表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
特異点から告ぐ  作者: 宵山
第二章 ──誘拐事件、交錯する運命──
40/49

40- 初任務

 

 寒い朝。人がいなくなったという通報があった。治安維持団の乗った、軍用車のような厳ついボックス車が現場に駆け付けた。場所は、レベルシティから北に位置するリバング街。白い街並みの、活気があった場所。そして、誘拐事件および行方不明事件が多い街である。


 車から降りたのは、治安維持団、例の誘拐事件の担当上級隊員である、深緑色の体をした巨態(きょたい)族のイノヴァ。そして先日、新たな枠組みの隊員として採用された、誘拐事件限定で捜査が可能である特別隊員のレイトとリーロ。専用の特別な隊服を着ての初任務。レイトは目の前の家を見据えて降りたが、対してリーロはやや面倒くさそうに降りた。


 そのほか、機械族の下級隊員数名が下車。


 行方不明事件が起こった家周辺が立ち入り禁止になっている。イノヴァらは、治安維持団のみ入ることが許される、その現場周辺に入っていく。事件が発生した家。その玄関に、腕を組んで誰かを待っている風族がいた。イノヴァは、その人に近づいていく。


「第二隊長。現場の状況はどうですか?」


「言われた通り、下級隊員に一階を任せてるよ~。収穫は無さそうだから、恐らく二階だろうね~。今回も君からだよね?」


 担当隊員の到着を待っていた、治安維持団第二隊長のレイノルズ。飄々とした口ぶりと細身かつ長身な背格好から好青年さが伺えるが、あまり声の張りを感じない。イノヴァは、ため息交じりに後方を親指で指差す。


「そうです。あー、それで……今回から特別隊員なるものが導入されまして。どうせ長い付き合いになりますから、名前を覚えておいてください。……おい、挨拶しろ。俺は先に二階の捜査をしてくるから、自己紹介をしておいてくれ」


 上司には愛想よく、部下には不愛想なイノヴァ。振り返って二人に挨拶を済ませるよう伝えた後、一人の隊員を連れて足早に家の中へと入っていった。それを三人は見送ると、目で追っていたレイノルズが二人に顔を向ける。赤いフードを深く被りなおした。


「本部から聞いたよ~、二人とも。誘拐事件に関する事件のみ捜査してくれる隊員なんだよね?僕はリバング街とリカ街の事件の管轄を任されてる第二隊長のレイノルズだよ。よろしく」


「俺はレイトって言います。よろしくお願いします、レイノ……じゃなくて、第二隊長」


「んで俺はリーロってんだ。よろしく頼むぜ」


 二人は第二隊長と握手を交わすと、先ほど家の中に入っていったイノヴァの事を思い出しながら、今回の捜査について彼に聞いてみるレイト。


「すいません、発生直後の誘拐事件の調査は初めてでして。色々聞きたいんですけど、いいですか?」


「いいよ~、レイト君。僕に分かることならどんなことでも。でもその前に……」


 レイノルズは獅子獣人の隣にいる、背の低い丸い影族を見下す。表面上では、穏やかに。


「リーロ君。上は敬うものだよ~。実際にそう思っていなくても、少なくとも敬語は外しちゃダメだね」


「そうかい」


 全く話を聞いていない彼は、イノヴァの後を追うように玄関へ向かう。扉を開けて、変わらぬニヤケ面を浮かべてレイノルズを横目に見た。


「俺に構わなくていいぜ。やることが山積みだからなァ」


 言い放って彼は中へ。あまりに突き抜けた自己中心的な態度に唖然とするレイノルズ。身勝手に動き、この場をかき乱す影に開いた口が塞がらないレイトは、細い尻尾を下げた。腰を曲げて勢いよく謝罪する。


