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特異点から告ぐ  作者: 宵山
第二章 ──誘拐事件、交錯する運命──
46/50

46- 裏面に滾る

 

「骨族……骨族……」


 昼。治安維持団本部の団長室。大型コンピュータのプログラムを用いて、ある者を探している疑形族のガゼロ。


 先日届いた、特別隊員であるリーロと第四隊長のヒセノイッチから聞いた情報を参照し、機械族隊員の記録をもとに、誘拐犯の一人である骨族の調査していた。小柄であることと、当時白い服を着ていたことが、グラスという方からの情報提供によって特定しやすいのはありがたかった。半面、今まで鳥人だと思っていた調査はすべて水泡に帰し、いちから映像を洗い直す必要があった。


 ただ、それでも進展が無いわけでもなかった。もう一人の誘拐犯である黒山羊獣人の調査は、過去六十日の記録にはどこにもなかったことを確認できた。見つけられなかったことも調査の進展。次にはどうにかして、骨族を見つけなければならない。


「……クラッフル君、見つかりそうかい??」


「全っ然!困ったなぁ!誘拐事件の前後に絞って探しているとはいえ、もっと広範囲の記録を参照した方が良いのかもしれないなあ……あ~~」


 お手上げ状態だった。クラッフルは、キーボードやボタンに触らないようにしつつもコンピュータ機械をころころと回って頭と目を休ませていた。どうやら相手は相当、治安維持団に見つからないように立ち回っているらしい。


 こちらは、まだ時間が掛かりそうである。



 *



 一方、獅子獣人のレイト。ここ数日は、誘拐犯との繋がりがあるイノヴァの追跡をしていた。空島であるビスカンド、そこにあるリカ街という街に住む彼。翼を広げて飛んでいく帰路から、家の中の様子までを自身の【能力】である透明を駆使して監視をしていたのだ。一人で過ごしている日常生活ほど、弱点を晒す機会などない。


 しかしながら、その隙をどうにかして見つけようと画策していたレイトだったが、思いのほか見当たらない。相当に慎重に動いているのか、はたまた誘拐犯と会うのは滅多にない事なのか。


 それなら、日中に怪しい行動を見せないのなら、夜に何かあるのでは。と昨日は夜通し家を監視していたがあえなく撃沈。何も怪しい行動は見せなかった。一日置いて帰ってきたのは治安維持団の本部。そこにある仮眠室にて。夕暮れ前に起床した後、一人ベッドに座って考え込んでいた。


 イノヴァは、誘拐事件の証拠を隠蔽し、被害者に近しい関係の人を容疑者として監禁させている誘拐犯側である。であれば、誘拐犯に会っているはずだ。そうすれば、犯人側を追跡して居所を特定出来たりするだろう。だが、そんな行動は一切見せていない。


 うんうんと唸って考えを巡らせていた彼に、仮眠室に入ってきた背の低い上級隊員。鼠の獣人族の男性だった。レイトを見て挨拶する。


「あ!こんにちは!……いや、今の時間だったらこんばんはかな。こんばんは!」


「……こんばんは」


 レイトの方は、初対面特有の初々しさしか感じない挨拶。ただ、興味深そうに彼がレイトの着ている隊服を見ている。すると、はっ、と気づいた。


「あれ、もしかして、誘拐事件の特別隊員ってひと?」


「……そっす」


「えっとー、レイト隊員?リーロ隊員?」


 目の前のベッドに座った彼女が聞いた。特別隊員は現状二人しかいない。二択を提示され、正しい方を選ぶ。


怜斗(レイト)です」


「レイト隊員!僕はダズベルです!獣人同士、マナは扱えないですけど、お互い頑張りましょ!!」


「……そっすね」


 存外、馴れ馴れしさの感じる鼠の彼。釣られて口角を上げるレイトだが、ダズベルには不自然な笑顔に見えたらしい。少し眉を顰めて、細い尻尾をゆらゆらと揺らした。


「……どうしました?なんかえらく顔色悪いですよ」


「え、ああ、そうでした?……まだ寝足りなかったのかもしれないっすね」


 ずっと、誘拐事件の調査をしっぱなしだったレイト。流石にあの副団長とまではいかずとも、誘拐事件の真実の究明を果たそうと身を粉にしていた日々だった。ただレイトは、リーロと違い、切れ者でもなく、長く活動することもできず、いざというときに冷静でいられるほどの出来上がった性格をしていない。


