28- 治安維持団
夜の聖樹旅館の大広間のはずれ。夜でも明るいテラスのテーブル席の四人は、会話を交えて楽しく料理を認めている。
そんな時、大広間から繋がるテラス入口の階段、サヤカたちがここへ来た時の階段から、機械族がその姿を現した。サヤカには見慣れない風貌だった。頭はモニターか、テレビで作られているようで、その目を瞑る簡易的な顔が映った液晶が、離れたサヤカの顔を反射する。今から冒険に出るのかと思わせるほどの、いかにもファンタジー感が満載な鎧装備と、その頭のモニターが妙な不釣り合いさを生んで、体が少し強張った。
こちらを見つけたその人は、何かメモを取り出しつつ、黒いマントを靡かせながら向かう。
「皆様、お食事中にすみません。治安維持団事件科所属、総隊長兼第一隊長のアデランドと申します。誘拐事件について少々お時間いただいてもよろしいでしょうか」
少しロボットっぽいような無感情な口調の、低い男らしい声だ。彼から聞こえた懐かしい言葉を、サヤカは復唱する。
「治安維持団……!ヒセノさんと同じ隊長なんですか!私、会ったことありますよ!カッコよくて……困ったときに助けてくれました!」
「おや、ヒセノイッチ第四隊長と面識があるのですか。彼は聡明で勇気のある方です。自分自身のように嬉しく思いますね」
「あ!マフラーとかコートとかくれた人だっけ?」
グラスが、前に聞いたことを思い出しながらサヤカに確認した。確かにそうである。最初にホワイトガーデンの散策をしている最中、サヤカの凍える姿を目にしてすぐに防寒着を持ってきてくれた鮫の魚人族だ。
「そうそう!あれから外出した時に探してるんだけど、結局会えてなくて。隊長だからやっぱり忙しいのかしらね」
サヤカは、ホワイトガーデンに構えている治安維持団の支部にて、彼に渡された防寒着分のお金を渡したことを思い出す。その時に受付が、ヒセノからの伝言で、お金のことは問題ない、と言ってくれたのだ。そのことについての感謝の言葉を直接伝えたいと思っていたのだが、なかなか会うことが叶わなかったのだ。
「ヒセノイッチ第四隊長はホワイトガーデンとハートレード港管轄の隊長ですので、きっとまた会えますよ。……改めて、すみません。誘拐事件の事で話をお伺いしたいのですが、少々お時間いただいてもよろしいでしょうか」
世間話から仕事モードになったアデランドが、脇に置いていた話の本筋を元に戻す。三人の中でマルキスが、代表で答えることに。
「そうでしたね。俺たちの知っていることなら、なんでもお答えしますけど……どうしてこちらに?」
「皆様も聖樹旅館主催のグルメイベントにご参加されているでしょう。多くの人でごった返すイベントですから、何かしらのトラブル、特に誘拐事件が発生した時にはすぐ対応できるように私たち治安維持団が警備しております。誘拐事件についてですが、聖樹旅館に来てから怪しい人物を見かけたことは?特に影族や骨族などで」
彼からの質問に一同特に反応はせず。怪しい人物など、本当に見なかったからだ。皆が首を横に振る中、その旨を、またマルキスが代表で答える。
「特に見てないですね。そういう人は」
「誘拐犯の特徴とか教えてくれれば、そういう人を見つけた時に連絡しやすいですよね。教えてくれませんか?」
サヤカは少し気になって聞いてみることに。ただ、アデランドは困ったように唸る。
「そうですね……正確な種族や体躯は分かりかねますが、一部の目撃情報では、先ほども言った通り、影族と鳥人族の可能性があるようです。黒い体か服で大柄の影族であることと、白い体か服で細身の鳥人族であること、だったと記録にあります。もしその以上の条件に当てはまる怪しい人物がいましたら、お手数ですが近くの──」
「隊長~!」
階段から女性の声が聞こえた。駆け上がってアデランドのもとへ走ってきたのは、治安維持団の一員である女性の植物族だった。こちらも背が高いが、アデランドの方がかなり高いのがわかる。
「こっちの方は大体終わりました!」
「ペラリ隊員。早いですね。正しく聞いて回りましたか?」