「すいません!あいつそういうやつなんで!まじですいません!」


「……いや、いいよ。むしろ嫌いじゃない。ああいう、飾らないところはね。……それで、聞きたいことっていうのは?」


 丸い影からの失礼極まりない行動に、むしろ好感触に感じてくれた彼に安堵するレイト。先ほどのイノヴァ上級隊員のことについて聞いてみたいことがあった。


「えっと、イノヴァさんって、この誘拐事件の担当隊員なんですよね。それ以外の事柄で、イノヴァさんのことについて教えてもらってもいいですか?」


「あいつの情報について?てっきり事件のことかと思ったけど……ま~、いいよ。親睦を深めたいってことなら喜んで教えてあげるよ」


「ありがとうございます」


 レイトは、本部から一緒に来た、隣にいる機械族の下級隊員を一瞥する。再びレイノルズに顔を向けた。


「っていっても、具体的な情報っていうよりかは、印象に近いですけど……。イノヴァさんの気になるところとか、変なところについて聞いてもいいです?」


「変?……それこそ変な質問ってところだけど~……僕から見たあの人の印象か~」


 腕を組んで彼の印象について考え込むレイノルズ。彼自身、イノヴァとはそれほど面識がない。とはいえ、誘拐事件の多い街であるがゆえに顔を合わせる頻度は多い。が、そのどれもはプライベートではなく、事件の捜査によるものばかり。そのため印象は捜査に寄りがちになる。


「そうだね~……捜査の仕方が独特?慎重?なんか、やたらと一階を下級隊員に捜査させて、二階をあの人自身が捜査してるんだよね~。不器用で不愛想、独善的ってタイプだけど、あれでも一応上級隊員だし、自分なりの捜査方法だって言ってたけど、非効率だな~って。ま、あんなんだけど、誘拐事件の担当になる前は相当腕が立つ人だったし、大目に見てるけどさ」


「なるほど……今回もそうですか?」


「そうだね~。あいつ、事件の連絡を受けてすぐ、絶対に二階は自分が捜査するって言ってきたよ。こだわりってどころか、もはや……そういう病気に見えるね~、僕は」



 *



 一方、事件が起こった家に入ったリーロ。玄関から近い台所。リビング、廊下やトイレ、それぞれが分担して捜査しているようだ。


 一階のくまなく捜査をする隊員たちを横目に、リーロはイノヴァが上がっていった階段を上ろうとした。しかし、階段すぐ近くの機械族の下級隊員が制止を促す。


「ただいまイノヴァ上級隊員が独自で二階を捜査されています。終わるまでしばらくお待ちください」


「お前さん。今の天気は晴れか?」


「…………」


 突然の質問に、モニターに映っていた顔に一瞬だけノイズが走る。故障ではないことを分かっているリーロはそのまま待っていると、たちまち返事をする。


『晴れですね』


 今の天気は曇りだった。しかし、間違った情報を与えられてもリーロは平然とする。


「イノヴァについての情報はどうだ?」


『私の方で得た情報とレイトさんの聞き込みによって得た情報を足し合わせると、思った以上に彼の捜査体制は杜撰だということが判明しました。彼の行動には疑問符しか浮かびません。二階を先に単独で捜査、という報告書に記載されていない行動も既に見受けられることから、何かを隠していると思って間違いないでしょう。機械族の下級隊員を用いればすぐに判明していたことでしたが』


 憤りを覚えている音声だった。そんな機械に茶化す影。


「いずれは解決される、って高を括ってた結果だぜ」


『返す言葉もございませんね。……ではこちらへ』


 制止を促していた隊員がリーロを連れて階段を上がっていく。先ほどの行動とは全く真逆。それもそのはず、今の機械族の隊員、リーロの合言葉によって団長であるフロイトが、本部からこの隊員に向けてハッキングして乗っ取ったのだ。


『今操っているこの下級隊員は彼の指示を忠実に守る右腕のようです。記録領域には、第一隊長からの指示を保留した記録が残っています。立場がさらに上の指示を聞かなかった……。こちらも不可解なので後で調べておきましょう』


