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特異点から告ぐ  作者: 宵山
第二章 ──誘拐事件、交錯する運命──
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51- 守るべきもの

 

 同日の夜。レベルシティの街でばったりと出会った二人。警邏(けいら)中の第一隊長のアデランドと、花屋の飾られている花を吟味している第二隊長のレイノルズ。アデランドが声をかけた。


「奇遇ですね。レイノルズ第二隊長。こんばんは。滞在するとは聞いていましたが……まさかこの時間に花屋にいるとは」


「第一隊長。こんばんは~」


 彼に気づいたレイノルズ。いつものような飄々さはありつつも、前よりもどこか落ち着いている彼。


「買うのはまた今度だけどね~。今日は時間が余ったから下見中。花はいつもリバング街で買ってるんだけど、レベルシティの花屋なら、あまり見ない花もあるかな~って思ってさ」


 店先に並んでいる花たちを観察する彼。赤いフードの下の、若葉色の顔に浮かべるいつもの笑みが、今日は穏やかな表情を作り出している。覗き込んだ後、レイノルズの隣で止まって共に花を見る。


「なるほど。それにしても花とは珍しい。貴方らしくありませんね」


「人の知らない一面を知った気になって、貴方らしくない、は結構失礼だと思うけど?」


 腕を組み、ジト目でアデランドを見る。俯く彼。


「失言でしたね。すみません。しかし……」


 夜の風が吹いてきた。空の月が曇りがかっていく。アデランドは、目の前の花を眺めつつ言葉を続ける。


「貴方は事件の解決に重きを置く、いわゆる武闘派な印象があります。一度犯人と決めつけた被疑者からの言い訳は一切耳を貸さず、抵抗された際には最大限の武力で抑え込むなどといった、犯罪者をとことん許さない我が強い性格。先代の第二隊長である、貴方の父の面影を感じる程です」


「だから花を意外に感じたのかい?」


 頷く。視線を花からレイノルズに移した。


「ええ。そうです。ですが、リバング街での、誘拐事件が起きた現場の半永久的保存の規則の改定申請。直近では、宿泊している宿で起きた強盗を、言葉と最低限の武力で制して被害を最小限に抑えたこと。今までのあなたを考えると、かなりの心境の変化があったようですね?」


「う~ん……当たりだね」


 優しくなった笑みを浮かべる彼。溜息を吐いてからその詳細を話す。


「住民から色々言われたよ。誘拐事件の被害者の……残された側から。みんなから直々に聞き取りをして、自分の……軽薄さをさ……」


「自身の言動を見直したと」


 赤いフードを深く被り直して、乾いた笑いをこぼす。


「笑えるよね。父の背中を見本にしていけばいいと習った結果だ。事件の解決だけが、隊長でいることの価値だと言われ続けて、住民たちを思い図らなかった。実際、誤認逮捕をしでかしたことも何回かあったから、余計にね。


 ……そんな中で、誘拐事件の解決がされず、自分自身も隊長である意味が崩れていく中でのあの出来事……こんなんじゃ、向こうにいる家族に顔向けできないよ、ホント」


「……管轄外ゆえに口出しは厳禁でした。正直に申し上げますと、あなたが心変わりして少々安心しています」


 以前までの、事件解決を第一に考え住民を視界から外していた彼の言動を、アデランドは良く思っていなかった。もちろんそれにとどまらず、彼の父も同様に。彼の新しい信念に、花を一輪。近くの花屋の店員に声をかける。


「店員さん。この花を一輪いただけますか?」


「は~い、ちょっとまってね~……──」


 思わぬ行動に呆然としてアデランドを見る。女性の球形族とやりとりする彼を見守る。代金を支払い、一本巻の白い花を受け取る彼に、苦笑いを浮かべつつ軽口を叩く。


「誰かにあげるのかい?」


「はい。あなたに」


「……はぁ?僕に?」


 花を買う行動に引き続き、買った花を、隣にいるレイノルズに渡すという奇行。アデランドは真面目で実直な性格だ。冗談すら知らないような堅物。それがかえって奇妙さに拍車をかける。差し出された花を前に、彼は訝しむ。


「なんでくれるのさ?冗談にしてはまったく先が見えないんだけど」


「冗談などではありません。新しく生まれ変わったあなたにですよ」


「生まれ変わ……」


 先ほどの心変わりの事を言っていたらしい。住民を省みず解決一筋だった信念が、住民に寄り添う新たな信念に対する祝いの花だと。意外と彼らしかった真相を理解して頭を抱えるレイノルズの目に前に、一輪。


