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どうして、その名前を知ってるんですか!?

「ど、ど、どうして、その名前を知っているんですか?」


 上級生(であることは学年ごとに別れているタイの色でわかった)に、いきなり自分の名前を呼ばれた以上に、なぜ、親友の佳衣子(かいこ)をはじめ、数人にしか知らせていないWeb小説サイトで使っている筆名(ペンネーム)(当然、幼なじみの犬太にも伝えていない)を面識の無い相手に言い当てられるのか?


 あまりに突然のことに、私は犬太に告白(?)を受けたとき以上にパニックになっていた。


「どうして、キミの名前を知っているのかだって? まあ、いいじゃんそういうの」


「良くないですよ!」


 面倒くさそうに、ボサボサのショートボブの髪の毛をクシャクシャと掻きながら答える相手に、私は野党の女性議員のごとく反論する。すると、性別不詳の上級生は、急にこちらに責任を転嫁してきた。


「この第二理科室で心穏やかに過ごすというワタシの平穏な昼休みのルーティーンを崩したのは、キミ自身とクラスメートの戌井犬太(いぬいけんた)とかいう生徒だろう? キミたちには、ワタシの穏やかな日常を破壊した責任を取ってもらわなければいけないと考えているのだが?」


「な、なにを言ってるんですか? そんなの言い掛かりです! 私は、()()()()()()()()()()()()()()()()に、一方的に告白されただけなんですよ! 言ってみれば、私は被害者です! 責任を追及したいなら犬太に……私のクラスの戌井くん相手にしてください!」


 私は必死に、自分には一切の責任が無いことをアピールする。実際、自分にとっては、迷惑でしかなかった犬太からの交際の申し出によって、これ以上のトラブルに巻き込まれるのはゴメンだ、という気持ちがある。

 ただ、こちらのそんな想いとは無関係に、私の発言は、謎の上級生の逆鱗に触れてしまったようでもあった。


「ほう……()()()()()()()()()()()()()()()()に、()()()()()()()()()()()か――――――なかなか、面白いことを言うじゃないか? そんな輩には、少々、()()()()る行為が必要なようだ。よろしい、それでは、キミが「小説家になろう」に投稿を続けている()()の数々のタイトルを校内のグループLANEに晒そうじゃないか?」


「はっ? いったい、なにを言って――――――?」


「ふむふむ……なるほど――――――


『山田くんと佐藤くんの純情な日々』

『幼なじみの僕は、君にだけ秘密の恋をする』

『上司と部下の甘い駆け引き』

『屋根裏部屋の片隅で、君と出会う』

『星降る夜に、二人だけの秘密を』

『君の香水は、僕だけのもの』

『僕を泣かせる君に、もう一度だけ恋をする』

『嘘つきな君の隣で、僕は永遠を誓う』

『切ない雨音は、君の心を知っている』


最近ではメロい、というのだったかな? なかなか、興味深いタイトルが並んでいるじゃないか?」


「ギャ、ギャ〜〜〜〜〜〜〜〜!」


 犬太に告白されたとき以上の声量が、廊下に響く。


「や、やめて下さい! いったい、なんの恨みがあって、そんなことするんですか?」


「別に恨んでなどいないさ。ただ、ワタシは幼なじみという得難い存在を相手に、ぞんざいな扱いをする人間を許せないだけだ」


「それが、恨んでいるって言うんですよ。プライバシー情報の漏洩はやめて下さい」


「うむ、たしかにそれはそうだ。さっき、少し内容を読ませてもらったが、アルファベットのBとLの要素が強い物語が外部に漏れてはたいへんだろうからな」


「うぎゃ〜〜〜〜〜〜〜〜! な、なんで読むですか? 死なせて! もう、ここで私を死なせて下さい!」


 校庭に面する廊下の窓を開け、私は身を乗り出そうとする。すると、傲岸不遜を絵に描いたような言動の上級生も、さすがに反省したのか、窓に手を掛けた私の身体を後方から抱き寄せる。


「まあまあ、落ち着きたまえ。こんな所から飛び降りられたら、いくらワタシでも寝覚めが悪い。全世界に向けて公開している小説を読んだことを謝るつもりはないが、情報を拡散することはしないと約束しよう」


 その一言に、少しだけ心の平穏を取り戻した私は、背後の上級生に確認する。


「本当ですね? 私の小説を拡散したら、あなたのことを一生、恨みますからね?」


「わかった、わかった。約束するから、まずは窓から離れたまえ。そのうえで、ワタシの話しを聞いてみないか?」


 落ち着きはらった声をかけられたことで、冷静になった私は、窓にかけていた手を離し、あらためて後方の上級生に向き直る。


「自己紹介が遅れてしまって済まないね。ワタシは、2年の朱令陣禰子(しゅれじんねこ)という。この第二理科室で活動を行っている生物心理学研究会の代表を務めている」


 そう言って、朱令陣先輩は、右手を差し出す。


「は、はあ……どうも……ところで、生物心理学研究会って、なんですか? 先日のクラブ紹介では、聞かなかった名前だと思うんですけど?」


 そう答えたように、実際、私は一週間前に体育館で行われた國際(こくさい)高校のクラブ紹介において、生物心理学研究会なる団体の名を聞いた覚えがなかった。


「なにぶん、まだ部員が集まらず、同好会あつかいの身だからね。ちなみに、われわれ生物心理学研究会は、生物学と心理学を研究し、脳、神経系、ホルモン、遺伝子などの生物学的要因が、人間の思考・感情・行動といった心理的なプロセスに、どのような影響を与えているかを探求することを目的としている」


「そ、そうですか? なんだか、すごそうですね? でも、文化系の私には、ちょっと、関係なさそうかな、なんて?」


 なんだか、自分とは縁の無さそうな単語が並んでいるので、関わり合いにならずに、この場をやり過ごそうと考えた私は、曖昧な笑みを浮かべながら、この場を立ち去ろうとする。


 ただ、そんなこちらの意図を察したのか、朱令陣禰子(しゅれじんねこ)先輩は、こんなことを言ってきた。


「まあ、そう早々と決めつけることも無いだろう? キミは、幼なじみからの告白を煩わしく思っているようだ。その心理は、キチンと生物学や心理学的な検知から説明できるんだ。どうだい、音無音寿子(おとなしねずこ)くん、ワタシの話しを聞いてみないか? キミからは、《《ワタシと同じニオイがするのでね》》」

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