第9話 隻眼の魔女
「あら、もう、カナベルさんのところから帰ってきたのね」
シルキーが笑顔で話しかけてきた。俺が街を散策するつもりだと話すと、彼女は嬉しそうに言った。
「それなら、一緒に行ってもいい? 実は食材を少し買い足したいんだけど、特別な料理を作ろうと思ってるの。手伝ってくれたら嬉しいな~」
どうやら買い物が本命らしい。だが、街を知るいい機会でもある。
「よし、一緒に行こう。いろいろと街のことを教えてくれ」
部屋に戻り、急いで身支度を整えると、シルキーと共に街へ繰り出した。
街の市場は賑やかで、様々な商品が並んでいる。シルキーの案内で食材を見て回ると、異世界ならではの発見があった。
「これが魔獣の肉か。見た目は普通だけど、特別な調理法がいるのか」
「そうよ。調理を間違えると臭みが出るから注意が必要なの」
彼女の説明は的確で、この世界の食文化に少しずつ馴染めている気がした。
買い物を進めるにつれ、荷物がどんどん増えていく。気がつけば両手がいっぱいだ。
「結構買っちゃったけど、この荷物どうしよう?」
シルキーが心配そうに言うのを聞いて、俺は思い出した。
「そうだ!スキル『空間収納』!」
手をかざすと、目の前に異空間が現れ、次々に荷物を吸い込んでいく。
「えっ! バンダナさん、空間収納を持っているの!? それって凄い…でも、ちょっと待って」
シルキーの顔が驚きから真剣な表情に変わる。
「空間収納はかなりレアなスキルだから、人前で使うときは本当に気をつけないといけないわ。悪い人たちが欲しがるスキルだから、あんたが思うよりもずっと危険なんだから」
「そうなのか…」
「それでね。実は偽装用のバッグがあるの。今から買いに行きましょう。それなら、普通の収納魔道具に見えるから安全よ」
「そんなに空間収納ってやばいスキルなのか?」
「そうよ。考えてみて。商人なら、どれだけでも荷物を運べるスキルは喉から手が出るほど欲しいわ」
確かに納得だ。これからは人目を気にしてスキルを使わないといけない。偽装用の背負いバッグを購入して安心したところで、買い物を終えて宿に戻った。
宿に戻ると、女将さんが笑顔で迎えてくれた。
「今日はシルキーの買い物を手伝ってくれてありがとうね。助かったわ」
お礼を言われ、少しだけ照れくさい気分になる。街の散策と買い物を通して、少しずつこの世界に溶け込んでいく自分を感じた。
それから数日が経ち、訓練に励んでいると、細身で背の高い女性がこちらに歩み寄ってきた。
目を引く銀髪と鋭い瞳、そして尖った耳。
おお、これはエルフだ。
「へぇ~、お前さんがうわさの訓練生かい?」
軽い口調で話しかけてくる女性に、一瞬面食らう。
訓練生?
そういえば、カナベルが俺の素性を隠すために、皆には訓練生と紹介していると言っていたな。
「ん?」
「何そんな素っ気ない返事してんだい。若いもんはもっとシャキッとしなよ。威勢がないね」
どこかで聞いたような、独特の口調で話す彼女に少し戸惑う。
カナベルが一歩前に出て、女性と目を合わせるが、どこか気まずそうだ。
「彼女は隻眼の魔女、チェルシーだ」
「隻眼の魔女?」
思わず聞き返す俺に、女性がふっと笑った。
「男がこそこそと話しているんだい。男だったら正面から堂々と言いな! しょっぱいヤツらだねぇ」
どこか江戸っ子のような歯切れの良い喋り方だ。その独特な言葉遣いが、さらに彼女の存在感を際立たせていた。
「チェルシー、今日は何の用だ?」
カナベルが溜息をつきながら問いかける。
「ん~ 訓練生が優秀だって聞いたもんで、どんなもんか確かめにきたのさ。それに、あたしも退屈していたしね」
彼女の左目が怪しく赤く光り、俺をじっと見つめた。
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