第1話 平凡な日常と思ってた
「ふわぁ……ねむ……」
いつもの教室のいつもの席で。
大きなあくびをしながら、私は机に突っ伏した。
放課後の教室はひんやりしていて、まどろむには最高の空間。
人も減って静かになり、こうして友達が呼びに来るまでのんびり過ごすのが私の日課。
今日も一日、特に目立つことなく過ごせてよかった。
「ねえ、シズナ。そんなところで寝てないで、部室行くよ!」
そうしてのんびり過ごしていると、元気いっぱいの声が響き、私は渋々顔を上げる。
声の主は春日ユイちゃん。私と同じく 『放課後不思議研究会』 のメンバーだ。
「んー……? フシケン行くの? もうちょっとここで寝てちゃダメ?」
「ダメに決まってるでしょ! ほら、カケルも待ってるんだから!」
はぁ……。せっかく今日は平和に過ごせたのに、部室に行くのめんどくさいなぁ。
私は特にすごいこともできないし、目立つのも嫌い。
そんな私が何で放課後不思議研究会、通称フシケンなんて部活に入っているのかというと生徒は必ず何かの部活に入らないといけないからだ。
研究会なんだか部活なんだかよく分からない名前だけど、先生が何も言わないしユイちゃんも気にしていないから私の気にする事ではないのだろう。
その放課後の不思議を研究するようなよく分からない部に、やりたい事が無くてボーっとしていた私はユイちゃんに誘われて入部してしまった。
まあ私にできることなら何でも良かったんだけど、謎解きとか怪奇現象とか、そういうのはユイちゃんたちがやってくれればいいと思う。
私はただの背景の木。ついていって適当に合わせておけばいい。
気乗りはしなかったが、ユイちゃんに怒られるのもめんどうだから、私はしぶしぶ立ち上がった。
さて、活動をはじめるとしましょうかね。
「来たか、シズナ。遅かったな」
部室に入ると、メガネをかけたクールな男子、時任カケル がこちらを見た。
彼は天才科学者を自称するこの部のリーダーで、タイムループの謎を解こうとしている。
タイムループって何なんだろうね。学校の勉強よりも面倒そうなことに挑戦する彼を私は尊敬する。
「ふふん、やっと来たね、シズナ! 今日こそ、このループの正体を暴いてみせるよ!」
「へぇ……がんばってね……」
難しい事を考えていると眠くなってくるや。
彼によれば何でもこの学校では今タイムループ現象が発生しているらしい。でも、私にはよく分からないので。
私は適当に相槌を打ちながら、ふらふらと歩いて、部室のソファにダイブした。
うーん、ふかふか……このまま寝たい……。
「……ちょっとシズナ!? ちゃんと話聞いてる!?」
「聞いてる聞いてる。ループがどうとか……? いやー、カケルは凄いね。立派だと思うし尊敬するよ」
「まったくもう適当言って! いい? 僕たちが何度も同じ日を繰り返してること、もう君も気づいてるでしょ?」
「うーん……。なんとなく……?」
実は、私も前から薄々おかしいとは思っていた。今日の勉強を昨日も習ったような不思議な気分。
でもまあ、ループしてるならそれはそれで楽じゃない?
分からないところをやり直せるし、美味しいごはんをもう一回食べられるし、好きなアニメだってもう一回見られるじゃん。
「でも、最近おかしいんだよ」
「おかしいって?」
カケルが腕を組み、真剣な表情で言った。
「普通ならループのたびに ‘同じこと’ が繰り返されるはずだが、なぜか細かいところが違っているんだ」
「たとえば?」
「この前のループでは、ユナ(生徒会のエース)が ‘謎の力’ で助けられたらしい」
「へぇ……」
「そして、鬼塚レイジ(不良のトップ)も ‘見えない何か’ によって戦いに敗北したと証言している」
「ふぅん……」
「さらに、転校生が ‘この学園には銀河最強がいる’ と確信し始めている」
「へぇ……って、え? それ全部私が見ていた奴じゃない?」
銀河最強が何なのかはよく分からないけど、その現場を私は一通りは見ていた。
ただ通りかかっただけだったんだけど、私は思わず顔を上げた。
「ふむ……つまり、シズナ、お前が ‘何か’ をしている可能性があるということだ」
「えぇー!? でも、私そんなすごいことしてないよぉ……?」
ただのモブなのに困惑する私。状況が起きた時に木や石を気にする奴がいるだろうか。そっと吹かせておいて欲しいと願うよ。
ユイちゃんが机をバンっと叩く。
「絶対してる! ねえ、シズナって異能スキル持ってたりしないの?」
「スキル……?」
私はちょっと考えた。
不思議と思われるかもしれないが、この学校にはあるのだ。スキルというものが。
みんなが使えるようになった現在ではありふれた物になってしまったが。この学校にはそうしたスキルを使える人材が集められている。
えーっと、確か入学のときに適当にスキルを測られて登録されたけど、なんだったっけ?
「《ロード・オブ・スキル》……っていうの、あったような?」
「「…………」」
ユイちゃんもカケルも、ポカンとした顔で固まる。
「ちょ、ちょっと待って! それ、あらゆるスキルを自在に服従させて使用できる君主の能力じゃないの!?」
「へ?」
「つまり、今までシズナが最強の技を無意識に使ってたってことじゃん!!」
「……え、そんなことある?」
私、ただのモブだよ?
そんな、最強とか無理無理……。
「でも、考えれば全部つじつまが合う……!」
「そうよ! つまり、シズナが無自覚にループを変えたりみんなに干渉していたのよ!!」
私は思わず目をそらした。
「……なんか、めんどうなことになってきた……」
誰とも関わる気なんてなく、ただ見ていただけなのに。
こうして、私は 『無自覚に最強な女の子』 として、放課後の謎に巻き込まれることになった。