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第93話 伝説の英雄現る


 悪魔は胸元に手をやり、首からぶら下げたペンダントをゆっくりと掲げた。


「これは……魔道具、極転の魔符だ」


 その言葉に、俺たちは一瞬、理解が追いつかなかった。


「封印魔法など、所詮は究極の聖属性魔法に過ぎん。だが、この魔符は聖属性を闇属性へと変換する……つまり――」


 悪魔はニヤリと笑う。


「貴様たちが封印を試みるほどに、我は無限に蘇るのだ!」


「そんな……!?」


 ガーナの顔が、絶望に染まる。


「くくく……そうだ。その顔が見たかった。絶望こそが、我の最大の糧……! 貴様だけではない。この世のすべてに絶望を与えてやろう!」


「『エリア・ギガヒール』!」


 俺はすぐに回復魔法を唱え、チェルシーとユリアスの傷を癒やす。


「まだ、俺たちがいる。封印ができないなら――消滅させるまでだ!」


「ふははははっ! 我を消滅させるだと? 面白い……ならば、試してみるがいい!」


 悪魔の魔力が急激に高まり、禍々しい闇が渦巻く。


「『オメガ級・ヘルズ・アナイアレーション』!」


「『ものまね・ヘルズ・アナイアレーション』!」


 俺も即座に同じ魔法を放った。

 漆黒の魔力と、俺の聖なる魔力がぶつかり合い、空間が震える。


 だが――徐々に、俺は押されていった。


「くっ……! このままじゃ……っ!」


 必死に魔力を注ぎ込むが、悪魔の圧倒的な力がのしかかる。


「チェルシー、ユリアス! 何か方法はないか!」


「弱音を吐くんじゃないよ! オメガ級には、オメガ級で対抗するしかないのさ!」


 ユリアスが俺の背後に立ち、声を張った。


「バンダナさん、私も支えます!」


 二人が俺の背に手を当て、魔素を流し込む。

 温かい光が、俺の全身を駆け巡った。


「バンダナ、持っていきな!」 「私も諦めません!」


「……っ! うおおおおおおお!!」


 俺の魔法に二人の魔素が加わったことで、一瞬、悪魔の魔法を押し返す。


 だが――


「フハハハ! いいぞ、貴様たち……! その輝き、まさに英雄と呼ぶに相応しい……!」


 悪魔の魔力がさらに増幅し、再び押し込まれる。


「だが、貴様たちの死をもって――その名を刻むがよい!!」


 じりじりと、俺たちは追い詰められていった。


「……ここまで……か……」


 絶望しかけた、その時。

 まばゆい光が降り立ち、俺たちの両隣を包み込んだ。


「チェルシー、助けに来たぞ!」 「チャルちゃん、お待たせ!」


 光の中から姿を現したのは、二人の人影だった。


「まさか……カゲロウ? それに、タエちゃん!?」


 驚愕するチェルシーをよそに、二人は微笑む。


「俺たちはずっと見ていたよ。バンダナ、ここは俺たちに任せろ!」


 次の瞬間、俺の『ヘルズ・アナイアレーション』を遮り、カゲロウの戦技とタエコの魔法が悪魔に襲い掛かる。


「究極戦技・『刹那聖焔覇斬』!」 「究極戦技・『刹那聖焔覇拳』!」


 二つの聖なる閃光が、悪魔の『ヘルズ・アナイアレーション』を真っ向から受け止めた。


「ぐおおおおおおっ!!」


 悪魔の咆哮が響き渡る。

 今なら、封印できるかもしれない!


「チェルちゃん、封印魔法をお願い!」


 タエコが叫んだが、チェルシーは険しい表情を浮かべた。


「待って! 悪魔が持っている『極転の魔符』がある限り、封印はできない!」


「……それなら、大丈夫だ」


 カゲロウが断言する。


「バンダナが持っている伝説のアイテム、『エターナル金』を使え!」


「エターナル金……?」


「聞け、バンダナ!」


 カゲロウの声が響く。


「バンダナは『エターナル金』、チェルシーは『魔素の核』、ユリアスは『ムーンストーン』、そしてガーナは『霊樹の樹液』を使って封印魔法陣を発動させろ!」


 へたり込んでいたガーナが、その言葉にハッとする。


「……だめよ。私には、そんなこと……できない……」


 震える彼女に、タエコが静かに語りかけた。


「そんなことはないわ。貴方なら、きっとできる」


「……タエちゃん……」


 ガーナの瞳が揺れる。

 チェルシーが不敵に笑った。


「ガーナ、女は度胸だよ!」


 その言葉を合図に、俺は空間収納からアイテムを取り出し、それぞれに渡す。


「よし、魔法陣、発動!!」


 俺たちの魔素がアイテムに注がれると、悪魔の足元に巨大な魔法陣が浮かび上がった。


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