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第3章~第11話 スタンフォード監獄実験⑪~

 8月2日〜再実験2日目〜


 看守が囚人を識別番号で呼び、食事が質素であるという条件は、初回の実験と変わらなかったんだけど……。


 AM 2:30


 合宿所の3階にある監察官の仮眠室で寝ていた私は、鳴動するスマホの着信音で飛び起きた。


 あわてて枕元に置いていた端末を手に取り、半分くらい寝ぼけたまま、通話アプリの応答ボタンをタップする。


「モニター室に降りてきたまえ、ネズコくん。興味深い活動が始まったよ」


 ネコ先輩の声に「はい、わかりました」と寝言のように答えた私は眠たい目をこすりながら、2階に移動する。

 監視カメラの映像を確認できるディスプレイが並び、館内への放送ができる設備も備えたモニター室に入ると、監房を模した三人部屋の前で、それぞれの囚人が整列している姿が目に入ってきた。


 その異様な光景に、あっという間に目が覚めた私は、

 

「どうしたんですか? いま、夜中の2時半ですよ? なにか、問題でも起きたんですか?」


「いいや、特にトラブルなど起きていないさ。これは、看守が自主的に深夜の点呼を取っているだけだ。一応、ワタシに実施の確認許可は取ってきたけどね」


「ネコ先輩、その点呼を許可したんですか?」


「もちろんだとも。看守は、囚人の扱いに関して、()()()()()()()()()()()()()()()と、伝えている」


「そんな! 囚人は、なにも悪いことをしていないのに!」


 非難するような口調で私が問いただすと、監察官役の上級生は、モニターを見つめたまま、


「これも実験観察に必要なことさ……」


と、無表情のまま答える。


「でも……!」


「いいから、黙ってモニターを確認したまえ」


 ネコ先輩の言葉に、私は憮然としながらモニター室に置かれた丸椅子に腰掛けて、監視カメラの映像を確認する。

 看守の笛と警棒による目覚ましに、囚人たちは当然のように反抗的な態度を示した。


「こんな時間になんだよ?」


「睡眠くらい、ちゃんと取らせろ」


「基本的人権の侵害だぞ」


 口々に反論する囚人メンバーに対し、看守の一人である牛野くんが、唐突に警棒を床に振り下ろして叫んだ。


「担当抗弁! 囚人番号4番、5番、6番! 前に出ろ!」


 突然、番号を呼ばれた囚人の三人は、互いに顔を見合わせながら、自分たちが、なにを言われたのか確認しあっているようだ。


「もう一度言う! 4番、5番、6番! 前に出ろ!」


 その威圧的な言葉に渋々従った三人が無言で前に進み出ると、別の看守の辰巳くんが、さらなる命令を下す。


「4番、5番、6番! その場で腕立て伏せ10回!」


 ふたたび、理不尽とも言える命令を下された三人は、さっきと同じように互いに顔を見合わせるけど、辰巳看守の


「なんども言わせるな! その場で腕立て伏せ10回!」


という一言に従うことにしたらしい。

 三人の囚人、2年生の男子生徒である松田先輩、土屋先輩、一条先輩が無言で腕立て伏せを行っている間、それまで黙っていた三人目の看守である馬渕くんが口を開く。


「今夜から、抜き打ちで深夜の点呼を行うことになった。点呼に呼び出されたら、黙ってすぐに整列するように。なお、自分たち看守に対して少しでも反抗的な態度を取ったり、口答えするようなことがあれば、担当抗弁として、今のように懲罰の対象になるから覚えておくように」


 彼ら三名の看守は、全員1年生であるにもかかわらず、前回の実験の看守と違って、上級生にも毅然とした態度で接しているようだ。いや、この威圧的な振る舞いを毅然とした態度と言って良いかは、個人的にかなり疑問に感じるけど……。


「自分たち看守は、監察官からこの合宿所の秩序を守ることを命じられている。前回の実験では、看守の態度が曖昧だったため、合宿所の秩序がゆるんだ、と監察官が嘆いていた。今回の実験で看守を務める自分たちのチームは、前回と違って、囚人たちに甘い顔はしない。わかったな?」


 腕立て伏せを終えた、三人の囚人がもとの列に戻ったことを確認した馬渕くんは、そう言い終えたあと、囚人たちからの応答が無いことに苛立ったのか、声を荒げて警棒を床に振り下ろす。


「わかったな? 返事は?」


「はい、わかりました!」


 囚人たちからの返答にうなずいた看守たちは満足したような表情を見せ、


「よし! 部屋にもどれ」


と言って、解散をうながす。

 深夜に発生した突発的なイベントは、事態を観察する私に大きなショックを与えたけど、この日のショッキングな出来事は、このことだけにとどまらなかった。


 真夜中の騒動に続いて、朝の食事時のこと―――。


「オレ、牛乳が苦手なんだよ。飲まなくても良いか? 昨日の夜に飲んだあと、腹の具合が悪くてさ」


 囚人番号5番の土屋先輩がたずねると、看守チームのメンバーは、互いに顔を見合わせたあと、


「残食は許されない! 残さず食べて飲め!」


と命令口調で返答する。


 すると、土屋先輩の隣でパンをかじっていた囚人番号4番の松田先輩が、5番と書かれた牛乳パックを掴み、ゴクゴクと一気に飲み干す。


「どうだ? これで問題ないだろ?」


 彼が、不敵な笑みを浮かべると、看守は即座に「担当抗弁!」と声を荒げる。

 その一言に、一条先輩を含めた深夜に腕立て伏せを命じられた囚人たちが一斉に立ち上がる。


 彼らは、腕立て伏せを拒否して、囚人番号札を引きちぎり、ストッキングキャップを脱ぎ捨て、看守を侮辱しはじめた。


「なんだよ、おまえたちナニ様のつもりだ! 外に出ろ!」


 そう言って、囚人と看守、それぞれ三人ずつが簡易食堂から外の廊下に飛び出す。

 そして、その場に消火器を見つけた看守は、ふたたび、


「担当抗弁!」


と声を上げながら、消火器のホースを囚人に向けて煙を噴射する。


 そして、監獄の統制を取り戻すべく24時間態勢で待機している三人の予備看守が呼び出された。さらに、看守たちは反抗した三人の囚人に特別拘置所への収監を命じた。看守の一人がもう一人の看守に「彼らは危険な囚人だ」と言っていた。

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