第94話 伝説の魔法陣
魔法陣が輝き、七色の光を放ちながら、悪魔を閉じ込める牢獄が出現した。
「ま、まさか……この魔法陣は『エターナル・プリズン』!」
驚愕するインフェルナスに、カゲロウが静かに告げる。
「そうだ。伝説の魔法陣『エターナル・プリズン』。神の加護を受けた絶対封印空間だ。解呪は不可能。時を超え、永遠に悪魔を封じ続ける……。インフェルナス、これで終わりだ」
牢獄はゆっくりと収縮し、悪魔の身動きを完全に封じ込めていく。
「ま、待て! 見逃してくれ! そうすれば、お前たちの望みを叶えてやろう……!」
悪魔が必死に叫んだ。
「そうだ、我の力をもってすれば、お前たちを生き返らせることもできるぞ! どうだ!」
必死の懇願に、タエコが鼻で笑う。
「てやんでい! このすっとこどっこいが! こちとら、お前さんを封じるのが望みだってんだい!」
威勢よく啖呵を切るタエコ。その瞬間、俺も悪魔も思わずポカーンとする。
「なっ……!?」
まるで説得する余地もないと悟ったのか、インフェルナスは牢獄の中で悶えながら、暗闇へと引きずり込まれていった。
最後の断末魔が響き渡り——そして、悪魔は完全に消滅した。
「みんな……やったわよ!」
タエコが満面の笑みで振り返るが、カゲロウは頭を抱え、俺は引きつった笑顔を浮かべるのが精一杯だった。
そんな俺たちの様子を見ていたチェルシーが、肩をすくめながら笑う。
「あははは、やっぱりタエちゃんには敵わないわ」
その言葉をきっかけに、場の空気が一気に和らぐ。気づけば、自然とみんなの間に笑いが広がっていた。
チェルシーは静かに歩み寄り、二人を見つめる。
「カゲロウ、タエちゃん……」
しかし、タエコは穏やかに首を振った。
「チェルちゃん、そんなに自分を責めないで。確かに、私たちはあのとき、チェルちゃんが魔法陣を発動させるために盾になった。でも、あれが最善の方法だったの。悔いなんてないし、仕方がなかったのよ」
チェルシーは唇を噛みしめながら呟く。
「だけど……あたいだけ、生き残った……」
その言葉に、タエコは容赦なく叱りつけた。
「チェルちゃん! 違うでしょ! 私たちが悪魔を封印したから、みんなが生き残ったのよ。それに、チェルちゃんは私たちの代わりに全てを背負って、ここまで頑張ってきたじゃない!」
「……タエちゃん……」
チェルシーの瞳に涙が滲む。カゲロウも頷き、優しく言葉をかけた。
「タエコの言う通りだ。生き残った者は、多くを背負うことになる。だが、栄光の影には、苦しみもある。チェルシー、もう頑張らなくていい。お前は十分やった」
その言葉に、チェルシーはついに堪えきれず、大粒の涙を零した。
「ありがとう……」
カゲロウとタエコがそっと寄り添い、三人は静かに抱き合う。
しかし、その温もりが消えぬうちに——カゲロウとタエコの姿が次第に薄れていった。
「……チェルシー、そろそろ時間のようだな」
カゲロウの声に、チェルシーは静かに頷く。
——彼らが、消えてしまう前に——
カゲロウは俺の方を向き、真剣な眼差しで言った。
「バンダナ、君が俺の装備を受け継いでくれて、本当に良かった。チェルシーを守ってくれてありがとう」
「カゲロウさん……俺こそ、この装備に何度も助けられました」
俺とカゲロウは、固く握手を交わす。
タエコも微笑みながらユリアスに向き合った。
「ユリアスさん、私も貴方が私の装備を受け継いでくれたこと、心から感謝しているわ」
「タエコ様……勿体なきお言葉です」
ユリアスは深く頭を下げ、二人は静かに抱き合った。
しばらくして、カゲロウがタエコに小さく合図を送る。
すると、タエコは俺とカゲロウを残し、女性陣だけでその場を離れた。
カゲロウは、残された俺に向き直ると、低く言う。
「バンダナ、もう時間がない。エアリアルワイバーンを倒したときに手に入れた『星鉄』と『竜骨の粉末』を渡してほしい」
「……わかりました」
俺は空間収納から『星鉄』と『竜骨の粉末』を取り出し、カゲロウに手渡す。
彼はそれを両手に持ち、魔素を流し込んだ。
すると、二つの素材は黄金色に輝き、まばゆい光の玉へと変わる。
カゲロウは俺を見据え、静かに言った。
「バンダナ——動くなよ」
俺が頷くと、ふたつの光の玉は俺の刀と防具へと吸い込まれていった——。
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