「そうかい。なら頼んだ」


 静かに、階段を上がり切った二人。部屋が二つある。そのうち一つが開け放たれており、中には誰もいない。となれば、もう一つの部屋にイノヴァがいることは確定した。二階の寝室に当たる部分。例の誘拐事件は、いつも二階の寝室である。影と機械、隣で囁き合って行動を決める。


『リーロさん、例の潜入ですか?』


「もちろん。プロに任せな」


『では私は下に戻って、資料を確認しつつレイト隊員と待機しておきます。お気をつけて』


 階段を下るところを見送った彼は、壁掛けの燭台をいくつか吹き消すと、得意げな顔で地面に溶け込むように影と一体化する。影が少しでも入り込めるくらいの些細な隙間さえあれば、リーロは影を通してどんなところにでも潜入できる魔法を習得している。


 しかしながら弱点として、この状態だと光源に近づけば近づくほど体全体に痛みが生じる。炎や光が光源の場合は多少我慢は出来るがおおよそ数分しか持たず、太陽のもとでこれを使うことは苦痛のリスクを伴う。


 今、光源である火を吹き消したことによって痛みはない。しかし、部屋の中はわからない。窓から差し込む日の光すら、直接触らずともじわじわと痛くなってくるのだ。


(さてと。入って早々太陽はご勘弁願いたいぜ)


 二階でイノヴァが何をしているか。捜査をしているのか、あるいは捜査と言って別の何かをしているのか。確証を得るために、扉の下の僅かな隙間から入っていく。早々に日の光に晒されることは無く、ほどよく遠くにあって、杞憂であると安心した。これであれば数分は持つ。


 そしてお目当ての彼。歩きながら、その筋肉質な体を前に曲げ、床に顔を向けて目を細めていた。まるで、小さな何かを熱心に探しているようだった。捜査と言えばそう見えるが、それにしては、ある一つのものに限定して必死に探しているように見える。そして、彼の手には小さな紙袋。家に入る前は持っていなかった。何かあるとすればあれだろう。


 移動範囲を床から壁、そして天井へと移る。彼の持つそれの中身を天井から覗いた。一瞬、何も入っていないかのように見えたが、かすかに、黒い毛が入っていることがわかる。巨態族であるイノヴァ自身、肌は深緑、体に黒い毛が生えているわけではない。居なくなった人物も白穏(はくおん)族であるので被害者のものでもない。


 つまり、現場に落ちていた不自然な証拠。リーロは推測する。


(黒い毛……長さ的に獣人か?異頭や球形にも被毛が生えてるやつはいるが……でもあんなに長く生えてるやつはそうそうないはずだなァ)


「ああ、あったあった。全く……気を付けると言っておいて抜け毛がそこかしこにある、まったく」


 イノヴァはその黒い毛を拾いつつ、誰かに対して吐き捨てるようにひとりでに放った。半ば確信したリーロ。


(そこかしこで抜け毛か。獣人で確定していいだろ。……誘拐事件の目撃情報に大柄な影族とか言ってたが、おもいっきし間違った情報らしい)


 イノヴァに対するなんとなく感じていた不信感も、これではっきりした。誘拐事件の担当の上級隊員でありがなら、その実犯人と繋がっている。彼らに繋がる現場の証拠を片っ端から集めて密かに処分するために、二階に誰も上がらせなかったのだ。


 このことを誰も疑わなかったのは、彼のもとにいる隊員は全員機械族の下級隊員であるために、忠実に指示を遂行させていたからだろう。苦言を呈することはあっただろうが、基本的に、立場が上の指示に従わないのは規則違反だ。杜撰かつ大胆な証拠隠滅は、規則を違反しないよう行動する機械族の部下の上に成り立っていたのだ。


(報告書の精査は担当地域の隊長がやってるって聞いたなァ。こ~んな怪しいのを、風のヤツはなんの疑問も持たねえで通してたってことか?やったことを書いてない時点で疑うべきだろ、こんなの。隊長が聞いて呆れるぜ)


