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特異点から告ぐ  作者: 宵山
第二章 ──誘拐事件、交錯する運命──
38/49

38- おそろい

 

 昼下がりの海底街。その中の数多ある飲食店の一つから、サヤカとマルキスとグラスが満足げに出てきた。特にサヤカは、先ほど食べた料理に感動を覚えていた。


「まさかこの異世界に来てからもお寿司を食べられるなんて思いもしなかった……!マグロにブリ……ふふ、全部美味しかったわ~……」


「ね!また来たいなあ~」


「なあ、あの店員から連絡先貰っただろお前」


「ああ、あの大きい魚人族さんの……?」


 確かに、カウンター席に座った三人の内、サヤカにやたら話しかけてきていた男の魚人族がいた。たしか彼は、店に入る前にチラシをくれた男と一緒だった。なんなら、マナ届声(かいせい)機の番号をメモしたものをくれた。サヤカはそれをポケットから取り出す。四角に丁寧に折りたたんだ紙を広げて文字を見る。


「届声機の番号をくれたけど……なんでなんだろ?」


「惚れてたんだろ」


「え??惚れ……???」


 彼の様子をよく見ていたマルキスが、憶測にしては確信めいた顔で横からメモを見る。途端、ふっ、と鼻で笑った。


「『時間があるときとか海で泳ぎたいときとかにぜひ届声を』だってさ。あんな分かりやすいお誘いを接客中にやるとかバカだな」


「ん~と……ナンパってこと……?」


 サヤカが嫌そうに眉をひそめてメモを畳んで再びポケットへ仕舞う。


「だろうよ。サヤカ、お前何歳だ?」


「えっと、十七歳……」


「だろ。その紙勝手に捨てておけ」


「ええ……ありがとう……?なんか、優しいね?マルキス」


 普段そんな分かりやすい優しさなど見せないマルキスに、サヤカは戸惑いつつも嬉しく思った。それを指摘すると赤い目を細めてサヤカを睨む。


「ダメなもんはダメだってはっきり言っただけだ。悪いもんに悪いって言って当然だろ」


「ふふ、そうだけど、なんだかいつもより優しさ感じるな~って思って」


「は、はあ?」


 目に見えて困惑する兎。長い耳を立てると苦い顔でそっぽを向く。


「意味わかんねえよ。ったく」


 小さく呟いたマルキスにグラスが、笑顔でスキップしながら近づいて肩に手を置いた。


「いつものマルキスも今のマルキスも全部好きだよ!」


「はあ……??な、なんだよお前らさっきから……」


 二人からの誉め攻撃に変わらず意味が分からないと呟きつつも、睨む白い顔が照れて赤くなる。ごまかす様に二人の前に早歩きで出ると、地上行きのターミナルへ一直線に歩き出した。


 その様子を楽しく、微笑ましく思ったグラスとサヤカは、これ以上なにも言わずに笑顔のままマルキスへ着いていった。



 *



 海底街のアンダーライトから出て、再びリゾート地のスターライトシーサイドに戻って来た一同。数時間ぶりの直射日光。最初、ここに来たときは昼前でまだ暑くなるには時間が必要だったが、今はそうでもないようだ。海の中で感じていた涼しさが外の熱気と日射で上塗りされてしまった。気候としては冬に差し掛かっている頃だが、まだまだ暑さは残っているようだ。


 早々に車に乗ってホワイトガーデンへ帰ろうとマルキスはやや早く歩く。が、グラスは止まって、ターミナルのすぐ横の売店に視線が行った。


「ねえ、お土産でも買って帰ろう?名産品とかさ」


「そうね!ここに来たっていう証が欲しいわ~!……マルキスもほら!」


「…………」


 先ほどの事を気にしているような無言。返事はしなかったが、売店に向かう二人に着いていく様子を見るに否定はしないらしい。


 三人は売店の前でそれぞれ商品を見やる。マルキスの目を引かせたのは、瓶に入った異様な名前の調味料。


「砂ジャム……」


 浮遊魔法で調味料の瓶を回して詳細を見ると、ピーナッツバターと書かれている。砂をそのままジャムにしたわけではないらしい。はぁ、と安心と困惑をため息で出す。


 一方サヤカは、その隣で熱心に見つめているものがあった。


「スターライトシーサイドの小さい絵ね……ポストカードみたい。部屋に飾っちゃおっかしら!」


 綺麗な夜景と明るい海を背景にしたホテルの二枚を手に取ると、店員の女性の魚人族に持って行った。そしてもう一人、グラスはとあるペンダントに目が釘付けになっていた。


「星の砂……綺麗だなぁ」


 星の形をした砂がいくつか入っているという、ごく小さな瓶が付いているペンダントだった。数は三つ。マルキス、サヤカ、グラスの三人分丁度だ。良いことを思いついた彼は、二人に提案する。


「ねえみんな!これ買おう!三人で付けて……ペアルック?にしよう!」


「ふうん……ここの砂から取ったやつか……長年のマナと水の接触によって形が変化した砂から星の形をしたものを使用している、ね。いいんじゃないかグラス。そんな高くないし」


「え、なになに、二人して」


 グラスとマルキスが腰を曲げて同じものを見ている傍で会計を済ませたサヤカが、二人の視線を追った。それを見ると、グラス同様目を輝かせる。


「ほ、星の砂……!綺麗ね!三人で付けてお揃いにしちゃおう」


「見事にグラスと同じこと言ってるなお前。そんなにお揃いがいいのかよ」


 少し困惑しつつも否定はしないマルキス。そんな彼にグラスとサヤカから一押しがかかる。


「うん!僕たちが一緒にいた証!」


「もっと言えば……家族の証っ!!」


「家族とは大きく出たね。血も育ちも、サヤカに至っては種族も違うだろ」


 苦笑いを浮かべながら分かりやすい正論をぶつけてくるが、サヤカは首を振ってむすっとする。


「もう……!イイじゃない、そういうのは!理屈じゃないのよ、ね?」


「そうだよ、マルキス!これを持ってれば、いつでもマルキスとサヤカの顔を思い出せる!どんな辛いことがあっても!」


「……別に否定はしてないけどさ、でも家族はやっぱ言いすぎだろ。あってまだ友達程度だ」


「と、友達なのに同じ屋根の下で暮らしてるのよ?」


「そういう友達もいるだろ」


 さらなる理屈で否定していくマルキス。どうしても家族だと言わせたかったサヤカは、グラスに肩をたたかれて慰められ、仕方なく諦めた。


「むう……じゃあそう言うことでいいから買お。三人でおそろいで!」


「うん!おそろいだ!」


「それは賛成」


 お互いがそれぞれお金を出して、星の砂入りペンダントを購入した。その場でつけてみるサヤカ。売店に合った小さな鏡に顔を寄せて、ペンダントを付けた自身の姿を見る。


「うん。いいかも!素敵じゃない!」


 満足げに頷いたサヤカとそこに同意するグラス。安心したような目で星の砂を見つめるが、マルキスはペンダントを付けたことに少し違和感を抱いた。


「首になんかついてるのって落ち着かないな」


「まあまあ、今日くらいはつけてようよ!」


 グラスから言われて、不満げにしつつもパーカーの下に隠してつけたままにすることにした。今日一日は付けてくれるようだ。


 三人のおそろいが出来上がった星の砂を、大層大事に見つめながら、先行して歩くマルキスに着いていくグラス。サヤカもその瓶を目の上に掲げ、太陽に照り返す星を見つめ、ふふ、と微笑むと、二人に歩み寄って共に車へと向かっていった。


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