「どうぞ。白い花です。小さくて純粋さを感じますね」


 白い花びらを見る。受け取って、顔に近づけた。


「ありがとう。……この花はスイセンだよ。機械族だろ?知らないのかい?」


「あいにく。治安の維持に花のデータは必要ありませんから」


 確かに一理ある、と頷いて、綺麗に巻かれた一本の花を丁寧に胸ポケットに差し込んだ。そういえば、とアデランドが至極当然の疑問を問いかけていなかったことを思い出すと、閉店の準備に取り掛かる花屋を見つつ投げかける。


「レイノルズ。花を買うのは今度と仰っていましたね。しかしなぜ買われるのですか?」


「……家族と村のためだよ」


 花屋を背にし、建物の脇の壁に背を凭れかかる。雲で見えなくなった月。雨が降りそうな匂いがする。


「半年に一回墓に供えてるんだよ。夏と冬の始まりにそれぞれ一回ずつね」


「……村での出来事は存じております」


 リバング街の近くにある小さな村出身であるレイノルズ。しかし、そこで起きてしまったとある森の大火事によって村は全焼。生き残ったのは、狩りに出ていた彼と、その狩りに着いていた前任の第二隊長である彼の父。ただただ悲惨であったあの火事。自然発火、あるいは、放火。


 当事者でないアデランドには首を突っ込む義理はない。だが、もし協力を申し出てくれれば、忙しい身でありながらも時間を縫って調査する所存だった。


「もし花を手向ける時が来たら、私に教えていただけませんか」


「忙しいのに来るのかい?」


「厳しいでしょう。ですが、花を送ることは出来ますから」


 夜のそよ風。彼なりの気遣いに、不器用な笑顔が浮かんだレイノルズ。少し嬉しく感じた。慣れない感情だった。


「じゃあその時になったら教える。アデランド隊長に限ってそんなことはないだろうけど、忘れないでよ?」


「もちろんです。記憶しましたので。いつでもご連絡ください」


 あまり話すことのなかった二人。だが、お互いの距離と性格を理解し合えた夜となった。別れを告げたアデランドは再び警邏へ。レイノルズは宿へと足を向けた。二人の温かな友情とは対照的に、湿気を含んだ冷たい風が吹く。



 *



 一方、ハートレード港。昼の喧騒とは打って変わって夜の静寂に包まれる港の中。治安維持団の支団、隊長室にて一人、とある写真を見ていたヒセノイッチ。マナ機械で現像したそれには、まさにこの支団にて撮影したツーショット。現第四隊長のヒセノイッチ、そして前第四隊長のゼドラスだった。


 赤い体で、目を持たない四角頭の異頭族。筋肉質で鍛えている肉体のヒセノと同じように、体が広い大柄な体躯と太い尻尾。


 彼の得意な魔法である光の糸。それを駆使して犯罪者を捕える姿は、ヒセノの子供の頃に憧れたヒーローそのものだった。彼の似顔絵を描いて渡した時の、ギザ歯が覗く笑顔。帽子からはみ出て光る三角の角。普段の豪胆さと相まって親近感が湧いて、よりヒセノの追いかけたい背中へとなった。


 今では、そんな彼は行方不明。つい五か月前にだ。追いかけたその背中はいつの間にか消え失せ、望まない形での後釜となってしまった。こんな夢の叶い方は、あまりにも酷だとヒセノは何回思ったことか。


(ゼドラス隊長…………)


 憧れの側近で、責務をこなしていたあの日々。たった数か月前だというのに、ヒセノは遠い昔のように思えてくる。今や彼との繋がりは、この写真と、あの日渡した似顔絵のみ。引き出しからそれを取り出す。


 子供ながらに拙い似顔絵と、ゼドラスから描いてくれた子供のヒセノの似顔絵。合作で出来上がったこれが、ヒセノにとっての出発点。感傷に浸って何回も開いてしまったせいで、所々破れてしまっている。


(行方不明……死んだなんて、思ってない。絶対に見つけてみせる……!)


 よぎったのは、例の誘拐事件。彼が誘拐されてしまうほど弱いわけではない。きっと別の理由で、いなくなってしまったのだ。


 ゼドラスの功績を称える数多くの飾られた賞状。見回して、感傷を闘志に昇華する。彼と挨拶を交わすときに必ずやっていた行為。胸を軽く二回叩いて、彼の肖像画の胸あたりへ。


 ヒセノイッチ第四隊長は、決して探すことを諦めない。見据えるべき背中が見える限り。


 あの憧れをもう一度、直に感じるために。


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