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特異点から告ぐ  作者: 宵山
第二章 ──誘拐事件、交錯する運命──
37/52

37- 懐かしい縁

 

 昼頃の海底街、アンダーライト。太陽の光が乱反射して二人のいる広場まで届いている。


 マルキスは絵の依頼をしてくれた顧客の対応している間、サヤカとグラスは、公園の広場のベンチでゆったりと待っていた。お互い近くの屋台に売ってあったアイスクリームを食べて、それぞれ味の感想を言い合っている。


 コーンを、牙が見えるほど大きな口を開けてバリボリ食べるグラスに、サヤカはふふっ、と微笑む。対して控えめに、こぼれない様にコーンとアイスを食べる彼女。そんな時、ふと、女性の真っ直ぐな声がグラスに向かってかけられる。


「あら……グラス!グラスっ!」


 二人はその声の主を見る。素朴な装いの、熊の獣人族だった。その姿を見て、グラスは嬉しさで目を見開いた。


「エミーラ姉さん!」


 思いがけない再会に、アイスクリームを残り全部食べて立ち上がるグラス。お互いに歩み寄って抱き合った。


「久しぶりじゃないの~っ!元気にしてた?」


「うん、もちろん!最近は全然帰れてなかったから……心配かけちゃったね」


「全っ然!元気ならそれでいいのよ~」


 二人の距離の近さにサヤカが興味深そうに、かつ控えめにその様子を見ている。抱き合った二人は離れて、エミーラと言われた熊がサヤカを見やる。途端に笑顔へ。


「グラス!あなたもしかして彼女さん連れてるっ!?いつの間に~!」


 サヤカは食べていたコーンが口から吹きそうになった。


「ち、違うよ!!そういうのじゃ!!」


「あの、違います!同じ家で暮らしてるだけです!」


「あら~~、もうそこまでいったの!?」


「ち、違うって~~……」


 否定し続けて、困り果てた末に頭を掻くグラスにエミーラが手を振って笑う。


「ははっ、冗談よっ!けどまあ、また大きくなった?大人になったのにまだ背が伸びるなんて、ただでさえイイ男なのにさらに魅力的になっちゃうじゃないの~」


「あはは、エミーラ姉さんとイーシャおばさんが育ててくれたおかげだよ!」


「もう、お世辞も上手くなっちゃって~~」


 楽しく話し込んでいる二人を微笑ましく思い、サヤカは何も言わず、アイスの最後の一口を食べつつその光景を見つめる。しかし、そんな時、サヤカに近づく、好青年で筋肉質な魚人族の男性がいた。控えめに、しかし(したた)かに彼女の目の前に現れると、少し照れた様子でチラシを渡してくる。


「あ、あの、これよかったら……!お腹空いた時にぜひ寄ってください!ここから近くの店っす!待ってますんで……!」


「え、あ、どうも……?」


 サヤカはチラシを受け取った。男は顔を見せないようにして帽子を深く被りなおすと、軽いお辞儀をして去っていった。チラシの内容は、寿司やら海鮮丼やら魚料理全般が載っている。彼が言っていた店で注文できる料理なのだろう。


 チラシを見ていると、グラスと話していたエミーラがサヤカに向かって声をかける。


「そうそう、あなた名前は?なんて言うの?」


「私は咲夜歌(サヤカ)って言います!」


「サヤカ!あたしはエミーラよ。今後もグラスと仲良くね!とてもいい子だから!」


 チラシを持ってない方の手で握手される。芯のある温かさだった。


「はい!もちろんです!」


「エミーラ姉さん、そういえばなんでここに?観光?」


「あそうそう、村のみんなから頑張りきりだって観光にでも行ってきて言われたのよ!」


「そうなんだ!わざわざ遠いとこまで来たんだね!疲れたでしょ?」


「全然よ~、むしろ村の仕事し足りないくらいだって!」


 話に花を咲かせている二人を横目に、サヤカはマルキスがこちらへ歩いてきているのに気づく。取引が終わったようだ。顔に疲労を浮かべた様子で袋をバッグに入れつつこちらまで来ると、エミーラの後ろ姿を見て驚いた。


「あれ、エミーラさん?」


「あらあら!マルキス!あなたも来てたの!」


「こんにちは。村で会って以来でしたね」


 マルキスの方も見知った関係のようだった。互いに握手を交わす。村で会ったところを聞くに、マルキスは、グラスと共に一回はグラスの地元の村に帰ったのだろう。その時に挨拶をした。そう推測し、二人の会話に控えめに割って入る。


「村?……グラスの地元ってことよね?」


「ああ。ファイドヒル村、ですよね」


 エミーラへ確認するように村の名前を言うマルキス。彼女はうんうんと頷く。


「そうそう!またいつでも帰ってきていいからね、グラス!」


「うん!また時間があるときに帰るよ!」


「ははっ、マルキスも元気そうで何より!描いてくれた絵今も大事に飾ってるわよ!」


「それはどうも。またいつでも依頼お待ちしてます。村の方は変わらず賑やかですか」


「ええ!男たちのおかげでね。ただやっぱり木こりの後継者不足なのがどうしてもね~」


 木こり。森林伐採の職に就いている人のことを指す言葉だ。ファイドヒルは林業を営みにしているようだ。ただ、後継者の少なさを悲しそうな顔で話す。建築なり家具なりで木材を使うだろうに、供給が間に合っていない現状を嘆いているらしい。現に、グラスの住んでいるホワイトガーデンは木造建築の建物が多い。


「夢を持ってレベルシティなり色々行くのも、いいとは思うけどね~、なんだかね~……って、別にこんなこと聞かせてもしょうがないわね!ごめんごめん!」


「う、うん……きっといい人見つかるよ!」


 気まずそうに頭を掻くグラス。しかしそれには気づかないエミーラは、あ、と思い出したように海面越しに太陽を一瞥すると、次に地上行きのターミナルに目を向けた。


「あら、ごめんなさい!そろそろ行かなきゃ次に間に合わないわね!ここでの観光は終わったからあたしは行く!次はシャドフルタウンで観光だから!」


「あらら、そうなんだ!体に気を付けてね!!また今度村に帰るから!」


「待ってるわよ~!マルキスとサヤカもまた!村で待ってるわね!」


「はい、また」


「ぜひ行きます!」


 エミーラはこちらに手を振りながら、足早に立ち去って行った。嵐のように到来し話したいだけ話して嵐のように去っていった。珍しく少し気疲れたグラスが困った顔で舌を出して頭を掻いた。


「ずっと喋り続けるからちょっと疲れた……帰ったらあんな感じで息つく暇もないんだ!嬉しいっちゃ嬉しいけどね……!」


「ふふ、あの人は世話好きなのね」


 うんうんと頷くグラス。そんな時に、ふと間抜けな腹の虫が鳴る。そういえば朝食を食べてから昼頃の今までアイスクリームを食べただけでまだ昼食を食べていない。一同昼にしようと話が決まったところで、サヤカは貰ったチラシを二人に見せた。


「ねえ、ここなんてどう?えっと……海星(うみほし)ってとこだって。ここからすぐ近くの……魚が主の飲食店だって。刺身もあるみたい。それなら食べれるわよね?マルキス」


 日本風な建築様式で建てられた飲食店だ。風情を感じつつ、そこへ行ってみないかと提案すると、マルキスは渋々頷く。


「まあそれくらいなら……いいか。ならそこに行こう」


「魚!魚だ~!!」


 昼の海底街。懐かしい人に出会って心も温まったところで、三人は昼食をとるためサヤカの持つチラシの案内に従って歩みを進めた。


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