 第二隊長にも非はある。彼に毒づいていると、段々と体が痛くなってきた。急いで辺りを見回すが、他に証拠になりそうなものはない。


 彼から他の情報を見つけたかったが、時間切れが迫ってきていた。まだじんわりと痛む程度だが、長くこの状態を維持し続けると、途端に体全体が痛くなることがある。もしそうなれば、影に入ったこの状態が解除され、イノヴァに向かって影の巨体が落ちることになるだろう。


 面白そうだとリーロは思ったが、優先するべきは感情ではなく情報だ。誘拐犯は黒い毛を生やした獣人。この情報を届けようと、リーロはイノヴァのいる部屋から出る。二階の廊下。影の状態を解除して立ち上がった。


 解除しても痛みはまだ残る。じんわりと広がっている痛みを抱えながら、リーロは階下にいるレイトとフロイトのために階段を下りて行く。意外とすぐ階段の近くに二人がいた。振り返って彼が来ていないことを確認すると、着いて来るように言った。



 *



 場所は事件が発生した家の裏手。念には念をとイノヴァには気づかれないような場所で話し合うことに。リーロは、先ほど手に入れた情報を二人に伝える。


「潜入した結果、分かったことは二つだ。一つは、詳しい犯人像が分かったこと。二つは、イノヴァは黒ってことだ」


『具体的に説明をお願いしても?』


 フロイトが掘り下げるよう要求すると、リーロは壁に凭れ掛かって太い腕を組んだ。


「まず誘拐犯だな。こいつは多分黒い毛を生やした獣人族だ。イノヴァが熱心に現場に落ちてた黒い毛を拾ってたぜ」


「なるほどなぁ。被害者のものじゃないのに落ちていた毛。黒色で大柄、それが獣人か……。目撃情報だと影族ってことになってたな」


 捜査が進展したことを喜んだレイト。一方で、冷静に分析するフロイト。


『それが本当であれば、かなりの人物を絞り込めそうですね。そして、その犯人に繋がる証拠を彼が……』


「そういうこった。どうする?あいつに直接聞き出すか?」


 リーロはフロイトに聞いた。短絡的な行動だったが、新たな犠牲者が発生してしまうことを考えた場合、迅速な行動が必要だ。だが、それは最終手段としましょう、とフロイトは前置きして続ける。


『まずは、黒い獣人を見つけるところから始めてみましょう。治安維持団に所属する機械族の映像記録は六十日間保存されます。一体ずつ映像を確認して、例の獣人が見つかるか、そこから試してみましょう』


「どれくらいかかりそうです?」


 画面に映る赤い目が閉じられた。計算しているらしい、ほどなくして目が開けられる。


『……早くて五日程度ですね』


「まあまあかかっちまうな。全部じゃなくて、誘拐事件が起こる前後の記録だけでいいんじゃねえか?」


『それを考慮して五日です。治安維持団には数多の機械族がいますから』


 二人は困るように頷いた。解決の糸口が見つかったというのに、ここで時を待たなければならないむずがゆさに焦燥を感じるレイト。


「なら……その間にこっちで色々するしかないな。犯人の特定はわかるとして、次の問題は誘拐方法と居所の特定か。そういやリーロ。潜入したとき、その黒い毛以外の証拠ってあったのか?それがあれば、どうやって誘拐したとか分かるんじゃないのかよ」


「あったらもう言ってるぜ」


『ふむ……』


 フロイトは思考する。頭のモニターの下部に手を宛がって、思っていたことを彼に問う。


『今までの誘拐事件の捜査資料を調べたところ、これについても黒い毛についての記述がありませんでした。つまり、この証拠はイノヴァが隠蔽しているものだと、十中八九そう言っていいでしょう。ただここで問題が一つ。なぜ黒い毛が一階にないのか。彼が報告書を改竄しているとはいえ、他の隊員が見つければ捜査資料には記録されます』