 平たく言えば凡人である。ただ、奇妙な運命に流されてしまっただけの、魔法などろくに使えず、【透明】になれるだけの、正義のために尽くそうとする身の程知らずの一般人でしかない。


「ダズベルさん。俺…………」


「んー?どうしたんです?」


 中々話し出せない。言いかけた言葉が、全くもって彼と関係ないことであることが分かっていた。それでも、と思って話し出したが、結局打ち上がることなく落ちていく。


「いや、なんでもないです、すいません」


 苦笑いを浮かべるダズベル。しかし、レイトの心情を汲み取ったのか、直後には真剣な眼差しで歩み寄る。


「もしかして、精神的な疲労のほうだったりします?」


「えっと……そう、かな?」


 こちらも苦笑い。しかし、正直な彼とは違ってごまかす様に。それでも、ダズベルはレイトの心理を理解するように寄り添い、隣に座る。


「我慢は毒ですよ、レイト隊員。……考えてること、当ててみましょうか!ずばり~……自分に魔法がちっとも扱えなくって、足を引っ張ってるかも、とか!」


 呆気にとられる獅子。当たらずとも遠からず。魔法が使えないことでの劣等感はとうに受け入れている。しかし、それによって他の仲間よりも良い結果を残せず、無意識に焦ってしまう自分自身にはいつまで経っても慣れないでいたのだ。


 結局のところ、受け入れたと思っていても、心のどこかで受け入れられなかったのかもしれない。


「結構、そうかもしれないっすね。ははっ……」


「え!!やっぱそうです!?」


 乾いた笑いが漏れてしまったレイト。対照的に、憶測が当たって嬉しくなったダズベル。気持ちの共有先が見つかって、口角を上げずにはいられなかった。


「気持ち、すっごく分かりますよ、ホント。獣人と同じ、マナを扱えないはずの魚人であるヒセノイッチ隊長ですら扱えて……上級隊員になるまでに、僕は何回くじけそうになったか……」


「上級隊員なんすか……!」


「そう!アデランド隊長の部下です!」


 胸を張って、誇らしげな彼。保有できても、マナを扱えない獣人でさえ、上級隊員に行けるという事実。それが、彼のプライドである。訓練と実績が積み重なった名誉。


「いずれは、マナ無しの隊長になるってのが夢でして!上級隊員は、多くの功績と訓練を経て昇進されるんですよ!それも、隊長の候補として!」


 饒舌なダズベルに、レイトは絆される。その笑顔が彼には眩しかった。


「アデランド隊長の後釜として頑張ってるんすね。何かに向かって生きれるの、すごいっす」


「む、いや、後釜ではないよ!アデランド隊長はずっと隊長の座にいるからね。僕が目指すのは新しい隊長!」


 レイトは、治安維持団の知らない構成部分がありそうだと考えた。今までは誘拐事件を解決するためだけの規則だけを頭に入れていた。それゆえに他のことはあまり知らない。


「新しい隊長……たしか既に五人いるんですよね。六人目の隊長かあ。……応援してます」


 恥ずかしそうに頭を掻く鼠。尻尾がふらふらと揺れて嬉しそうである。


「はは、ありがとう!絶対になってみせるから、その時はちゃんと見届けてくださいね、レイト隊員!」


「めっちゃ楽しみですけど、誘拐事件が解決しちゃったら見れないっすね」


「……はっ、確かに!!レイト隊員!事件が解決してもやめないでください!!治安維持団の事件科に正式に入隊してくださぁい!!」


 ダズベルは、大げさな涙目でレイトを揺さぶる。灰色の被毛が顔を撫でた。


 感情表現の豊かな彼に、思わず笑みがこぼれるレイト。その気持ちに応えたいところだが、この獅子、他にやらなければならない計画がある。誘拐事件の解決は、その足掛かりでしかない。


