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特異点から告ぐ  作者: 宵山
第二章 ──誘拐事件、交錯する運命──
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44- 明るみになる黒

 

「さァ、グラスさんよ。これで役者は揃ったぜ」


 治安維持団の第四隊長、鮫の魚人族であるヒセノイッチを家まで連れてきたリーロ。グラスは尻尾を振り、安堵の表情を浮かべ、来てくれたことを感謝する。


「ありがとう、ヒセノさん!来てくれて……!」


 リーロとグラスの間に流れている警戒ムードを気にすることなく、第四隊長は腰に手を当て、豪胆に笑う。


「問題ないさ!ここに来るまでの道中で、リーロ君からの話や報告書を見せてもらったりして色々聞かせてもらった。半年前にここで起きた誘拐事件についてね。だからまず、最初に僕がしないといけないのは、謝ることだ」


 豪胆さから一変。グラスに頭を下げ、心から謝罪を述べる。


「君が本部に、不当に監禁されていたこと、他の隊員らに代わって謝らせてもらう。本当に申し訳なかった!」


「ヒセノさん……」


 唐突の行動に驚くままのグラスに、リーロがヒセノに対して先ほど話していたことについて補足を付け加える。


「グラスも見ただろうが、報告書には、今回の誘拐事件で一番疑わしいとされる人物……この場合ではグラスのことだな。そいつを一定期間監禁したと記されてた。最後に会ってたっていう証拠だけでな。


 今思えばお粗末極まりない捜査だが、当時のことを考えれば、それ以外の証拠が見つからないように犯人とイノヴァが立ちまわっていた、となれば、まあ納得がいくぜ。白い羽を現場に落とすなんてバカさ加減には救われたがな」


 そこから、顔を上げたヒセノが、丁寧に続きを話していく。


「リーロ君とこれから行動を共にするにあたり、情報をもっと色々知っておかなければと思って、そのことを副団長にお伝えしたんだ。すると、その方も団長から誘拐事件に関する話を聞いていたみたいで、直近で判明した情報を教えてくださったんだ。


 誘拐犯は二人、黒い獣人であることと白い鳥人であること。そして、イノヴァが誘拐犯と繋がっていること。この三つはほぼ確定と間違いないみたいで、つまるところ……グラス君は、物的証拠がない、全く関係のない被害者であるにもかかわらず監禁されていたっていうことなんだ。


 隊長という立場なのに無実であるグラス君に気づけなかったのも、イノヴァが君を監禁するよう仕向けていたことにも気づけなかったのも、全部僕のせいだ……。もう一度言わせてくれ……本当に、申し訳なかった……!!」


 これまで経緯と情報を丁寧に挙げ、改めて頭と大きい尻尾を下げる。グラスは、心の底にあった治安維持団に対する疑惑とわだかまりが、ヒセノの誠実さによって軽くなっていくのがわかる。と同時に、リーロに向けていた怒りや猜疑心も、雪が溶けるかのように徐々に収まっていった。


 遂には、目から溢れて出てきた、大きな安心感。尻尾は垂れ、三角の耳はへたりと倒れる。


「……やっと……やっとかぁ……」


 震える手で顔を覆った。


「ヒセノさん。……ヒセノさんは悪くないですよ……!事件の捜査に全然関わってないこと、知ってますから。ホワイトガーデンに来たのは、その後だって……」


「いいや、五か月くらい前、前任のゼドラスさんが急にいなくなって、次の第四隊長の座を引き継ぐってなった時に、担当地域の事件の資料を頭に叩き込んだんだ。見るだけじゃなくて、君から話を聞いていれば……」


 涙と擁護を述べたグラスに、反省と後悔を生み出したヒセノ。互いの優しさがぶつかり合う。そうして出来上がった薪は、火にくべられるのを待っている。


 ヒセノからゼドラスという人の名前が出た。前任の第四隊長。ヒセノの前の隊長である。リーロが聞いた話では男性の異頭族らしいが、彼も誘拐されたかもしれないという噂もある。実際には行方不明だが、真相は分からない。


 前任の第四隊長のことを考えつつ、二人の成り行きを見守っていたリーロ。悠々と椅子に座って、涙を流すグラスが落ち着いてきたのを見計らって、口を開ける。


「……それでだ。グラスさんよ。何か言えない情報があるってんだろ?……言ってみてくれ。今ならヒセノがいるから安心だろ」


「うん……。でも、やっぱりちょっと怖いから……二階の僕の部屋に一緒に来てもらえないかな……?」


 リーロとヒセノは頷く。そしてヒセノの方。安心感を抱かせるような優しい声で返す。


「ぜひそうしよう。僕たち以外の誰にも聞かれたくないのなら、それが一番安心だろうからね」



 *



 二階のグラスの部屋。彼の椅子に座るリーロ。出入り口の扉の近くの壁に背を預けるヒセノ。そして、窓の鍵をしっかりと閉めてからベッドに腰掛けているグラス。ゆっくりと口を開けて、二人に、ずっと心に蓋をしていた誘拐事件の情報を明け渡そうとする。