「確かに……誘拐するためにはまず家に入らないとだろ?二階が必ず誘拐される場所になるなら、一階にも毛が無きゃいけない。窓から入るってのも手だけど、大柄な獣人なら厳しいだろうし、絶対に何かしらの痕跡が残る……それこそ、ワープとか、転移とかじゃ……あっ」


 口に出しておいて驚くレイト。リーロの口角がさらに上がった。


「転移……なァ」


『転移魔法ですか?』


 その言葉に興味を示しつつも、声のトーンは下がるフロイト。


『現実味は無いですが、一理ありますね。車などを活用して誘拐したという線は、今までの報告書を参照した限りではかなり薄いですからね。遠くから転移し、驚いた被害者を拘束、そのまま住処にもう一度転移する……。可能性として十分です。


 しかし、ワープや転移などといった、人が瞬間的に移動するものや、人の転送などといった魔法の習得は困難を極める代物です。身体の一部を治す治療魔法ですら至難の業ですから、それが人ひとりの規模だと……知識やマナの量も考慮すると不可能に近いでしょう』


「……もし、それが不可能じゃなかったらどう思う?団長さんよ」


『いえ、不可能とは言ってませんよ。不可能に近いと言っただけです。使える者がいますから』


 信じられない言葉を聞いたレイト。思わず眉を顰めた。


「え?いる……?」


『以前貴方がたとお会いしたでしょう。副団長の特質が転移関係ですよ』


「ああ!オイケンさん!?あの人が!?」


 先日、治安維持団の本部に潜入した際に初めて出会った副団長。隊服を貸与、治安維持団の諸々の説明をしてくれた苦労人だ。


『彼は巨態族と影族のハーフですが、影族の遺伝により特質が使えます。それが転移ですよ。特質であればマナ関係なく、扱うことが出来ます。とはいえ、連続して転移すれば、疲労がかなり溜まる制約があるらしいですが』


「だから外交とかやってんだ。便利な能力だなあ」


 レイトが感心する一方、リーロはその赤い目が一瞬伏せられるが、すぐにフロイトに目を向けて肩をすくめる。


「制約があっても十分すぎるぜ。羨ましい限りだなァ?」


『副団長のことは置き……これからどう動きますか?相手は転移を使えると見越して行動すると?』


 関係の無い話を隅に置いた団長。今後の行動についてある程度指し示すと、レイトはそれに同意するように頷く。


「そうですね……そうしよう。あとは誘拐犯の根城……っていっても転移魔法を使うってんなら痕跡もクソもないな。手がかりが一つもない。資料見てても全くだったし」


 レイトのは、誘拐方法について行き詰まったかのように見えた。しかし、ここで思いついたのはリーロ。困り果てている獅子にニヤけ顔を向けた。


「とはいえ、無鉄砲にそうしてるわけじゃねえだろ?偶然、家の二階に転移できることはないはずだぜ。転移魔法っつうのは、確か……あれか、転移先の場所を明確に頭の中できっちり思い描くかとか、転移先のマナの情報を魔法として発動することで転移できるらしい。多分。どっちにしろ、念入りに下調べをしているか……あるいは……」


 続きを二人に託す影。それに応えるように、レイトとフロイトが同時に言う。


「協力者か!」『協力者ですね』


「ああ。そこで目撃情報のもう一人、細身の鳥人だ。こいつが下見役かもなァ……けど、誘拐犯がどちらも獣人っつうことになる。マナを扱えないやつらが多い。そのうえ、転移二回分のマナ量はどこからくるんだ?」


「ってなれば、鳥人の方も怪しく感じてくるな。実は白穏族とか?マナの保有量は影族と同レベルなんだろ?」


 目撃情報を疑うレイトの発言に、フロイト首を振っては否定する。


『いいえ、そちらは断定しても良いでしょう。目撃証言とは他に、白い羽が事件現場に度々落ちていたので、これは確固たる証拠です』


「なるほどです。なら安心か……」


 素直に納得するレイト。しかし一方で、やはり違和感を覚えたリーロ。獣人二人分のマナ保有量をもってしても、転移を発動するための量にはならないだろう。考えあぐねる影。その様子を知らない二人は変わらず会話を続ける。


