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第97話 ユリアスの想い


「ユリアス……」


 スチュワート国王は、深い思いを込めて娘の名を呼んだ。


「はい、お父様」


 ユリアスは静かに国王を見つめる。国王は一瞬、ためらった後、深く息をついて続けた。


「……これまで、父親らしいことをせず、すまなかった。幼かったユリアスが、今では悪魔を封印した英雄となった。辛いことや悲しいこともあったはずだ。しかし、そうした時にそばにいてやれなかった……許してくれ」


 国王の隣に立つ王妃も、静かにユリアスを見つめ、夫とともに深く頭を下げた。


「お父様……お母様……」


 ユリアスの瞳が微かに潤む。しかし、その奥には、揺るがぬ意志が宿っていた。


「私も、これまで不甲斐ない娘でした。第二王女という立場にあるにも関わらず、その運命を受け入れることができていませんでした。でも、これからは……国民と向き合い、この国をより良いものにするために尽力していきます」


 ユリアスの真摯な言葉に、国王は感慨深げに頷いた。


「……我が娘ながら、立派である。父は嬉しいぞ」


 その光景を見ていた者たちから、惜しみない拍手が湧き起こる。


 スチュワート国王は静かに立ち上がると、高らかに宣言した。


「英雄『隻眼の魔女』ことチェルシー伯爵、そして第二王女ユリアス姫。この度の悪魔封印……国王として、心より礼を言う。この国を守り、ひいては国民を守り、誠に大義であった」


 チェルシーとユリアスに、貴族たちは次々と頭を垂れる。


 国王は再びチェルシーを見つめた。


「チェルシー伯爵、褒美を授けよう。何なりと申すがよい」


 チェルシーは腕を組み、少し考える素振りを見せた後、軽く肩をすくめた。


「そうだね……あたいは、今のままでいいよ。この前みたいに、英雄として祭り上げられて祝賀会や晩餐会に強制参加させられるのは、もうごめんだね。それに、政治利用もお断りさ」


 国王は苦笑しつつ、深く頷く。


「心得た。スチュワート・グランバールの名において、チェルシー伯爵の許可なくして、祝賀会や晩餐会への参加、および政治利用を一切禁ずる」

「陛下の仰せのままに!」


 参加者全員が声をそろえて唱和した。


 国王は続いて、ユリアスの方を向く。


「ユリアス。第二王女としての褒美を授けよう。何なりと申すがよい」


 ユリアスは一瞬、頬を染めると、少し照れくさそうに言った。


「はい……私は……バンダナとの婚姻を望みます」

「!?」


 その場にいた者たちが、一斉に驚愕する。

 特に、チェルシーの驚きは尋常ではなかった。


「ユリアス!! その話はタエちゃんと決めただろ!? バンダナの名前を出すことはもちろん、求婚もやめようって!!」

「ああぁっ!! そうでした!!」


 ユリアスは慌てふためきながら、周囲を見渡す。


「みなさん!! 今の話は……!! えっと……聞かなかったことにしてください!!」


 しかし、すでに場内はざわつき始めていた。


 陛下の側近が、場の騒めきを鎮めるように厳かに言う。


「陛下の御前である。皆の者、静まれ!」


 広間に響くその声に、ざわめいていた貴族たちは次第に口をつぐんだ。


 国王は苦笑しながら、ゆっくりと口を開く。


「……我が娘ながら、いやはや。しかしながら、そのバンダナという冒険者こそが、『名も無き冒険者』なのだな?」


 ユリアスは、仕方なさそうに頷く。


「さて、バンダナ……どこかで聞いたことがある名だな……」


 国王はしばらく考え込む。やがて、何かを思い出したように表情を変えた。


「思い出したぞ。グラングリオンに現れたという異世界人……。エドワード公爵から報告を受けていた『ものまね士』だな?」


 その言葉に、広間の空気が変わる。


「確か、彼は異世界人特有の強力なスキルを持たないため、王都としては関与せず、監視のみをつけていたはずだが……」


 国王の言葉を受け、側近が素早くアイテムバッグからノートを取り出し、記録を確認した。


「陛下のお考えに相違ございません」


 その発言に、広間は再びざわめき始める。


「エドワード公爵の監視不足ではないか?」 「いや、それどころか、公爵が権力を保持するために異世界人の情報を秘匿していたのでは?」


 そんな憶測が貴族たちの間で飛び交い、騒然とした空気が広がる。


 再び、陛下の側近が大声を張り上げた。


「陛下の御前である! 皆の者、静まれ!!」


 場が静まったのを確認すると、国王は真剣な表情でチェルシーを見つめた。


「チェルシー伯爵。バンダナという冒険者について、詳しく話してもらえないか?」


 しかし、チェルシーは腕を組み、面白くなさそうに口を尖らせる。


「ふん……。この公の場で、あたいが素直に話すとでも思ってるのかい?」


 チェルシーの返答に、国王は考え込む。


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