「どこから、話せばいいのかなぁ。えっと……イシュルに借りていた料理本を返す日が、まさに事件が起こった日だったんだけど、家に入ったときに誘拐犯の二人を見たんだ……それをイノヴァっていう人に伝えたんだけど……すごい顔で怒って、ナイフを喉に当ててきて……獣人で、マナが無いから生かしてやるけど、誰かに言ったら殺すって……」


「……なるほど。副団長から聞いた話と合致するね。誘拐犯が二人。そしてイノヴァが誘拐犯側と繋がってる……その情報がより確固たるものになったな」


 震えた声で打ち明けてくれた情報に、リーロは納得する。


「あ~、つまりあれか。俺のことを疑って全然取り合ってくれなかったのは、イノヴァからの差し金だと思ったからか」


「う、うん。もし、そうだったら、殺されるのかと思って、ずっと……何も言えなかった。疑ってごめんなさい、リーロさん!」


 やっと、向こうの事情を理解したリーロ。きっと誰だってそう思ってしまうだろう。リーロ自身もそうする。


 ただ、誘拐犯二人、そしてイノヴァの裏切り。今グラスが言った二つは既にこちら側で獲得していた情報だった。証言としてより強固になった情報とはいえ、進展は無かったと少し残念に思ったリーロ。だから、もう少し掘り下げようとする。


「特に目新しい情報は無かったように思うけどなァ……もっと詳しく教えてくれねえか。被害者の家に入ったあと、どんなことが起こったとか」


 そう。誘拐方法。転移魔法を使うのではないかと考えていたのだが、その情報に確証を得たかった。今までの監禁された被害者は、誘拐された被害者の事件現場に居合わせたことが無く、あくまで最後に会ったということだけ。


 つまり、事件当時に家に入ったという言葉から、グラスはその現場を直に見たかもしれないのだ。まさしく、誘拐の瞬間そのものを見たのではないかと。


「えっと……じゃあ、家に入ってから、説明していくね」


「辛いだろうが、あの時の状況を細かく思い出してくれ、グラス君」


 彼の気持ちを汲み取って、優しく語り掛けるヒセノ。ありがとう、とグラスはこぼすと、事件を思い返しながら重い口を開く。


「イシュルとはとても仲が良かったから、お互いの家によく行き来してたんだ。だから、借りてた料理本を返そうと合鍵で中に入ったんだ。夜だし暗かったけど……二階が明るかったから、まだ起きてるって思って、二階に上がろうとして……言い争ってたのが聞こえてきたんだ。


 やめて、とかそういう声。大きな音も聞こえて、なんだろうって思ってドアが少し開いてたからそこから部屋を見た。……そしたら…………」


「二人がいたのか?」


「えっと……動けなくなってるイシュルと、すっごく大きな黒い山羊の獣人とぶかぶかな白いコートみたいな服を着てた骨族がいたんだ」


 ヒセノとリーロ。二人して息を呑んだ。新たな目撃情報。まさに、グラスの目が現場を見ていたのだ。今の話が本当であれば、黒い獣人は山羊であるという新たな情報に加え、今まで白い鳥人が協力者として存在していたと思えば、そいつの真の正体が骨族だったと。


 リーロより先に口が開いたのはヒセノだった。


「おいおい、確か白い鳥人族が誘拐犯のもう片方って話じゃなかったか?どういうことだ?現場に落ちてたって……副団長も確かにそう言ってくれてたぞ??」


「……けけっ、フェイクってことかァ?」


 得意げにニヤついたリーロ。思わず足を組む。


「白い鳥人と骨族は遠目から見ればよく似てる。後ろ姿なんて特にな。白い羽をどっかから持ってきて、わざと現場に落としたんじゃねえのかァ?」


 そうすれば、なぜイノヴァは黒い獣人の毛は回収するのに、白い羽は回収しないのかに合点がいく。羽を現場に落とし、それを事件の捜査によって回収させ、種族の違う誘拐犯の一人とさせていたのだ。情報を攪乱させていたということである。ようやく違和感の正体を突き止めたリーロ。なぜその発想に至れなかったのかと頭を抱えていた。