「そっちの方も機械族の映像記録とかで見てみます?」


『ふむ。獣人の方と同時進行で進めていきましょう。合算すると五日よりもかかってしまいますが、仕方の無いことですね』


「なら、俺たちでやれることは……」


 レイトはリーロと目を合わせた。この言葉の続きをリーロに任せたいらしい。腕を組んだままの彼。思考がレイトの方に戻り、唸ってニヤケながら一言。


「んじゃ、イノヴァから直接聞き出す、とかかァ?」


 溜息の音を出すフロイト。明らかに呆れている。


『それは最終手段だと言いましたよ。彼が上級隊員であることに理由がないとでも?犯人を捕まえるために様々な訓練をこなして実績を積んできた精鋭の一人です。切れ者が故に、今から追及しても、のらりくらりと躱すでしょう。もしやるのなら、確固たる証拠が揃ってから逃げられないよう追い詰める方が得策でしょう』


「だったらあの黒い毛が証拠だろ?今ならどんなことでも聞き出せそうだと思えるんだがなァ?」


 対抗する影に、獅子は留まるよう説得する。


「やめろよリーロ。戦えるからってすぐ実力行使しようとするの、お前の悪い癖だぞ。自信があるのは結構だけど、他の人のことも考えて行動してくれよな」


「……けっ、似た者同士がよォ」


 頭の中に響いた言葉と目の前のレイトの発した言葉がリンクしたことに不貞腐れるリーロ。そこでひとつ、妙案を思いついたレイト。


「そうだ、なら、団長さん。マナ技術者さんの手を借りれば、映像記録の調査、もっと早くなったりとかします?」


『既にレベルシティにいるトップクラスのマナ専門技師がメンテナンスをしてくれています。その方と同じ技術力、あるいはそれより高い技術を持っていれば、早くなるでしょうね』


 レイトに次いで、リーロが球形族の彼のことを思い出す。


「あいつか?」


「ああ。早くなる可能性があるなら、連れてみてもいいんじゃないか?そうすれば、俺たちの行動もおのずと早く決められる。無駄ではないはず!」


『では、お連れしたら本部の受付にてそうお伝えください。待っています』


 意気込んだレイト。フロイトの言葉に力強く頷くと、家の二階を見上げる。


「そろそろ戻らないとかもな。いないって怪しまれるかも」


「特別隊員だし独自の捜査をしててもいいんだろ?戻るこたぁない」


 いつものリーロの自分勝手な行動に、つい腹が立ってしまうレイト。しかし今に始まったことではない。現状を俯瞰し、自身の思う最善の行動を取ることに。


「そういう事なら俺だけでも戻るよ。誘拐事件として呼ばれてるのに特別隊員が一人もいないのおかしいだろ?最低限一人は現場にいないとな」


「ならそうしてくれ。影魔法を使って存分に腹が減ったから、近くの飯屋にでも行ってくるぜ」


『構いませんが、治安維持団の経費には宛がえませんからね』


「俺をそういう目で見てたのかァ?心外だぜ」


 最後にはちょっとした歓談を交えつつ、一通り三人での話し合いが終わる。フロイトは、ハッキングしていた機械族の隊員をもとに戻して本部へと戻り、映像記録に例の獣人と鳥人が写っているかの調査を進める。


 レイトは言葉通り現場に戻った。イノヴァからどこへ行っていたと問われたが、トイレへ行っていたと適当に濁し、リーロは外での聞き取り調査をしていると嘘をつく。


 潜入の一仕事を終えたリーロは、変わらぬニヤケ面のまま、鳴り止まない腹を抱えて近くの飯屋に一直線。



 やっと暖かくなり始める朝。それぞれが行動して誘拐事件を解決しようと動くのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