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特異点から告ぐ  作者: 宵山
第一章 ──嵐の前──
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25- 『稀有な運命』

 

 夜。聖樹が緑の光る粒子に囲まれて、夜なのに明るいサクリー村。聖樹旅館の近くの大広間が大賑わい。それもそのはず、美味しそうな料理たちが所狭しと並び、それ目的で来た観光客が大勢いるのだ。温泉に入ってきて、スッキリな面持ちのサヤカたち一同もそれに漏れず、ご当地グルメイベントのために来ている。入口で手渡された紙は、数多くの出店を簡単に案内する地図だった。


 様々な料理の匂いがして、腹の虫がいよいよ収まらなくなってきた。


「いよっし……ここの料理全部食べちゃお~~!」


「お~~!」


「無理だろ」


 意気込むサヤカとグラスに冷静にツッコむマルキス。


 さすが、ご当地グルメイベントといったところか。ここらで見慣れない種族が多くいる。乾燥果実や、野菜や肉がゴロゴロ入った大胆な料理を道行く人らに勧める大柄の黒い鳥人族。鍋料理だろう、大きい鍋を掻きまわしながら、客の器によそう深緑色の巨態(きょたい)族。新鮮さを売りにしているのだろう、魚を捌く様子を見せながら丼に盛り付けていく筋肉質の魚人族。どの料理人も作る料理が美味しそうで、今、立ち止まって見まわすだけの時間になっている。


「やばい……!ホントどこにしよう……!」


「こんなとこでずっと突っ立ってるのか?早く食おう」


「もう、どうせなら全部の料理少しずつ食べちゃう?」


「あの~……」


 話し合うそんな一同に、小奇麗な女性の背の高い影族がうやうやしく近寄ってきた。灰赤色の瞳がマルキス、サヤカ、グラス、と順番に見やった後、胸に手を当ててお辞儀をする。


「すみません、急に。私、プロフシッキレストランのオーナーなんですけど、あなた方三人とお話がしたく……お時間いただいてもよろしいでしょうか」


「ああ……あの有名な?このイベントに出席されてたんですか」


 マルキスは記憶の片隅にあったその名前を思い出す。彼女は頷きながら、サヤカたちに話しかけた真意を話しだす。


「現地のレストランのコンセプトをそのままこのグルメイベントに持ってきたのです。お客様の運命をもとに料理を提供するというものなのですが……それをお客様に(したた)めてもらいたく、お声がけした次第です」


「う、運命……!?」


 そのコンセプトが何やら面白そうだと、サヤカは気になる言葉を復唱した。


「なんだか気になるわね!……せっかくならこれにしちゃう?」


「あ~……無礼を承知でお聞きしたいんですが、ホンモノ……ですよね?本店じゃあ予約制でなかなか待たされたりとかじゃないですっけ……」


「そう……ですよね。えっと、入口で紙を渡されましたよね。その一覧にプロフシッキレストランが載っているはずです。私、影族の特質で人の運命が視えるという質でして。つまるところ……」


 先ほど入口で手渡された紙には、確かに彼女の言うレストランが一覧と地図に書かれている。


「皆さんの運命が実に稀有で……!あのっ!!料理を作らせていただいてもっ!!!!」


 突然語尾が強くなって、サヤカは驚いて女性を見た。彼女は目を輝かせて両手の握りこぶしを胸の前にして強く懇願した。マルキスには、その言動がデジャヴに見えた。サヤカが好みの『ジンガイ』を見て目を輝かせるところと一緒に見えたのだ。


「今まで胡散臭さ全開だったけど、今のでちょっとホントっぽくなったな」


「じゃあここにしよっか?なかなかできない体験っぽいし、なんだか面白そう!」


 グラスが賛成すると、サヤカも続いて彼女に向かってお願いする。


「じゃあ、よろしくお願いします!」


「良かった~、ありがとうございます!あの、ではこちらに。歩きながら手短に説明させていただきますね」


 サヤカたち一同は、大勢の賑わう客を掻き分けて彼女についていく。


「私の名前はイロヴィチです。先ほど言ったように、影族の特質で人の運命が視えます。それをもとに料理を提供するのですが、グルメイベント期間中は、私から見て運命が気になる人にお声がけしているのです」


「本店の方じゃ値段が高めだって聞きますけど、払えるかどうか……」


「問題ありません!今回のグルメイベントに限って、本店よりも半額でのご提供とさせていただきますので!」


「なら、まあ大丈夫か……」


「その間、本店の方ってどうなってるのかしら?」


「あらかじめ休業ということにしてあります」


 人の運命をもとに料理を提供する。イロヴィチにしかできないことだ。影族は、こういった有用な特質の場合、それを利用して金を稼ぐことが多い。目の前の彼女もその一人だということ。


 サヤカは、相手が名前を教えてくれたのにこちら側の自己紹介をしてないことに気づく。


「あ、そうだ。私の名前は──」


 サヤカたち全員、自己紹介をしながらイロヴィチへ着いていく。大広間から出て階段を上がった。大勢の客の声は小さく、料理の匂いは自然の匂いにかき消されていく。


 野外の森の景色が良く見えるテラスにたどり着いた。明るい照明と主張しすぎない白と黄緑色のテラス。開放感のあるレストランとでも言うべき雰囲気に、サヤカは息を呑んだ。


「さて、それでは座る前に……」


 イロヴィチが咳払いをして姿勢を正した。サヤカ、マルキス、グラス。三人を見回して語りかける。


「私に運命を視てもらいたい方!どなたからでもどうぞ!」


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