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特異点から告ぐ  作者: 宵山
第一章 ──嵐の前──
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21- この世界のこと


 あの演奏会から十数日。アーガベラの経営するリンゴレストランから厨房を任されることになったり、たまにカボチャ三兄弟のサーカステントに赴いてピアノを弾かせてもらったりなど、外での活動が増えてきたサヤカ。今日はレストランの仕事がないので、悠々自適に家事をする予定の一日になる。


 朝。太陽がリビングを広く照らす時間。サヤカは、鳥人族が家の郵便受けに届けてくれるバートランド新聞社の新聞とツェルからの手紙を受け取る。新聞はサヤカが読むものだが、手紙はマルキスへ宛てたものであるために彼の部屋の前に置いておく。


 そして新聞。これを読み、この世界のことを知るのがルーティンになっている。どうやら、サヤカの転移してきた地域はレッケイドという。国ではなく、あくまでそういう地域として独立しており、治安維持団という一つの大きな組織が地域の管理をしているようだ。


 ただ、基本的な常識がわざわざ丁寧に載っていたことといえばこれくらい。あとは、主に時事的なニュースを通してこの世界を理解していくしかできない。


「治安維持団の誘拐事件に関する所見、……あとは~……海面上昇の謎、原因はマナの大量消費の可能性、専門家の仮説……う~ん……あ、聖樹旅館、過去で大人気だった期間限定イベント今日からまた期間限定復活、各地の料理人が集まるご当地グルメをご堪能……!これいいわね!」


 朝食が終わった後の、新聞を読む時間。マルキスはアトリエに行ってしまったので、隣で一緒に読んでいるグラスに聖樹旅館について聞く。


「ねえ、聖樹旅館ってどこ?」


「ん?え~っとね、ここからでもよく見えるよ!おっきい木が生えてるところ!」


 グラスと共に窓まで歩み寄って外を見る。指さしたのは、遠くからでもよく見える巨木。夜には綺麗な緑色の光を発していたあの場所だ。大きさだけで言えば、都会のレベルシティの一番大きな塔より太いし大きい。想像しがたいほどの樹齢だとわかる。


 サヤカは、持っている新聞の聖樹旅館の項目を指さす。


「今日から色々なところの料理人が集まってイベントが開くみたいなの。時間があるときにみんなで行ってみない?」


「え!あのグルメイベント!?もう一回開くんだ!」


 グラスの目が輝いた。前回開催した時に行ったらしい。尻尾を振ってその時の様子を興奮して語りだす。


「鍋料理とか、魚や肉がいっぱいあったりとか、野菜サラダとか、食後の色々な甘いものとか、見たことないやつとか!どれもすごく美味しかったんだよ!」


「へ~……とにかく色々あるってわけ。余計行きたくなってきたわ……!!今日の晩御飯の時にマルキスに相談しましょ!」


「うん!やった!またイベントで美味しいもの食べるぞ~!」


 お互いに拳を天に突き上げて意気込むグラスとサヤカ。イベントに行くのが楽しみでついつい小躍りしながらテーブルへ近寄る。途端、家のマナ届声(かいせい)機から音が鳴る。誰かがこの家の人と話したがっているようだ。はーい、とグラスがまだその主に聞こえていない返事をすると、届声機のボタンを押す。聞こえたのは、男性の低い声だった。


「もしもし?」


『……あれ?……もしもしー?』


 今度こそ、グラスの声が向こう側に届いた。しかし、その主は何か予想に反したのか、ノイズ交じりの疑問符を浮かべた声。


『なんか……声違くないッスか?……シノウさーん?』


「……えっと、多分番号間違えてますよ~、誰かさん!」


 番号を間違える。目的の届声機とは別の機器にかけてしまったということだ。サヤカはその声の主が気になってグラスのもとに歩み寄ろうとした時、次に女性の声が聞こえてくる。


『ちょっと貸して』


 バシッと何かを叩いたような音が間近で聞こえてきたと思えば、途端に届声が切れた。わけがわからず呆然とするサヤカに、グラスは三角の耳を伏せてため息を吐いた。


「たま~にこういうことあるんだよね……間違い届声。ま、特に問題ないから何も心配はいらないよ、サヤカ!」


「そ、そう?なんかちょっと怖かった……ノイズ走ってて」


「そうだね……でも何回か来れば慣れるし、気にしない気にしない!」


 彼の変わらない笑顔に、サヤカもつられて笑顔に。この家に長く住んでいるのはグラスの方だ。こういったことは何度もあったことらしい。問題ないというのなら大丈夫なはずだ。サヤカは、持っていた新聞を折りたたんで、自室でゆっくり過ごそうとリビングを後にした。その後、あの届声のことはすっかり忘れた。


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