第95話 それぞれの想い
カゲロウは満足げに微笑んだ。
「うまくいったようだな、バンダナ。この装備は異質で目立ちすぎる。だから『星鉄』と『竜骨の粉末』を使い、二つの機能を付与した。一つ目は『偽装』。これを使えば、自由に装備の見た目を変えることができる。二つ目は『自動修復』。これで多少のダメージならすぐに元通りになる」
「カゲロウさん……ありがとうございます!」
俺は再びカゲロウと固く握手を交わす。だが、彼の姿はさらに薄れ、今にも消えそうになっていた。
ちょうどその時——女性陣が戻ってきた。タエコが静かに微笑む。
「それじゃあ、チェルちゃん。そろそろ行くね」
「……うん、タエちゃん」
カゲロウも穏やかな声で続けた。
「名残惜しいが、時間だ。悪魔が封印され、これで俺たちは思い残すことはない。……ありがとう」
そして——光とともに、カゲロウとタエコの姿は静かに消えていった。
残された俺たちは、それぞれの想いを胸に抱きながら、しばらく沈黙する。
——だが、その静寂を破ったのは、チェルシーだった。
「いつまでもめそめそしてたって、仕方がないよ。あたい達を上の連中が待ってるんだからさ」
彼女は涙を拭い、力強く言う。
「さあ、王都へ凱旋だ!」
俺たちは王都騎士団と王都魔道団と合流し、悪魔インフェルナスを封印し、さらにインフェルナス教団を壊滅させたことを報告した。
各団の者たちは俺たちを祝福し、歓声が響き渡る。
——こうして、俺たちは意気揚々と王都へと帰還するのだった。
俺は封印を終えて地上に戻ったときから、来たときと同じように姿を消し、彼女たちと共に行動していた。
王都へ帰還すると、すぐに国王陛下への謁見が設けられる。
謁見の間へと足を踏み入れると、スチュワート国王が高座に鎮座しており、その隣には王妃の姿もあった。
さらに、周囲を見渡せば、大勢の貴族たちが集まり、我々を見つめている。
俺たちは国王陛下の前へ進み、膝をついた。すると、陛下の側近と思しき男性が声を張る。
「悪魔インフェルナスを封じた者たちよ、顔を上げよ」
俺たちはゆっくりと立ち上がる。
陛下が静かに言葉を紡いだ。
「皆の者、誠に大儀であった。チェルシー伯爵よ、悪魔封印の詳細を聞かせてくれ」
チェルシーは深く頷き、一部始終を語り始める。
インフェルナス復活の経緯から、その封印に至るまで、全てを余すことなく伝えた。
話が終わると、国王陛下は厳かな声で問いかける。
「チェルシー伯爵の話はよく分かった。しかし、目の前にいるガーナ伯爵——彼がインフェルナス教の教皇であり、悪魔を復活させた張本人だというのは本当なのか?」
続けて、陛下は言葉を紡ぐ。
「そして、亡き英雄カゲロウとタエコの魂が封印の力を貸し、ユリアス姫、チェルシー伯爵、ガーナ伯爵、さらには『名もなき冒険者』がその封印を果たした……そういうことなのだな?」
チェルシーは、静かに頷く。
「その通りだよ」
国王は一瞬目を閉じ、次の言葉を慎重に選ぶようにしてから、ガーナ伯爵に視線を向けた。
「もしこれが真実であれば、ガーナ伯爵、お前は大罪人となる。そして『名もなき冒険者』は、まぎれもなく英雄だ」
謁見の間は、一瞬静まり返った。
国王は鋭い目でガーナ伯爵を見据え、厳かに問う。
「ガーナ伯爵よ。チェルシー伯爵が申していることは、すべて真実か?」
ガーナ伯爵は逃れようもなく膝をつき、静かに答えた。
「はい……すべて真実です」
その瞬間、周囲にいた貴族たち、さらにはインフェルナス教団との戦いに参加した王都騎士団、王都魔道団の面々から、どよめきと驚愕の声が上がった。
「おおおお……!」
誰もが目を見開き、言葉を失っていた。
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