 ただ、彼の言葉に、ヒセノは手を叩いて納得するも顔は晴れ晴れとしない。


「なるほどぉ!……でもなんだか回りくどいね。そもそも羽を落とす必要ってあるのかな。そりゃあ、誤認させられれば大いに役立つけど、それって同時にリスキーでもあるだろ?その羽の存在から、単なる行方不明になりえた事件が、明確な誘拐事件になっちゃうし……。


 そもそもそんなもの落とさなければ、単独犯だと上手くごまかせる可能性があるわけで……むしろ邪魔になるんじゃないか?」


 そこに、腕を組んで反論するリーロ。


「どうだかな。そもそもこの誘拐事件自体が単独犯で成立するもんじゃないだろ?マナの保有量が多い種族でさえあれば、大柄なヤツでも誘拐されてんだぜ。


 更に言っちまえば、習得も使用方法も難しい転移魔法で誘拐しているともなれば、なおさら協力者がいないと成り立たねえ。複数人だって気づかれるのは時間の問題だし、実際に目撃情報が鳥人だと錯覚させられたわけだ。向こうが先手を打ったってことだろうよ」


 影からの反論を聞いて、更に納得するように頷く鮫。


「ああ~……なるほど……」


 次に、グラスへと視線を移す。


「で、どうだいグラス君。その時のそいつら、転移魔法を使った様子を見たかい?そこが重要なポイントなんだろう?」


 リーロを一瞥する。頷いた。


「そうだな。ほとんど確定してるようなもんだが、確証を得たい。……転移した瞬間を見たか?グラス」


「……テンイってなに?」


「おっと、そこからか」


 その言葉自体を知らなかったグラス。魔法を扱えない獣人であるが故にそれに縁がない生活をしているのだから、一般人では知らない割合が多い。もっと言えば、魔法を扱える種族ですら、魔法関係の本を読むかマナ研究者にでもならない限りそうそう見聞きしない言葉なのである。


 魚人でありながらマナを保有でき、しっかりと魔法を扱える稀有な体質を持つ隊長のヒセノ。そして、独自の魔法を編み出した影魔法を使いこなすリーロ。この二人が上澄みなのだ。その言葉を、ヒセノが簡単に説明する。


「簡単な言葉に置き換えると、ワープとか瞬間移動とか、そういうの。人が、シュって、違う場所にすぐ移動する、みたいなイメージだぞ」


「あぁ……!多分、してたかも。ずっと見てたけど三人ともすぐにいなくなったから……」


 リーロは誇らしげにニヤつく。


「確定したな。相手は転移魔法を使える。被害者と自分自身、そして協力者の三人を同時に転移させられるくらいの、やべェほどのマナの保有量があることもな。そんなことだろうと思ったぜ」


 転移魔法、というよりかは人体に関する魔法というのは消費量が激しい。人ひとりでも大量に使う上に、それが最低でも三人。相手のマナの量は尋常ではないということだ。リーロは、この結果をある程度予想していたが、ヒセノはそうでもなかった様子。驚きつつも慎重に考える。


「常人じゃ考えらんないね……どっちが転移を使うんだろう」


「さあな。多分骨族だろ。今までは魔法が使える珍しいタイプの獣人だと思ってたが……骨族ならマナを扱えるヤツが多いしな」


 二人が話し合う中、グラスは思い出していたことがあった。


 それは、およそ二か月くらい前。サヤカが来たあの夜。寒そうなサヤカを家に迎え入れた後、自己紹介の時に、転移、と口にしていた。


 グラスは、二人の間に控えめに割って入る。


「あ、あのさ、転移の話でひとつ、思い出したことがあるんだけど……僕の同居人にサヤカっていう人がいて、多分、サヤカ、転移魔法使えるかもしれないんだ。……その魔法って、僕でも覚えられるくらい簡単に使えたりするかな?」


「……はええ!!?」


 上擦った大声。驚愕したヒセノ。頭のヒレも逆立った。唖然として、その事実を困惑しつつ今の状況を整理する。


「ま、待てよっ。転移魔法ってそんなポンポン使えるやつじゃないだろ??なんで二人目が出てくんだ!??しかも、それがサヤカさんって……!なんか全然想像つかないよ……」


