイヤな想いもしていただろうに、真っ先に相手の看守チームの男子に声をかけに行って、男子たちが、みんなで笑い合いながら朝食を食べることが出来ていたのは、間違いなくケンタくんのおかげだから」


「そう、だったっけ……?」


 あの実験が終わって以降、こうして、じっくり時間を取って、佳衣子と話す機会は無かったので、親友がそんなことを考えているなんて思ってもいなかった。


「ふむ……ネズコくんは、どうやら、幼なじみの戌井くんのことを過小評価しているようだ。これは、相手にとって悲しい事態だろうねぇ……」


 そう言って、ネコ先輩は、ヨヨ……と泣き崩れたふりをする。


「ネコ先輩、余計なことは言わなくて良いです! そういう態度を取るなら、一学期に準備室で行った実験の狙いを全て日辻先輩にぶっちゃけますよ! 実験を行う科学者が自分の思惑で被験者を誘導したり、実験結果を都合よく解釈しようとして良いんですか?」


 私が、ガチ目に反論すると、先輩は、今度は本当に涙目になりながら、すがりつく。

 

「後生だから、それだけは止めてくれたまえ」


 そんな風にコロコロと態度を変える生物心理学研究会の代表者を苦笑して眺めながら、私はたずねる。


「でも、どうして、スタンフォード監獄実験のジンバルドー教授は、故意に看守を煽ることを容認したんでしょうか? 被験者が一般の学生なら、すぐに情報が漏れてしまうことも予想できたのに……」


「あっ、たしかに! 実験を始める前に、気づかなかったのかな?」


 佳衣子が、私の質問に賛同すると、すぐに立ち直ったネコ先輩が答えた。


「その点に関して、スタンフォード監獄実験について調査したフランスの研究者ティボー・ル・テキシエは、ジンバルドーは、電気ショックの実験を行ったミルグラムの研究成果に嫉妬していたのではないか? と主張している。実は、ジンバルドーとミルグラムは、高校時代の同級生という浅からぬ関係の持ち主だったんだ」


「えっ、そうなですか! なんだか、スゴいめぐり合わせですね!」


「まあ、ジンバルドーもミルグラムも亡くなってしまった今となっては、反論する機会のない彼ら自身のことをとやかく言うのは、良くないと思うがね……ただ、監獄実験に限らず、実験の結果が捻じ曲げられて伝わってしまうことは、良くあることなんだが……例えば――――――」


 そう語ったネコ先輩が、続けて言葉を発しようとしたとき、コンコン―――と、第二理科室のドアがノックされた。

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