第7話「帰省ラッシュ大反省会と強力助っ人?」
お盆も終盤戦。
三途の川はまだ波立ち、RENのサーバーは冷却ファンを全力回転、職員たちの顔には疲労と達成感が入り混じっていた。
盆踊り大乱闘もどうにか鎮火し、あとは霊たちが現世から霊界へ戻る「Uターンラッシュ」を残すのみ。
……の、はずだった。
しかし霊界交通庁は休ませてはくれない。
恒例の“反省会”――つまり、職員全員を巨大スクリーンの前に並べ、今年のトラブル映像を容赦なく流し、改善点を叩き込む、あの地獄の時間である。
現世で会議地獄を経験してきた者も、死んでまで同じ苦行に参加するとは夢にも思わなかっただろう。
しかもこの映像、容赦なく現場の失態もバッチリ記録されている。
林にとっては特に危険な瞬間――あの“キュウリ急行暴走事件”での自分の姿が、全霊界職員に公開される可能性が高いのだ。
「頼むから流すな……」と祈っても、スクリーンの電源はすでに入っている。
さらに今年は、新たな助っ人が投入されるという。
帰還を拒む“帰りたくないご先祖様”への対応に、癖の強いベテラン鈴田と、冷静沈着な東堂が加わることで、現場はますますカオスへ。
果たして林たちは、この反省会を生き延び、迫り来るUターンラッシュを乗り切れるのか――。
帰省ラッシュ、盆踊りも終わり――
あと残すは、最大の山場・Uターンラッシュ。
霊界交通庁では、今年の帰省期間のトラブルを踏まえた反省会が開かれていた。
林(心の声)「……死んでまで会議かよ……」
小島「そう言わない。仕事よ、仕事!」
巨大スクリーンの前に、職員たちがぎゅうぎゅうに並んで座っている。
会議室はやや薄暗く、古びたエアコンがカタカタと音を立てて回っている。
机の上には資料の山と、やたら塩気の強い煎餅、そして誰が持ち込んだのか謎の昆布菓子。
お茶の湯呑みからは湯気がのぼり、空気は妙に湿っていた。
「それでは、今年の帰省運行における重大インシデントの振り返りを始めます」
南田が、ほぼ無表情のままマイクを握る。
背後のスクリーンにドーンと表示されたタイトル。
《今年の渋滞ワースト5》
1位:三途の川・渡船場、亀型ボート大破による全線封鎖(復旧まで2時間)
2位:ペット霊アシスト便、犬型霊の「寄り道」多数発生
3位:キュウリ急行の暴走(地獄行き)
4位:ナス馬、乗客にキュウリ馬を追い抜かれ発狂
5位:現世SNS「#おじいちゃんまだ帰らない」拡散によるOTENTO同期異常(RENのバグ)
映像は実況中継さながらに、事件当時の映像を再現。
林は自分が映っていないことを必死に祈った――が、3位の映像でバッチリ自分の顔が。
(あ……これ完全に俺だ……)
南田「以上を踏まえ、主な原因は――」
会議室に淡々と響く南田の声。
あまりにも感情が乗らない説明は、逆に眠気を誘う効果抜群だった。
後方では、吉原が開始10分でスーッと船を漕ぎ始める。
黒戸が必死に肩を揺するが、吉原は「うるせぇ……タコ……」と寝言を残して再び沈没。
隣の村吉は「課長…起きて…!」とオロオロ。
そこに、場違いなほど明るい声が響く。
「次に、“盛り上がり度ランキング”を発表します!」
藤村が、勢いよく立ち上がる。
スライドに映るのは盆踊り会場の熱狂映像。中央には炎のエフェクトで巨大な数字。
1位:盆踊り大乱闘(観客動員数:霊3万)
2位:平安武士団・超弩級蓮船お見送りイベント
3位:迷子精霊大捜索レース in 三途の川
最前列で尾川と小野沢が拳を振り上げ、
尾川「姉さん、俺らの活躍っすよ!」
小野沢「恥ずかしいですね。フンス!」
遠藤は笑っているのか困惑しているのか分からない表情だ。
藤村「いやー、今年は見事に盛り上がりまして! SNSでのハッシュタグ数は――」
南田「藤村くん、それは反省会でやる話じゃない」
藤村「あ、はい……すみません」
椅子にしょんぼり座る藤村。
司会が南田に戻る。
「今年も色々あったが、新卒の活躍もあり、なんとか無事に終わることができた」
「特に現場の指揮が素晴らしかった。小島課長、ありがとうございました」
小島「いいえ、今後も任せなさいよ!」(ニッコリ)
林(心の声)「笑顔が怖ぇ……このあと絶対なんかある……」
そして議題は、迫りくるUターンラッシュの対策へ。
南田「まずは各家庭への精霊馬手配、各慰霊碑への送迎船の割り当て。
そして……毎年恒例、ご先祖様“帰りたくない”問題です」
林「帰りたくない問題?」
小島「やっぱり実家が落ち着くのよ。帰りたくないって駄々こねる方が多くてね、予定が大崩れするのよ」
林「まぁ……気持ちは分かるなぁ」
南田「そこで、地方都市で成果を上げた優秀な方を助っ人に招きました」
「あっ、あっ、はじめまして、わたくし……す・ず・た と申します。本日は日都から参りました。
みんな私のことはスーと呼んでください。よろしくお願いしますね。ね。ね。」
林(心の声)「またクセの強い人が来たな……でも優秀なんだよな?」
もう一人が立ち上がる。
「帰還困難霊対策チームのリーダー、東堂です。よろしく」
こちらは見るからに真面目そう。
南田と東堂が何やら目で合図を送り合う。
南田「今年は鈴田さんを中心に帰還困難霊の対策をしてもらいます、皆さんよろしくお願いしますね。」
南田のメガネがキラリと光る
何か気になる言い回しだな・・・
黒戸「そんなの無理だよ……」
吉原「ったく、机上で考えやがって……タコが」
藤村「みんな仲間だ!やるぞー!」
尾川「気合入れてやんよ! まずは剃り込み入れて金髪に――」
小野沢「頑張ります!」
小島「さあ林くん、気合入れてね。Uターンラッシュ、来るわよー!」
林(心の声)「……ああ、休む間もなく地獄の後半戦が始まるのか……」
こうして、地獄のUターンラッシュは幕を開けようとしていた――。