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第98話 真実

 その様子を見ていた貴族のひとりが、興味深げに口を開く。


「恐れながら陛下。得体の知れぬ異世界人バンダナ。そして、その情報を開示しなかったエドワード公爵。さらに、英雄とはいえ沈黙を貫くチェルシー伯爵……。我々は、バンダナ本人から真実を聞かねばなりません。でなければ、悪魔封印そのものが虚構だった可能性すら浮上いたします」


 その言葉を皮切りに、貴族たちの間に口論が巻き起こった。


「エドワード公爵の監視体制に不備があったのでは?」

「いや、それよりも、この男が本当に封印に関与した証拠があるのか?」


 広間には不穏な空気が立ち込め、次第に混乱が広がっていく。


 ——その時。


「リマート侯爵!」


 ユリアスが、鋭い声音で名を呼んだ。


「その発言は、私たちが偽証していると受け取られかねません。今すぐ取り消しなさい!」


 しかし、リマート侯爵は余裕の笑みを浮かべ、肩をすくめる。


「ふむ……これはご立腹のようで。真実を突かれ、気が昂ったか」


 嘲るような口調に、ユリアスの眉がわずかに動いた——が、その瞬間。


「静まれ!!」


 国王の重々しい声が、広間全体に雷のごとく響いた。


 誰もが言葉を失い、静寂が広がる。


「……余は、実に悲しい。この光景こそ、貴族社会の病ではないか。なぜ互いを貶め合う?」


 誰も答えられなかった。重く沈む沈黙のなか——


 それを破るように、俺は姿を現した。


「全く、意味のないことだ」

「……っ!?」


 チェルシーの隣に突如として現れた俺に、貴族たちはざわめき、目を見開く。


「いつの間に……?」


 国王は、驚愕を隠せぬまま問いかけた。


「貴殿が、冒険者バンダナか……。一体、いつからそこにいた?」


 俺は涼しげな口調で答えた。


「最初から、ずっとここにいた」


 国王の顔色が変わる。


「……誠か? 誰にも悟られずに?」


 不安げに周囲を見やる国王に、側近が答えることなく視線を交わし合う。


「王都騎士団隊長、バセット。王都魔道団のセシリア。其方たちも気づかなかったのか?」


 バセットは苦々しい表情のまま、力なく首を振る。


「……まったく、気配すら感じませんでした」


 セシリアも唇を震わせながら応じる。


「魔法に長けたこの私でさえ……あの方の存在が空気のように、そこに“いなかった”かのようでした……」


 国王は唖然とし、低く呟いた。


「……これが、『ものまね士』の真価か……」


 重苦しい沈黙が広間を覆う。


 その緊張を裂いたのは、再びリマート侯爵だった。


「陛下、何を恐れておられるのですか?」


 自信ありげに笑みを浮かべながら、言葉を続ける。


「この男が何者であろうと、真実を語らせる術はあります。王国の力をもってすれば——」


 その瞬間。


「馬鹿者!!」


 国王の怒声が雷のように鳴り響いた。


 リマート侯爵が身をすくめ、他の貴族たちも息を呑む。


「貴殿は、この者の実力を目の当たりにしてなお、そんな愚を口にするか!?」


 怒気を孕んだ声が広間を震わせる。


「姿も気配も消し、悪魔と渡り合う力を持つ者が、いま目の前にいるのだ! 真実を吐かせる? 貴殿は誰がそれを成し得ると考えているのだ……?」


 リマート侯爵は青ざめ、足元が崩れるようにその場に膝をつく。


「……バンダナ殿。無礼を、お詫び申し上げます」


 だが、俺は冷たく言い放つ。


「……俺に謝っても意味はない。謝るべき相手が、他にいるだろう?」


 その言葉に、リマート侯爵はハッとし、チェルシーとユリアスの方へ向き直る。


「チェルシー伯爵、ユリアス姫……。先ほどの無礼、心よりお詫び申し上げます……」


 ——その瞬間、場の空気が静かに落ち着きを取り戻した。


 国王は俺をじっと見つめ、口を開く。


「……その装備。英雄カゲロウ殿のものと見えるが?」


 俺は無言で頷く。

 その様子を見ていたユリアスが、自らのアイテムバッグから別の装備を取り出し、国王の前に差し出した。


「お父様。これは英雄タエコ殿の遺品です。私が譲り受けました」


 国王はその装備をしばし見つめ、深く頷いた。


「……これで、すべてが明らかとなった」


 静まり返る広間に、国王の宣言が力強く響く。


「二百年前の英雄、カゲロウ殿とタエコ殿の装備を継いだ者たちが、チェルシー伯爵と共に悪魔と戦い、見事、封印を果たした」


 そして、王は静かに言葉を締めくくる。


「この装備こそ、どんな言葉よりも雄弁に、真実を物語っている」


 貴族たちは、一斉に頭を垂れた——



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