 その名前を聞いてヒセノは思い出した。あの寒がっていた人だ。彼女にも転移が使えるかもしれないという奇妙な偶然に、もはや恐怖すら覚える始末だった。


 一方で、対照的に冷静なリーロ。溜息を吐いた。考えるように赤い瞳は上を向く。たちまち、ふっ、と考える顔がニヤケ面に変わった。


「それは……多分、ありえない気がするなァ。俺の勘だが……」


「なんで?」「なんでだ??」


 同時に二人して聞いてきた。ここで答えは決められない、と、リーロは片隅に置いた。


「勘だと言ったろォ。本人に直接聞けばいい。今はその話は一旦置いておけ」


 ここで事件とは関係の無い人物を出すのは混乱のもとだ。ヒセノは、脱線した話とこんがらがっている頭を整理するために、事件の状況を明確にしようと切り出す。


「なあ、とりあえず、ここまで誘拐事件でわかっていることを整理しようか!まず誘拐犯が、黒い山羊獣人と骨族の二人組。誘拐方法は転移魔法を用いていること。んでその転移は、魔法が使えるだろう骨族がやっていて、山羊獣人が、正確に転移させるための家の下見役……ってところか?」


「……いや、待った」


 リーロが腕を組む。前に誘拐事件の現場に赴いたことや報告書のことを思い出しながら、ヒセノの状況を修正する。


「もし山羊が被害者の家の下見をする役ってんなら、必ず誘拐される二階の現場以外に黒い抜け毛が落ちていないっつうのはおかしいなァ。それも誘拐前には無く、誘拐後に。大柄であることは確定しているはずだ。だから痕跡が残りそうな窓からの侵入はできない。必ず玄関からじゃないと家に入れねえうえ、一階には全く無え」


「じゃあ、家に入らずに下見をする……とか?そういう独自魔法とかでさ」


「マナを介して壁の向こう側を透視するような魔法ってか?見えない向こう側を見る魔法なんて、想像つかねえ。技術者レベルのマナの知識と経験、技術が無きゃ不可能だな。……じゃあ仮に外側から下見ができたとしてだ。問題は、なぜ一階にある玄関からの侵入は必然なのに、二階の現場にしか毛が落ちてなかったか、だ」


 頭を抱えるヒセノ。重要な問題に立ち塞がって、得意ではない頭脳を回転させる。


「確かに……二階には転移するために、家の中に入って下見をする必要がある。でも獣人だと、どんなに慎重に動いても抜け毛でバレてしまう。一階に毛が落ちてしまうだろ。……あれ?わかんなくなってきた……」


「いろいろ、考えねえといけねえみてえだ」


 転移が誘拐の方法であるなら、安全かつ確実に転移するために必ず下見が必要だろう。この魔法を扱ったことは無いが、聞きかじった程度の知識ならある。


 とある場所の位置情報を特定のマナに情報として書き込み、そのマナに対し転移魔法を使うことでその場所へと転移することが可能である。しかし、その位置情報の書き込みというのは、必ず現在地でしか行えない。


 というのも、壁一つ隔てた向こう側の部屋の内装、あるいは、山の向こう側に存在する街の一軒一軒の家の存在を、転移先の景色を情報としてマナに記録しなければならない。それがあってようやく転移が出来るのようになるのだ。


 今回、家の二階という限定的な場所が転移先。故に、その周囲の情報を書き込むというのは現在地でしか必ず起こりえない事柄。


 つまり、家の二階、それも被害者の寝室という場所に一度訪れなければ転移できないのである。しかし、下見役である大柄な黒山羊獣人は必ず玄関から入らなければならない。リーロは、椅子の上で縮こまるように考える。


「ここが大事なところなはずだァ……何かが食い違ってる」


 情報が足りないかもしれない、と心配そうにリーロをみやるグラスに目を向ける。例えば、誘拐犯が事を起こす前に、一度現場に来ていたところを誰かが目撃したかどうか。彼から聞けることは聞いて絞り込もうと考えた。


「なあグラス。事件が起こる前、誘拐犯の姿を見たりしたか?あと被害者からそういうのを聞いたりとか」


「え~と……骨族と黒山羊獣人のことだよね。見てないかなあ……特に黒山羊なんてホワイトガーデンだとかなり目立つし、半年前だっていうことを考えても覚えて無い方が難しいから、少なくとも黒山羊のことは見てないと思う……!イシュルからそういう話は聞いたこと無いから、そこはわからないや……」


「見てねえ、か。……少し考えさせてくれ」


 リーロは背もたれに体を預けて顔を仰ぐ。珍しくニヤケ面が無くなって、真面目に状況を頭の中で整理している。部屋の中、静寂が支配した。そんな中、ヒセノは感心した目つきでリーロを羨み沈黙を破る。


「リーロさんすごいなあ。切れ者って感じで……ここまで辿り着くのも納得な気がするなあ」


「誉め言葉は事が終わった時までにとっておけ」


 黒山羊が下見役である以上、一度現場に訪れていなければならない。しかし、グラスは見ていないという。さらに言えば、もし下見をしていたとして、二階には必ず訪れる。その時に黒い毛が落ちていることになっているはずだというのに、見つかるのは事件後。被害者が気づかないはずがない。時系列の矛盾だった。


