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特異点から告ぐ  作者: 宵山
第一章 ──嵐の前──
29/50

29- 静かな部屋


 その後は何事も無く帰ってきた二人。プロフシッキレストランで、それぞれ運命を模した料理を楽しく会話しながら食事をした。三人は満腹になって満足し、聖樹旅館の部屋へと戻った。


 ご当地グルメイベントとはいえ、肝心のご当地感はなかなか味わえなかった。しかしながら、予約でいっぱいのレストランのオーナー直々に、招待されたからには逆らえる人物はいないだろう。それなりに満足のいく結果にはなった。


 布団がすでに敷かれた部屋でそれぞれくつろぐ三人。星を見るグラスとマルキス、そしてそれを見ているサヤカ。手には紙とペンを持っていた。ペンを走らせて、その光景を紙に収めていく。


「ふふ、できた」


 出来上がった絵を、二人のもとまで歩み寄る。


「いいでしょ。グラスとマルキスと星空!」


 題名を聞いて二人は振り返る。その紙には、後ろ姿のグラスとマルキス、そして満天の星空がペンだけで簡単な絵が描きあげられていた。紙の白とペンの黒の二色だけの落書きだが、サヤカらしさのある大胆かつ柔らかなタッチ。グラスが絵を見た瞬間尻尾を振って笑顔に。


「すごーーい!ありがとうサヤカ!」


「いいんじゃない」


 描いてくれたことに対して、冷めた対応をしつつも満更でもなさそうなマルキス。間を置いてから、紙とペンを受け取ったマルキスは、それらを一瞥してからサヤカへ目を向けた。


「悪いが……加筆してもいいか?」


「え!どうぞ!!」


 了承を得て、マルキスの後ろ姿を描かれているその隣に、新しく何かを描き始める。画家である彼はすらすらと線を引き、それがひとつの形を成していくのがわかる。出来上がったのは、同じく後ろ姿で、星空をみんなと共に眺めるサヤカだった。絵柄は違うが、それでもこの絵に違和感なく溶け込んでいる。


「す、すご……!あ、ありがとう、マルキス!!」


「ん」


 サヤカもグラスと張り合えるほどの喜びをあらわにした。その絵を大事そうに見つめながら、グラスにも見えやすいように見せる。


「グラス見て!すごい良いわっ!」


「だね!さすが!」


「サヤカの絵、初めてアトリエで描いた時よりいきいきとしてる。こういうのでいいんだよ。変に奇をてらわずにさ」


「えへ~~、照れる~~」


 滅多に飛んでこないマルキスの素直な誉め言葉についつい顔がほころぶサヤカ。なんだかんだ仲が良くなってきた、その事実に良かったと安心するグラス。


「旅館に来てよかったっ!」


 二人の肩を寄せ合って、その間にグラスが入る。互いの顔が触れ合って、サヤカはたまらず笑顔に、マルキスは嫌々ながらもやはり満更でもない微笑み。


 途端、サヤカはふと思い出す。前にも、こういうことがあった気がする。



 旅館。部屋の中。布団の上。そして、雨の音。


 やけに聞こえてくるそれが、より鮮明に思い出していく。この世界に来る前の記憶。


 修学旅行だった。確か、その時も旅館に来ていたはず。雨が降る外をみんなで不安げに眺めている。


 確か、そのあとの夜更けに、何かあったような。



 ぼう、とするサヤカにグラスはどうしたのかと困惑する様子で問いかける。


「あれ、どうしたの?サヤカ?」


「あ……いや、なんでもないわ。ちょっと色々思い出しただけ。こんなこともあったな~って」


 サヤカの説明にグラスは何とか納得する。マルキスは、何かを思い出した彼女に対して、追及はせずなにも言わなかった。


 夜も更けてきた。外の静寂さが部屋にも伝わってきたように、三人は瞼が重くなってくる。そろそろ寝よう、という話になって入口付近のスイッチを押して照明を消す。外光の星空だけがこの部屋の照明になった。


 それぞれベッドに滑り込む三人。明日は朝食を食べたら、ここに来た時と同じようにホワイトガーデンへ帰ることになるだろう。日常の非日常感を味わえたことを噛み締めるサヤカ。目を瞑って、明日を迎える準備を整えた。


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