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第2章~第11話 蛙化現象⑧~

「――――――というわけで、昨日の放課後は、散々な感じだったんですけど……私が金野さんに提案したことは間違っていなかったでしょうか?」


 翌日の放課後、いつものように第二理科室に顔を出した私は、前日の報告を行うとともに、自分が金野さんに話したことが、彼女をより苦しめることになっていないか気になったため、ネコ先輩に相談を持ちかけた。


 そんな風に、アドバイスを求めると、彼女は、


「ふむ……なるほど、そんなことになっていたのか……どうりで、今日の我がクラスは、どんよりとした雰囲気が漂っていたわけだ」


と、独り言のようにつぶやいたあと、私を安心させるようにこう言ってくれた。


「ネズコくん、キミは金野さんに余計なことを言ってしまったんじゃないか、と気に病んでいるかも知れないが、その心配は無用だと言っておこう」


「そう言ってもらえると、ちょっと、安心です。でも、ネコ先輩は、どうして心配しなくて良いと考えているんですか?」


「ん? そうだな……まずは、キミ自身が『金野さんと加絵留くんの関係が、このまま終わってしまったら、彼女は、このあともずっと、蛙化現象に苦しむことになる』と考えたことは全面的に正しい。蛙化現象に陥る要因のひとつに、過去の恋愛のトラウマというものがある。過去の恋愛で傷ついた経験や、捨てられた経験がある人間は、相手に深く信頼されることや自分を深く知られることを避けようとして、相手との距離を縮める行為に嫌悪感を抱くからだと考えられている。金野さんが、ここで加絵留くんとの関係を見つめ直すことは十分に意味があることだ」


「そうですか。私、とっさに色んなことを金野さんに言ったと思うんですけど、間違っていなかったんですね」


「あぁ、それとともに、重要なのは、金野さんが自分が恋人になる相手と、どんな関係になりたいかを考えておくことだ。これもキミが彼女に伝えたことだったな。独りよがりになるのは良くないが、片思いに満足している人間は、好きな人に振り向いてもらうことや付き合えることがゴールになってしまうからな。繰り返しになるが、片思いをしているときが楽しいので、相手から好意を向けられて片思いではなくなってしまうと嫌悪感を抱いてしまうんだ。だから、片思いで満足している自分を受け入れたうえで、自分自身と向き合い『どんな恋愛をしたいのか』を真剣に考えて、付き合った後のことを理想ではなく現実として具体的に想像することが大切なんだ」


「なるほど……でも、そうすると、私は、ケンタと恋人関係になりたい、とは考えていないので、この方面では金野さんのチカラになれることは無さそうですね」


 私は、人間関係に悩める上級生を手助けできなさそうだという現実に、ため息をつく。


「まあ、そんなに肩を落とす必要もないさ。キミは十分に彼女のチカラになっていると思うよ」


「う〜ん、そうだと良いんですけど……ちなみに、ネコ先輩は、日辻先輩とどんな風にお付き合いしたい、とか理想みたいなものはあるんですか?」


 参考までに……ということで、何気なく話しを振ってみただけなんだけど、ネコ先輩は、急にフニャリと表情を崩して、


「な、なんてフシダラなことを聞くんだキミは!? だが、そんなに気になると言うなら仕方がない。ちょっと実演してみよう」


と言ってから、宇佐美先生の相談に乗ったときと同じネズミのパペットを持ち出した。ちなみに、先生によって首と胴を引きちぎられたマミちゃん役のパペットは、手芸部の手によって緊急出術を受けたあと、準備室で大事に保管されている。


 ◆


 ナレーション:毎朝の通学時間、今日も彼と待ち合わせ。いつものように先に着いて待っていると、後ろから突然、彼の声が聞こえる。


 雄ネズミ:「おはよ。今日も可愛いね」


 ナレーション:振り返ると、少し照れたように笑う彼の顔。毎日の挨拶が、特別な朝の始まりになる。そして、周囲に気を使いながら、こっそりとお互いにハグ。


 雄ネズミ:「ネコ、今日もがんばろうね」

 

 雌ネズミ:「うん、ヨウイチ(頬を染める)」


 ナレーション:登校時のホームでの出来事。電車を待っている時、いつもより混んでいるホームで、彼と体が触れ合うくらいの距離になる。


 雄ネズミ:「人多いね。危ないから、ボクの後ろに隠れて」


 雌ネズミ:「うん、ヨウイチ(頬を染める)」

 

 ナレーション:そう言って、自分の体で人混みから守ってくれる。彼が自分を気遣ってくれていることが伝わってきて、登校する時間でも彼に守られている安心感に心が満たされていく。


 ナレーション:学校の休み時間、少しだけ席を外して教室に戻ってくると、机の上に小さなメモと、ワタシの好きなお菓子が置いてある。メモに書かれているのは……


 雄ネズミ:「いつもありがとう。これ、よかったら食べて」


 ナレーション:少し離れた自分の席から、にっこりと微笑んでくれる彼。さりげない優しさが、一日を幸せな気持ちにしてくれる瞬間。


 ナレーション:放課後、下校時に突然の雨に降られてしまい、持っていた小さな傘に二人で入る。肩が触れ合う距離感が心地よく、静かな雨音だけが響いている。


 雄ネズミ:「ちょっと濡れちゃったね。ボクの肩、空いてるからもっとこっちに寄っていいよ」


 ナレーション:そう言って、そっと引き寄せてくれる彼。


 雌ネズミ:「あっ……(頬を染める)」


 ナレーション:顔を見合わせると、お互いに少し照れくさそうな笑顔になる。


 ナレーション:そして、夜。一日が終わって、ベッドに横になりながら今日あった出来事を話す時間。他愛もない話をしているうちに、眠くなってくる。


 雄ネズミ:「ネコ、今日も一日お疲れさま(と言って口づけをする)」


 雌ネズミ:「うん、ヨウイチもお疲れ(頬を染める)」


 雄ネズミ:「おやすみ。いい夢見てね」


 ナレーション:そう言って、最後に額にキス。腕枕をしてくれたり、ぎゅっと抱きしめてくれたりするのも、安心感があって幸せな瞬間。


 ◆


 パペットが織りなすシチュエーションの数々は、私の背中にゾワゾワと鳥肌を立たせるのに十分な内容だった。


 そして、色々とツッコミを入れようと口を開きかけた瞬間、第二理科室のドアが開いて、ネコ先輩と私の良く知っている声が聞こえてきた。


「ずい分と楽しそうな声が聞こえてきたけど、ナニしてるの禰子(ねこ)?」


 それは、妄想……もとい、パペットを使った寸劇でヨウイチと呼ばれていた雄ネズミのモデルとなっている(と推察される)男子生徒のモノだった。

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