 この矛盾を抱えたままにしたくなかった。だが、こういう時こそ、別の角度から見ることによって解決することがある。一旦疑問は疑問のまま頭の片隅に置いておき、現在の誘拐事件の要約をヒセノに再び話してもらうことに。


「まあいい。とりあえず、黒山羊の野郎が下見をした、っていう方向で進めるぞ。ヒセノさんよ、さっきの話の続きをしてくれ」


「ああ、状況整理だね!えっと……誘拐犯が二人いることと、その山羊獣人が下見をしただろう、っていうところだったな。下見を終えて、いざ誘拐当日、骨族が二階の現場へ転移、夜で寝ている被害者を二人で拘束、そのまま被害者と協力者連れて転移で帰る……っていうのが大まかな誘拐方法だよね」


 腕を組んだリーロ。真面目に考える頭で悪態をつきつつ疑問点を挙げる。


「だろうよ。……クソがッ。何かが足りねえ。下見を終えた時点で黒山羊は用済みのはずだろ。なのになんで現場にいるんだァ?」


「確かに!転移先のマナの情報を持ち帰るだけなら、もう現場にいる必要はないよね。……もっと分からなくなってきたよ」


 考えあぐねる二人。グラスは手助けになりそうな頭脳を持ち合わせているわけではなく、それを眺めることしかできない。その時、椅子に座っているリーロが前のめりになって再び質問される。


「グラス。イノヴァの野郎が、事件前にホワイトガーデンに来たところを見たりしたか?」


「う~ん、見てないかなぁ」


「あいつが下見役でもねえと……」


 ヒセノが、その言葉に頷きながら同調する。


「それ、僕も考えてた。治安維持団っていう立場なら、誘拐事件の捜査っていう名目で家に入れるんじゃないかってね。でもその行動が事前にあれば、もっと怪しむ人が必然的に増えるはず……目撃情報ももっと確固たるものになってるし、誘拐事件の担当隊員だから覚えている人も多いだろうしね」


 とうに崩れたニヤケ面。ホワイトガーデンで起きた事件の調査をしていた昼からかなりの時間が経ったようで、斜陽が窓から差している。これ以上の調査は厳しそうだ。そろそろ頭と体を休める必要がある。


「……しょうがねえ。一旦はここで終わりだな。なんかしらの情報が欠けてる。人の手で魔法を使う以上、転移先の情報は必須のはずだ。そこらへんが分からねえとな……あと一歩だと思うんだが」


 不服そうな彼に対し、ヒセノは十分な収穫であると褒め称える。


「でも、大きな前進だよ。鳥人が実は骨族であることと、誘拐方法は転移魔法であること。これらを用いてもう一度調査をしていけば、解決の糸口が見つかるんじゃないか!」


「そうだな。……誘拐の手筈よりも、あいつらの居所を掴む方が優先的だしな。今の情報で分かればいいが。……レイトと団長に今の情報を共有するぜ」


 その提案に肯定するヒセノ。同時に、窓の外を見ていたグラスに声をかける。


「……グラス君。他に僕たちに言っておきたいことはあるかい?気になる事とかがあれば、今のうちに言ってくれ」


 憑き物が落ちたような安心した顔で、彼は振り返る。


「多分、もう無いかな」


 治安維持団に所属するイノヴァという上級隊員に脅迫され、口止めをされていた、あの時の真実。それを、信頼できる隊長と最後まで信じてくれた特別隊員に伝えることが出来た。その安心感で胸がいっぱいだったのだ。


 二人に対して頭を下げ、感謝を述べると同時に、誘拐事件の解決を(こいねが)う。


「ヒセノさん、リーロさん、本当にありがとうっ!特にリーロさんは、イノヴァが怖くて……あの時すっごく疑って切り出さなかったけど、最後まで僕を信じてくれてありがとう……!イシュルを、他の誘拐された人を、どうか助けてください……!」


 心の底からの願い。受け取ったヒセノは静かに頷く。


「まかせろ、グラス君!君の想いはしかと受け取ったよ」


 そしてリーロ。彼からの感謝にいつものニヤケ面が戻って、脚を組んだ。


「もちろん、解決してやるぜ」


 斜陽注がれる部屋の中、薪はくべられた。ヒセノはグラスの想いを受け継ぎ、リーロは誘拐事件のその先を見据える。誘拐の全貌まで、あともう一息だろう。


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