第2話 無自覚な力の始まり
「シズナ、昨日のこと覚えてる?」
次の日の放課後、幽霊にはなるまいと私なりに頑張って一人で部室に入っていくと、ユイちゃんがすぐに話しかけてきた。
昨日のこと? うーん、なんだっけ。昼寝してた気がするけど、それくらいしか覚えてないなぁ。
「覚えてないの? うーん、まあいいけどさ。昨日、また何かが少し変わった気がするんだよね」
「変わったって?」
私はソファに座りながら、ユイちゃんの話に適当に相槌を打つ。
なんか面倒だなぁ。どうせまたループとか、スキルとか、どうでもいいことなんでしょ?
「実はさ、カケルが昨日の一件で大きな発見をしたんだ!」
カケルは机に向かって何かを書いている。メガネ越しにキリッとした顔を見せる彼、最近ちょっとかっこよく見えるけど、まあそれもどうでもいい。
「おい、シズナ。ちょっと来て」
カケルの声が響く。面倒だから行かなくてもいいかな、と思うけど、またユイちゃんが「シズナ早く!」って言いそうだから、仕方なく立ち上がる。
「はいはい、行きますよー」
部室の机の前に立つと、カケルが白板に何かを書いていた。
彼が指差すのは、黒いマーカーで大きく書かれた「シズナ」の文字。
自分の名前が大きく書かれてるのを見て私の目も大きくなる。
「これ、シズナが関わった場面だ。何度もお前の前で同じことが繰り返されているけど、お前がいることで不思議な現象が起きているんだ」
「え? ドッキリじゃなくて?」
「そう、お前が無自覚に影響を与えているってことだ」
「無自覚に? いや、私そんなすごいことしてないって……」
ユイちゃんが嬉しそうに言った。
「そんなわけないわ! シズナ、実は最強なんだよ!」
「最強? いや、どう考えてもそんなわけ……」
私は冷静に答えるが、カケルが真剣な顔で続きを話す。
「お前、無意識にスキルを使っているんだ。たとえば、昨日、鬼塚レイジが不良同士の戦いで不利な状況に陥ったとき、どこからか力が働いて勝ってしまった」
「え? 鬼塚が?」
鬼塚レイジは他人に興味のない私でも知っているこの学園の不良のトップだ。昨日も一昨日もたまたま喧嘩をしている現場を目撃した。
彼は自分の根性で逆境を跳ね返したんだと思っていた。でも、昨日の喧嘩で彼が勝つことになった理由が私にあるなんて……
「それだけじゃない。誰も不正をしていないにも関わらず、お前の周囲だけは奇妙に成績が良くなる。無意識のうちに、何か力が働いているんだ」
「えー、たまたま頭のいい子が近くにいるだけじゃないかな」
私は深く考える。何も分からない事が分かっただけだった。
「でも、そんなの私じゃないよ。普通に生活してるだけだし、そんな変なことしてないって……」
ユイちゃんが笑いながら言った。
「でもシズナ、周りの人たちに影響を与えているのは間違いないんだよ! それに、なんだか“すごく良いこと”ばっかり起きてる気がするじゃん?」
「でも、それって私が意図してやったことじゃないし、偶然でしょ?」
「いやいや、偶然にしてはあまりにも完璧すぎるよ。あの試験、レイジの戦い、あれだけの偶然が重なりすぎてる」
うーん、でも私はやっぱり何もしてないと思う。
私、ただ平凡に過ごして、ちょっと寝てるだけなんだから……
次の日、私はまた朝から何も考えずに学校に行った。
ユイちゃんと一緒にお昼ごはんを食べて、特に何も考えずに授業を受ける。
その後、放課後にまた部室に集まった。
でも、今日はなんだか様子がおかしい。
カケルはいつものように物理の本を広げているけど、ユイちゃんがひどく焦っている。
「シズナ! これ、何かおかしいよ!!」
私が何もしてないのに、部室の一角が突然揺れだした。
それと同時に、壁に大きなヒビが入っていく。
「これ、空間が乱れたんだ!」
「何!? どういうこと!?」
「強い力が働いた影響か!? シズナ、何かしてないか?」
「えっ? いや、私知らないってば!」
でも、気づいてしまった。
私が知らないうちに、力が働いているんだ。
「わかった……」
無自覚を気取るのはもう止めだ。
スキルはある。認めようじゃないか。
私は自分の手をじっと見つめ、思った。
「無意識に力を使うって……私の力って大きすぎるんじゃない?」
「シズナ! それを覚醒させるためには、意識的に力を使って!」
「えぇっ、無理無理! 何を意識すればいいか分かんないよ!」
それでも、何かが動き出した。
私は手をかざした瞬間、あの「力」を感じる――。
突然、部室のヒビが収まり、時間と空間が元に戻った。
まるで私が何かをしたから、スキルが影響されて世界が修復されたような感覚があった。
「シズナ、できたの?」
ユイちゃんが目を輝かせて言う。
「私……、何かやっちゃったの?」
でも、私はまだその力を完全には制御できていない。何をしたかもよく分かっていない。
ただ、何かが私の中で目覚めた気がした。
「もしかして……これが私の本当の力?」
そう、私は無自覚で最強の力を持っている。でも、それをどう使うべきかは、まだ全然わからない。
「とりあえず、ちょっとだけだけど……本気を出してみる?」
何となく雰囲気でそう言ってみた。