第4話「英霊3,000柱、まとめてお送りします」
霊界交通庁に勤めていると、季節や暦なんてあってないようなものだ――
そう思っていた林だったが、この日ばかりは珍しく羽を伸ばしていた。
お盆ラッシュもひと段落、久々に昼下がりの冥都をぶらりと散歩。
「今日は平和だなぁ」なんて、完全にフラグな独り言を漏らしながら。
そして、ふと立ち寄ったのは、以前の案件で世話になった小島課長の事務室。
窓際で書類をぶん投げていた課長が、満面の笑みで振り返った瞬間――
林は悟った。これはもう、絶対に平和な一日じゃない。
机の上の霊界モニターには、真っ赤に点滅するアラート。
【観測衛星 OTENTO 同期異常】の文字。
どうやら現世のSNSで「#壇ノ浦」「#英霊無念」がバズったせいで、
OTENTOが過去の英霊たちを“呼び出して”しまったらしい。
現世トレンドが霊界に干渉して英霊召喚――
まさかの「バズり事故」に巻き込まれた林は、
このあと蓮型巨大送迎船と共に、歴史のど真ん中へと放り込まれることになる。
霊界交通庁に配属されてから、しばらくたったある日、林 は珍しく羽を伸ばそうと、昼下がりの冥都を散歩していた。
「こんにちはー、遊びにきましたー」
向かった先は、以前の案件で世話になった小島課長の事務室。
事務所の窓から、課長が書類をバサッと放り出す。
「あら林くん、いいとこに来たわ」
その笑顔が、林にとっては何よりの死亡フラグだった。
【#壇ノ浦バズる】
机の上には、霊界のモニターが並んでいる。
そのひとつに「観測衛星 OTS-07 OTENTO 同期異常」と赤字の警告が点滅していた。
「なんすかこれ?」
「現世のSNSでね、#壇ノ浦 #英霊無念 とかが急にバズったの。
OTENTOが現世の徳データと同期してるんだけど、ハッシュタグ祭りで過去の英霊が“呼ばれちゃった”のよ」
林は思わず素で返す。
「呼ばれちゃったって……英霊をアプリみたいに召喚しないでくださいよ、ってかこれバグですか?この前直しませんでしたっけ?」
課長は電話を取り、短く指示を飛ばす。
「吉原さん、例の特送案件です」
【地獄生産部からの使者】
電話を切るや否や、白い作業つなぎ姿の背の小さい男がドアを蹴って入ってきた。
「なんだ?うるせえタコども、何やらかした?」
林は思わずのけぞる。
(出た……見るからに“現場叩き上げ”って感じの人だ)
小島課長が紹介する。
「林くん、この人は地獄の精霊生産部の吉原課長。今回の特送はここの協力でやるの」
吉原は顎をしゃくる。
「黒戸!村吉!来い!」
作業場から二人の男が現れる。
ひとりは病弱そうな黒戸、ひとりはまだ元気そうな村吉。
「えー、そんなの無理だよ……吉原さん...英霊3,000柱って何トンあると思ってんの……」と黒戸。
「でも結局やるんですよね?」と村吉が笑う。
「……まぁやるけどさ」
「ガタガタうるせぇんだよタコども!ぺぺっとやるんだよ!」
【巨大船到着】
吉原が持ち込んだのは、全長500メートルの巨大船「蓮型送迎船 花弁展開式一番艦、通称蓮華」。
蓮心エンジン搭載、徳ポイント燃料型の超特級送迎船だ。
「徳が尽きたら……船ごと地獄行きだ」
林「笑えないんですけど」
【言葉の壁】
英霊たちは平安時代の言葉しか分からず、通訳として呼ばれたのは袴姿の遠藤、通称“えんちゃん”。
「はべりける〜!皆々様、蓮の御舟へお乗りあそばされ〜!」
しかし英霊たちは首をかしげるばかり。
林(この人、テンションは高いけど……通訳、機能してないぞ...)
【航行と徳渦】
出発後、航路に「徳渦」が発生し燃料が激減。
「徳残量あと4分!」とアラートが鳴る。
するとえんちゃんが古語で兵士たちを鼓舞し、全員が甲板で平家物語を朗誦。
徳ポイントが一気に回復した。
林「なんでこうなるんだ……」
吉原「武士の念は強えんだよ。猿、黙っとけ」
【任務完了】
無事に慰霊碑に到着。
英霊たちは深々と礼をし、えんちゃんに扇子と直垂を贈る。
林は、自分の祖先もここにいるかもしれないと感じ、胸が熱くなる。
小島課長がにやりと笑う。
「来年もよろしくね〜♪」
「……もう二度とやりたくないっす」