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第2話「赤い警告灯と、疾走するコンタ」

お盆シーズンも始まり、霊界交通庁・配送監理課は、まだ休みの「や」の字も見えない。

係長の林 も例外ではなく、今日も端末とにらめっこしながら、ナスやキュウリの乗り物を現世へ送り続けている。

現世では「帰省ラッシュ」とか「Uターン渋滞」なんて優雅(?)な言葉が飛び交っているが、霊界のそれはもっと過酷だ。

一歩間違えば、英霊が地獄に迷い込み、不良霊に囲まれ、違法改造ナスの爆音が轟く混沌の世界に引きずり込まれる。


そんな恐ろしい事態も、霊界交通庁では“年中行事”のひとつである。

林は「今日は何事もなく終わればいいな」と淡い願いを抱きつつ、RePad miniを起動した。


……その数分後、画面に映ったのは――真っ赤な警告画面と「地獄行き」の文字だった。


今年も、平穏は訪れそうにない。

林 真人は、霊界交通庁・配送監理課の配車係、係長である。


初めは端末のタップすらおぼつかなかったが、今ではナスやキュウリのライド送信も日課のルーチンになっていた。


だって休みないんだもん・・・


今日の配送先は新田家。


毎年きちんと送り火を焚き、善行ポイントの管理も完璧な優良世帯だ。


林は端末──RePad miniを開き、配送データを確認する。


【配送先】新田家・送り火宛


【乗り物】キュウリ(標準列車モード)


【出発時刻】17:40


「よし、いつも通りだな。」


整備班から受け取った青々としたキュウリの馬を、所定の発進台にセット。


指で軽くタップすると、**転送プログラム“蓮OS”**が起動し、現世へ向けた配送が始まる。


【異変】



出発から数分後。


林は何気なく端末を覗き込む。


──画面が、真っ赤だった。


【警告!配送ルート異常検知】


【目的地:地獄 第5区「嘆きの三叉路」】


「……は?」


次の瞬間、端末が震え、怒涛のエラーメッセージが流れ込む。


配送先のデータ欄が新田家から地獄宛の魂回収ルートに上書きされていた。


林の背中に冷たい汗が伝う。


「なんで地獄!?……これ、端末のデータバグか!」


「そういえばOTS-07(OTENTO)は個人のSNS発信でバグを起こすって技術部の村吉君が言っていたな・・・まさか!それか?」


【小島課長への報告】


林は即座に通信を開き、課長・小島に連絡する。


「小島課長!新田家の配送が地獄ルートに──」


『あら林くん、声が裏返ってるわよ?落ち着いて、はい深呼吸〜。で、善行ポイントは確認した?』


「いや、そんな暇──」


『あるの。ほら、先に数字見ないと段取り組めないでしょ?生保だって契約書見ずに動いたらアウトよ。』


しぶしぶ端末を操作し、善行ポイント欄を開く。


──そこに表示されたのは、


【ペットライド登録:コンタ(柴犬・生前忠犬、狐に似ている)】


『ほら、言った通り。コンタ呼びなさい。あと、特急路線の許可コードは“IB-39”。忘れないでよ。地獄は渋滞地帯、素人が突っ込むと帰れなくなるからね〜。』


課長の軽口とは裏腹に、指示はやけに細かい。


林は頷き、即座にペットライド呼び出し指令を送る。


ペッドライドとは、生前飼われていたペットを忘れていない家庭には、ずっと守り神のように見守ってくれていて、緊急時にはお助け機能が備わっている。このような場合には飛んでくる仕様になっている。


【地獄 第5区「嘆きの三叉路」】


霊界地図上では赤黒く染まった一帯。


現地映像には、


古びた街灯の下に不良霊たちがたむろし、壁には落書き、地面には割れた徳ビンが散乱している。


道端では“悪徳屋台”が煙を上げ、怪しい賭博盤が回っていた。


車道は魂バイクや違法改造ナスで埋まり、爆音と怒号が響く。


ここではルールもマナーも通用しない。


英霊の乗り物は、渋滞の中であっという間に取り囲まれる。


【疾走するコンタ】


霊界の空間がふっと歪み、一匹の柴犬が飛び出す。


黄金色の毛並み、鋭い目。足取りはまるで風を裂くようだ。


ちょっと狐に似ている コンタだ。


林は端末に特急路線許可コード“IB-39”を打ち込み、コンタに送信。


柴犬は短く吠えると、群がる不良霊の間をすり抜け、


渋滞魂バイクを飛び越え、新田家の英霊を背に乗せる。


違法改造ナスの追跡を尻尾一振りで撒き、三叉路を突破。


霊界ゲートを抜けた瞬間、画面の警告が消えた。


【帰還】


18:59。


ギリギリ送り火の時刻に間に合った。


林は端末越しに、新田家の玄関前で無事降りる英霊と、尻尾を振るコンタの姿を確認する。


『林くん、よくやったわね〜。……でも次はもっと早く報告しなさい。あんた、最後の方で手が震えてたわよ?』


「いや……あの地獄スラムは二度とごめんです……」


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