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第4話 幼なじみが絶対に勝てないロマコメ

「ヨ、ヨウイチ! ナニと聞かれても、ワタシはナニもやましいことはしていないぞ?」


 私を第二理科準備室に招き入れた朱令陣(しゅれじん)先輩は、あきらかに動揺したようすで、男子生徒の問いかけに応じる。


「え〜? ホントかな〜?」


 入学以来、生物心理学研究会という初めて耳にする怪しげな同好会の代表者を名乗る上級生を相手に、彼女と同じ学年(であることは、さっきと同じく学年ごとに別れているタイの色でわかった)の生徒は、男性アイドルのような可愛らしい顔立ちで、疑わしげな表情を作る。


「ホ、ホントだよ。ワタシは、新入生の音無さんの相談に乗っていただけだよ? そうだよな、音無さん」


 同級生の追及に、さらに動揺の色を濃くした朱令陣(しゅれじん)先輩は、私に同意するよう、露骨なアイ・コンタクトを送ってくる。

 

(ここは、話しを合わせてくれたまえ。そうでないと……わかっているな? 乙梨稔珠美(おとなしねずみ)先生?)


 なかば、脅迫に近いプレッシャーを感じながら、あらたに登場した上級生に色々と質問をされるのも面倒なので、ここは、話しを合わせることにした。


「えぇ、そうなんです。実は、今日の昼休みに、幼なじみの男子に突然の告白を受けてしまいまして……それで、モヤモヤして困っていたところを朱令陣(しゅれじん)先輩が、生物学と心理学的な見地(?)から、相談に乗ってくれていたんです」


 どのみち、悩みの内容については追及されるだろうということを見越して、私は自分が相談した内容の趣旨を簡単に説明することにした。あらかじめ、断わっておくけど、これは、決してモテ自慢をしたいなどというヨコシマな意図はないので、そのことを理解してもらいたい。


「ふ〜ん、そうだったんだ。それは、困ったんじゃない? 小さいころから一緒に過ごしてきた相手は、()()()()()()()()()()()()()()()よね。幼い頃ころからともに育った男女は、恋愛関係になりにくいっていうし……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「へ〜、そうなんですか?」


 軽く返事をしたんだけど、私はすぐに、ヨウイチと呼ばれた上級生男子のいまの一言で、第二理科準備室の室内において、その精神に痛恨の一撃のダメージを食らった人物がいることに気づいた。


「はは、そうだな、ヨウイチ……ウェスターマーク効果という心理現象をもとに、幼なじみとは恋愛にならないという心理学的知見を彼女に紹介していたところなんだ……」


 あからさまに青白い表情をしながら、健気に同級生の言葉を返す女子生徒のようすを眺めながら、私は自分の直感を信じて感じたことを問いかける。


「あの〜、ずい分と仲が良さそうに話しているように見えるのですが……もしかして、お二人は、幼なじみだったりしますか?」


 なにせ、今日、初めて会ったばかりの上級生が相手なので、慎重に言葉を選びながらたずねてみたんだけど、私の洞察力は、なかなかのものだったらしい。


「キミは、音無さんって名前だっけ? 良くわかったね。ボクの名前は、日辻羊一(ひつじよういち)禰子ねことは、自宅が隣同士で幼稚園の頃からの知り合いなんだ」


「そうなんですか! 私は、1年1組の音無音寿子と言います。よろしく、お願いします」


 私が、日辻先輩に笑顔で返答すると、別のところから思わぬ声が返ってきた。


「そのとおり! 音無さん、キミは良く理解(わか)っている!」


「わっ! ビックリした! なんですか急に? 私が、ナニを良くわかってるんですか?」


「ナニをって……さっき、キミ自身が、自分で口にしたじゃないか? 『ずい分と仲が良さそうに話しているように見える』と。そうだよ、ワタシとヨウイチは、唯一無二と言って良い仲なんだ」


「は、はぁ、そうですか……」


 朱令陣(しゅれじん)先輩の相変わらずのゴーイング・マイウェイな言動にあきれながら返答すると、女子生徒の幼なじみである上級生は苦笑しながら、彼女をフォローする。

 

「まあ、小学校以前から付き合いにある友だちは禰子だけだから、そういう意味では、唯一無二かな?」


 そんな二人の会話を聞いていて、私の直感は確信に変わった。


(そういうことか……ネコ先輩が、やたらと幼なじみとの関係性にこだわっていた理由は―――まあ、ヨウイチ先輩は、たしかに見た目も良いもんね……)


 そんなことを考えていると、アイドル並みの容姿を誇る上級生男子が声をかけてくる。


「そうだ、音無さん! もう、入部する部活動は決まっているの? 良かったら、生物心理学研究会に入部しない?」


 突然の勧誘に、「えっ?」と、驚きの声をあげると、上級生女子も幼なじみに賛同する。


「それは、良い! さすが、ヨウイチ! ナイスアイデアだ!」


「いや、そんなこと急に言われても、心の準備が……日辻先輩も、生物心理学研究会のメンバーなんですか?」


「うん、実はボクは家庭科料理研究会と兼部をしていてね……禰子を助けてあげたいけど、なかなか手が回らないんだ。もし、忙しくなければ、だけど……生物心理学研究会の活動を手伝ってくれないかな?」


「はぁ……ただ、そう言われましても、私は完全な文系人間ですし、生物学のことも心理学のことも、まったく、わかりませんよ? 他の生徒をあたった方が良いと思いますけど……」


 イケメンの日辻先輩の申し入れを断るのは忍びない気もしたんだけど、その申し出をやんわりと勧誘を断ろうとすると、一方の上級生女子の方は、彼女の幼なじみには聞こえないような小さな声で、とんでもない提案をしてきた。


「まあ、早まるな音無さん、いやネズ子。キミは、昔から知り合いの男子に告白されて困っているだったな? 心理学の知見を応用すれば、相手が好む異性のタイプを変えることも出来るんだ。ワタシの行う実証実験で、キミの幼なじみクンの好みの女子のタイプを書き換えて、キミから注目を逸らすようにしてみないか?」


「えっ、相手が好む異性のタイプを変える、なんて……そんなことが出来るんですか!?」


「あぁ、もちろん! さあ、お楽しみの実験の時間だよ!」

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