 解決したその後に見えてくる真相を思えば、このまま腰を据えてしまうのは、彼も、彼の仲間にも良い気分ではない。それを素直に言えないレイト。申し訳なく思いつつも、当たり障りのない言葉で返すことに。


「……まあ、その時になってから考えます」


「そ、そう??お願いですからね!!レイト隊員っ!!」


 ダズベルからすれば、貴重な獣人の隊員。レイト自身も、彼の気持ちを理解できるうえ、隊長になりたいという夢を支持したいと思っている。だた、計画のことを思うと、複雑な心境だった。



 *



 その後、仮眠室に来た理由を思い出したダズベルはそのまま仮眠。一方でレイトは、顔を洗ってこようとトイレへ向かうことに。


 重い足取りで着き、顔を洗ったレイト。水に濡れた顔の被毛を乾かそうと本部の入口から出る。ため息。夕暮れに染まるレベルシティの街を見ながら、ひとり感傷に(ふけ)った。この時間が終われば、またイノヴァの調査をしなければ。


 しかし、今までの追跡の調査では何も情報は得られなかった。誘拐事件の発生前後で変わってくるのかもしれないが、その時はまだ訪れていない。


 だから、別のアプローチが必要だと思ったレイト。イノヴァ自身の行動ではなく、その周辺ならばどうだろうか。彼の使っているデスク。彼の家。彼と親しい関係のある人物への聞き取り。そのあたりを調査すれば何かわかるかもしれない。


 団長室では誘拐犯である骨族の特定を急いでいる。こちらもやれることをやらなければ。だが今は、少しばかり脳を休息させる。なんなら、まだ仮眠してもいいかもしれない。夜になったら、彼の仕事デスクから調べてみよう。それまで、もうすこし、休んでいよう。



 *



 黄昏。夕陽が落ち、月が夜を見守る頃。同じくレベルシティにて。そこに住む探偵、ツェルは住居兼事務所へと帰ってくる。冷たい空気が影色の頬を触り、シルクハットを深く被り直し、白い息を吐く。季節はもうすぐで冬を迎える。以前の焦げ茶色の軽装はそのままに、上着として白い厚手のコートを羽織っていた。


 今年はレベルシティに雪が降るのだろうか、と心穏やかに思いつつ、郵便受けに手をかける。ここに依頼が届くことがある。物探しから人間関係の調査まで様々な依頼たち。


 そんな日課。玉石混交に、今日は珍しく玉が入っていた。


(マルキスからの手紙……)


 マルキス。ホワイトガーデンに住んでいる、親友であり仲間、そして文通相手である細身の兎の獣人。伝えたいことがあれば届声(かいせい)機で良いのだが、日々の些細な雑談は手紙の方が有用である。


 今日は特に滞りなく探偵の仕事は終わらせている。コーヒーで一服しながら読もうと手紙を手に取った時だった。


(……おや、羽が……)


 ツェルの足元に薄黒い羽根。地面の隙間に挟まるようにして落ちていた。状況を推測するなら、手紙の配達人である鳥人が落としていったものだろうか。今日は無風。空気中の冷たい空気が動いていない日だ。その羽根を拾おうと屈む。


 黒色がかった茶色、少しばかりの白色もある。特徴的な羽の色だった。手に持って、まじまじと観察する。ただ、ここでツェルはある疑問が思い浮かぶ。


(たしか、いつも手紙の配達をしてくれる方は白と薄茶色の鳥人族でした。この羽は別の方……)


 いつもの配達員は休んで、代わりの鳥人が手紙を入れたのだろうか。などと軽い推測を考えていると、ふと、郵便受けのすぐ下面。影になって見えにくいところが気になった。なんとなしに、そこに手をやる。