「勿論です!ただ、やっぱりっていうか、誘拐事件の情報は少なめって感じですね。一応注意喚起としても聞いて回ったのでご安心を!」
胸を張って報告するペラリという隊員。しかし、テーブル席に座るサヤカをじろじろと見つめている。彼女の、白い髪をペラリの白い瞳が捉えて、少し訝しげな顔をした。
「ん~、な~んか……怪しくないですか?なんで頭に長くて白い毛を生やしてるんです?」
「え、私?」
「そーですよ!誘拐事件の目撃証言じゃ、白い服で細い、とかでしたよね。今もそうですし、今日の誘拐の計画ために着てきたりとかじゃないです?」
「い、いや、そんなんじゃないですよ!ただ、イベントで来ただけで……」
思いがけない言いがかりを浴びせられて困惑するサヤカ。そんなに誘拐犯の姿と酷似するのだろうか。今日は遠出ということで、張り切って少し値段が高めの、白基調で差し色に青のワンピースを着ていた。しかしそれすら難癖の材料にされてしまうとは。
詰めようとする難癖隊員。マルキスやグラスが話に割って入ろうとする前に、隊長は彼女に制止を指示する。
「やめなさい、ペラリ上級隊員。見かけで人を判断して、勝手に決めつける性格は是正したと聞きましたが」
「で、ですが……」
「何度も言っているでしょう。人を守る立場にいるのだから、犯罪者と守るべき人を見極めなさい。安易な言動は治安維持団の信頼に深く関わりますよ」
「……すみませんでした」
ペラリはサヤカに対して深々と頭を下げた。アデランドは、食事の手前、彼女の非礼を詫びる。
「不快な思いをさせてしまい申し訳ありません。もし何かしらのトラブルや、誘拐事件について気になることがございましたら近くの治安維持団にいつでも仰ってください。失礼しました」
何かをメモしていたそれをしまって再び深々と頭を下げると、すっかり鳴りを潜めたペラリを連れて階段を降りていった。それを見送った一同は、グラスを皮切りに再び食事へ。サヤカが、誘拐事件について前に服屋で聞いたことを思い出すと、二人に事件について聞いてみる。
「ねえ、前にも聞いた事あったんだけど……誘拐事件って……?」
主に新聞などからそれについての情報を収集していたマルキスは、簡潔に概要を話す。
「一年くらい前からいろんなとこで起こってる事件だ。んで、誘拐される奴は決まって影族、植物族、球形族、異頭族とかのマナをかなり保有できる種族に限られてんだ。……一年くらい前のマナ研究者の誘拐が起こってから連続して発生してる事件って言われてるけど、犯人はまだ見つかってないし、誘拐された人も保護されてない」
「酷い話……一年前からずっと解決してないなんて、治安維持団の人たちも苦労してるわね。相当厄介な犯人ってわけ」
「ああ。痺れを切らした人たちが自ら事件の捜査をする、なんてことも増えてきてるんだと。気持ちは分からなくもでもないけど、残念なことに、治安維持団が分からないものが一般人に分かるわけがないんだよな」
事件についての世間の状況を冷静に分析するマルキス。一方で、何やら考え込んでいるグラス。具合が悪そうに眉をひそめて俯いていることに気が付いたサヤカが、たまらずに聞く。
「グラス?どうしたの?」
「あ、な、なんでもない!ちょっとトイレ!」
そうごまかすように笑い、あの隊長らを追いかけるように階段を下りて行って、その場を去った。急な行動にどうしたのだろうとサヤカは目で追っていく。しかし、マルキスはその行動の真意を知っているかのように何もせず、ただじっとしていた。
「……」
この場がそよ風に支配される。冷たく二人の頬を撫でて、心がなぜだか落ち着かなくなってきたサヤカがマルキスに問う。
「ねえ。グラスって……」
「……俺からは何も言えない」
その言葉で確信した。
「もしかして、家族とか、友達とかが事件の被害者になっちゃったり……?」
「…………俺も行ってくる」
含みを持たせた言葉だった。無造作にフォークとスプーンを置いて席を立ったマルキス。その背を見つつ、サヤカはそれ以上聞かないようにと心に決め、食事に再び手を付けることにした。戻ってくる彼らを待ちながら。




