第9話 試される力
影の剣が高速で振るわれる。
シュンッ――!!
その速さに、私の思考が追いつく前に体が動いた。
キィン!!
私は光の障壁を瞬時に展開し、影の剣撃を防ぐ。
鋭い衝撃が伝わり、全身が痺れそうになる。
「う、うわっ……!」
私は一歩後ろに下がると同時に、影は再び姿を消した。
「どこ!?」
ユイちゃんが周囲を警戒する。
次の瞬間――
「右だ!!」
カケルの声が響いた。
私は本能的に光の盾を右側に展開する。
ガンッ!!
「ぐっ……!!」
影の剣が私の障壁を弾く。その衝撃で、私は後ろに吹き飛ばされそうになるが、踏みとどまる。
「な、なんで私……こんなに動けるの?」
私は自分の動きに驚いた。
影の動きは速い。普通ならとろくさい私がとても反応できる速さじゃない。
だけど、私の目にはすべてが見えていた。
影の動きも、剣の軌道も、次にどこへ向かうのかも――。
「シズナ、お前……やっぱりスゲェぞ!」
「今までのんびりしていたのは力を隠していたのね!」
カケルとユイちゃんが興奮した声を上げる。
「そ、そんなこと……!」
「いや、マジで今の回避は普通じゃねぇ!」
「シズナ、動けるんだ!」
「……!?」
私は戸惑ったまま、影を見据えた。
まさかとは思うが、身体強化のスキルが発動しているのだろうか。考えている時間はない。
「……試す」
影が再び低くつぶやき、今度は両手に剣を持った。
黒い霧のようなものが立ち上り、さらに力を増していく。
「まずい……! さっきよりもヤバいよ!」
ユイちゃんが警戒する。
カケルも武器を構え直しながら言った。
「シズナ、どうする? これ以上やべぇことになる前に、力を解放して勝負を付けてしまった方が――」
「え、えっと……」
私は迷っていた。
確かに、私の力はすごいのかもしれない。
でも、本当に信じてしまっていいの?
無自覚にも発動するこの力を、本気で解放するなんて……
「……迷っている暇はないよ!」
ユイちゃんが私の背中を押すように言った。
「シズナ、信じて! あなたならできる!」
「……信じる?」
私は自分の手を見つめる。
光がじんわりと広がり、指先に力が宿るのを感じる。
怖い。
でも――
(やるしか、ないんだよね)
私は決意し、力を手のひらに集めた。
すると、目の前の影が一瞬動きを止めた。
「……お前の力を試す」
影が剣を構え、今度は一気に突進してくる。
私は迷いを捨てた。
「いっくよ――!!」
私はスキルの刃を作り出し、影へと突撃した。
それはもうぼんやりとした光ではなく、はっきりとした敵を倒すための輝く刃。
こんな風に自分の力を自分の意思で明確な形にしたのは初めてだった。
目の前の影は、無表情のまま剣を構え直し、低く構える。
「……試す」
その言葉とともに、影が一瞬で間合いを詰めてきた。
「速い――!」
私は直感だけで体を動かし、影の一撃を両手で握った光の刃で受け止めた。
キィンッ!!
火花のように光と闇がぶつかり合う。
「くっ…!」
影の剣は思ったよりも重かった。
だけど、不思議と私は負ける気がしなかった。
「やるじゃん、シズナ!」
カケルが叫ぶ。
「今度はこっちから行くよ!」
私は影を押し返し、一歩踏み込む。
そして、光の刃を振り下ろした。
影はすぐに後退し、私の攻撃を避けた。
だけど、私はもう止まらない。
「はぁぁぁっ!」
私はさらに前へ飛び込み、光の刃を振るう。
シュンッ!
影が避ける。
でも、私には次の動きが分かる。
この先読みもスキルによるものだろうか。意識する暇はない。
私は影が移動する先に先回りし、もう一度斬りかかった。
ズバァッ!!
「……!?」
影の体に大きな亀裂が入る。
「やった……!?」
ユイちゃんが驚きの声を上げた。
影はよろめきながらも、まだ立っていた。
だけど――
「……認める」
影の声が低く響く。
「試練、クリア」
その瞬間、影はスッと消えていった。
まるで霧が晴れるように、何もなかったかのように。