 硬い、円盤状のような何かが郵便受けの下に張り付いている。何かがある、と確信したところで思い切って引っ張った。磁石から離したように取れた、手のひらサイズのそれ。


「おっと……」


 思わず呟いた。


 よく観察すると、黒い円盤状の小さな機器だった。更に詳しく見てみると、その機器には、マナの情報が書き込まれているらしい。マナの感覚はそれほど得意ではないツェル。羽の存在と鋭い観察眼が無ければ気づくことは無かっただろう。


 これがどういったものかは、中のマナの情報を読み取らなければ何も分からない。隠すように設置されていたことから、少なくとも良いものではなさそうだ。マナの感覚は不得意だが、分析なら一流のツェル。


 とはいえ、分析しなくても分かる事といえば、思い当たるものがある。まずはそこから、可能性を広げてみることにする。


(これは盗聴器?いや、であれば部屋の中になければ。ここでは会話など、ろくに聞けないでしょう……そもそもいつから設置されて……?)


 今日の朝は、依頼に追われて確認できなかった。であれば昨日。その日の探偵業は休みだった。自身の特質のせいで家にいたのだが、その朝に郵便受けを確認した。確認はしたが、流石にその郵便受けの下までは見ていない。もっと言えば、そんな場所など今回初めて見たと言っても過言ではない。


 さすがにそこまで行くと可能性が広すぎて、推測する情報がどこにもない。そこで、先ほどの羽。黒がかった茶色の羽を思いつき、そこから発想を派生させる。


(今回の手紙の配達員は、いつもの鳥人とは別の鳥人であると仮定するのであれば、その鳥人が仕掛けたものであると推測は出来ますね。憶測の域から出ないものですが、可能性の一つとして十分でしょう……)


 昨日の朝、郵便には何もなく、そこからずっと家にいた。その時に配達員が来れば音で分かる。このことから、今日の朝から夜、確認するまでに設置された可能性が高い。


 配達員という職業は、翼を持つ種族である鳥人族か巨態(きょたい)族。あるいは飛行魔法を扱える人に限られている。が、羽が落ちていたことを鑑みると、鳥人族であることは確定しているだろう。


 それさえわかってしまえば、あとはこれを設置しただろう配達員の所属している発送所に持っていけばいい。が、このまま機器を持っていって、凡庸な面倒事として終わらせるには、あまりにも性に合わない。探偵としての好奇心が疼いたのだ。


 まず出来ることから始めた方が良い。つまり、この機器は一体どういうものなのか。事務所へと持ち帰り、テーブルの上に置く。次に、情報を読み取るために手をかざした。ツェル程のマナ分析の扱いに長けた経験を持っていても、マナに書き込まれた情報を読み取るという行為はなかなか難しい。


 他人の書いたソースコードを一から分析するような難しさ。ただ、書き込まれた情報は少なければ少ないほど分かりやすい。もちろんその分の時間もあまりかからない。ありがたいことに、今回はその例だった。書き込まれたそれを見て、ツェルは段々と眉を顰める。


(数値……現在地の参照……座標……共有……転移用……!?……終わり次第撤去……。これはこれは……相当厄介な代物ですね。現在地に座標……さながらGPSのようで。なぜこのような技術が?)


 この機器については概ね理解できたが、これを設置した理由についてはさっぱり理解できなかった。しかし確実なことは一つ。ツェルについて知ろうとしていた人がいたこと。


(まずいことになる前に治安維持団に連絡しましょうか……いえ、これなら本部に直接赴いた方が説明しやすい……。どちらにせよ、早急に行動しなければ)


 事件性の感じる、わけのわからない機器を放っておくわけにはいかない。発送所に持っていくことで解決する代物ではないのだ。


 再び手に持つと、コートのポケットに仕舞う。目的地は治安維持団の本部。ここから車で十五分程度。外に出て鍵をかけた。もう月が見えている。夜が始まった世界の隅。足早に車に乗り込んだツェルは、急いでボタンを押した。


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