森下君は増田君を利用している~あの子は僕のだから~
少しBL要素があります。ご注意ください。
「真実君はえらいのねぇ」
「ちゃんと皆で遊ぶのよ」
「さすが森下さん、ちゃんと教育されてるわ」
同じ砂場で一人で遊んでいた男の子を、自分のグループに入れてあげたら、ママ達がみんなほめてくれたんだ。そして、僕のママまで、ほめられていた。
そしたら、すごく気分が良かった。
良いことしたんだ、ぼくは良い子なんだって。
それはもう7年前の話だけど、鮮明な記憶。
あれから、いつもいじめられたり仲間外れしている子を救済して、ある時気づいたら、自分が標的になっていた。
小学5年の時だった。
それまではクラスでも学級委員まで、まかされたりしてたのに。
一週間、逆の立場になってわかった。
学校は集団意識を学ぶとかの場所じゃない。
ただの精神破壊戦闘地だ。壊されるか壊れるか。
もちろん、先生なんてあてにならない。
授業でしょうがなくグループ組まされたり、体育で二人でストレッチとかしなきゃならない時は、もちろん仲間には入れてくれる。
あとは全て一人でいる。ひそひそ僕をいじめる計画する声も聞こえる。
こうなってみて分かるのは、傍観者の多さだ。
自分に火の粉が降りかからないように、見て見ないフリの上手いこと。
なんか間違ったかな? 僕はおかしかったのか?
だって、仲間外れなんていけないことだろ?
それを助けたら、親は褒めてくれたし。
ガタンッッ!! ーー
イスから立ち上がる音が教室に響き渡る。
僕はもうこの状況に疲弊していた。
「どうしたの? 森下君?」
今は算数の授業中だ。でも、もう我慢の限界だ。
喜怒哀楽を表現して何が悪い。
「帰ります」
「え? 何? ちょっと待ちなさい!」
ダッシュで学校を出て、お祖母ちゃんの田舎に行く時に利用する飛行場まで逃げた。お金は小遣いを持ってたので、電車で移動した。
飛行場では、たくさんの人が行き交う様子を見ながら、イスに座ってぼーっとしていた。
夜になると、飛行場で寝ることもできるみたいだった。
(マジで日本出たい……)
お腹もすいたけど、少しはお金を持っていたから、おにぎり二個くらいは買えた。
そして、僕はそのまま眠ってしまったんだ。
夜21時くらいに空港職員の大人に起こされた。
「君、名前は? 家はどこかな?」
そりゃそうだよな。僕の逃亡劇なんて、ただの小学生の反抗期にすぎない。ただの思い出の一ページになっただけだ。
「真実!!」
迎えに来た両親に痛いくらい抱き締められる。お母さんは泣いていた。お父さんは頭をなでてくれた。
「よく頑張ったな」
お父さんの言葉に涙があふれた。勝手に早退したのに褒めてくれた。
「ごめん……ごめんなさい」
僕は泣きながら、お母さんにしがみついていた。
※ ※ ※
翌日、なんとか教室の扉を開けた。すると、皆が一斉に僕を見た。憐れみの視線が痛い。
席に座ると、一人の男子が話しかけてきた。
「森下君、空港に行ったんだって? 出国したかったの? 勇気あるね 」
その人物の顔を見上げる。
増田 修一郎。ああ、この学校でもイケメンで五本の指に入るヤツだ。あまり、顔を眺めることなかったけど、本当にきれいな顔してるな。神様に愛されてるんだな。
そんなことを考えてた。
「最近一人でいるから、僕と一緒にいようよ」
「え? いいの?」
「うん。ほら、うちはいつも僕入れて3人だったし……友達なんてたくさんいた方がいいから」
「あ、ありがとう」
ああ、救済されるって生きてていいんだって思える。泣くことはなかったけど、目頭が熱くなった。
その日から、増田修一郎と一緒に行動することが多くなった。
こいつの顔面が強いからか、女子は遠巻きに羨ましそうに見てくるし、なぜか男子にも一目おかれている。
そうか……イケメンを側におけば、自分も立場が上がるのか。勉強になったな。しばらくの間、増田を利用して自分の価値を高めるか。
それからはまた日常に戻ったが、強くなるために柔道を習い始めた。単純に見た目を強化したら、イジメ対象から外れる確率高くなるだろう。森下真実は充実した毎日を取り戻していた。
「今日は森下は柔道?」
増田は森下に放課後の予定を聞いていた。
「うん、行ってくる。また明日遊ぼう!」
そう言って、森下は教室を出ていった。
それから、放課後の教室で、増田と一緒に図書委員の仕事をしている男子がたずねた。
「なんで森下とつるんでんだよ」
増田はプリントを整理しながら答える。
「……人を助けるのって気持ちいいじゃん」
「だって、お前が『森下うざいから、ハブろう』とか言ってきたんじゃん」
増田は愛らしい笑顔をその男子に向けた。
「俺はね……ずっとこの時を待ってたんだよ。森下が欲しかったんだ。」
「欲しかった……? じゃあ、最初から普通に友達になれば良かったじゃん。こんなまどろっこしいことしなくても」
増田は最後のプリントをホッチキスで止めた。
「さ、もう職員室にこれ持っていって帰ろう」
「あ、ああ……」
二人は大量のプリントを持って教室を出ていった。
※ ※ ※
「修一郎ちゃん、今日はお砂場でお友達できて良かったねぇ。森下真実君だっけ? あの子、いい子ねー、ママ、ああいう子大好きよ!」
「……ママ、あの子好きなの?」
「ええ! また一緒に遊びたいわ!」
「真実君は僕のだよ」
修一郎の母は、まだ幼児で言葉がおぼつかない息子に合わせた。
「そうね。あの子は修一郎のお友達よ」
「違う! 僕の!」
「わかったわかった!」
母親は笑いながら、息子の手をつないで帰宅した。
あれから、僕はあの公園に行っても、あまり森下には会えなかった。でも、小学校は同じはずだから、期待していた。絶対に必要な存在になると心に決めていた。
すると、なかなか同じクラスになることはなかった。しかも、当の森下は見事に僕のことを忘れてるみたいだし、友達も多そうだ。
(嫌だ、そんなその他大勢の存在になりたくない。何が『トモダチ』だよ! )
そして、やっと5年生で同じクラスになった。僕は以前から秘めていた計画を実行した。
まずは森下真実をクラスで一人にして弱らせる。そこに僕がつけこむんだ。
僕は絶対ただの友達なんてごめんだ!
僕は顔が優れてるらしいから、それを存分に活用する。女子なんて顔しか見ないし、今となっては男子なんて単純すぎて……世の中簡単にできている。
そして、やっと僕は7年かかって、森下真実を手に入れたんだ。
ずっと「僕の」だったらいいな。