第88話 インフェルナス様の力
レオニクスは鋭く叫んだ。
「エリナス、ダリアナ! 新手だ! 陣形を整えろ! 『鉄壁』!」
彼は俺のことを別の強敵と勘違いし、即座に万全の防御を敷こうとする。
「わかったわ! 『テラ級・プロテクション』!」
エリナスが強力な防御魔法を展開し、空間に巨大な魔法障壁が広がった。 その様子を見ながら、俺は静かに口を開く。
「レオニクス。悪魔水を使っているのに、ずいぶんと焦っているようだな。前とは違って、余裕がないんじゃないか?」
俺の言葉に、レオニクスはピクリと反応する。
「……バンダナ!? 生きていたのか……!? どうしてだ!」
俺はポケットから小さな石を取り出し、軽く掲げた。
「これは、冒険者の基本だろ?」
転移石――瞬時に安全な場所へ離脱できるアイテムだ。
レオニクスは悔しそうに舌打ちした。
「くそっ……! 確かにそうだな。俺たちの詰めが甘かった……だが、今度こそ仕留めてやる!」
彼は剣を振り上げ、大地に叩きつける。
「『轟裂地砕斬』!」
ゴォォォン!!
轟音とともに地面が割れ、亀裂から衝撃波が噴き出す。猛烈な力が俺たちを襲いかかる――。
だが、チェルシーは余裕の表情で詠唱した。
「『テラ級・リフレクション』!」
光の障壁が瞬時に展開され、衝撃波を受け止める。そして、そのエネルギーはそのままレオニクスへと跳ね返った。
「なにっ!? くそっ!!」
レオニクスは慌てて『鉄壁』を展開するが、その障壁はあっさりと砕け散る。
チェルシーが不敵に笑いながら言った。
「まったく、あたいたちがいることを忘れるんじゃないよ」
その言葉に続けるように、ユリアスが鋭く叫ぶ。
「バンダナさんは、もうあなたたちには負けません! なぜなら、私たちがついているから!」
彼女の拳甲が蒼く光を放つ。
「『タオ流奥義・刹那龍王拳』!」
ユリアスの放った一撃が、エリナスのプロテクション障壁を粉砕する。
魔法障壁が砕け散る音が響き渡り、レオニクスたちの表情に焦りが浮かんだ。
俺は剣を構え、ゆっくりと前に進みながら言う。
「さて……どうする、レオニクス?」
彼らの勝ち誇った態度はすでに消え去り、焦燥の色が濃くなっていた。
レオニクスは俺たちの装備をじっと見つめ、不敵に笑う。
「なるほどな――その装備は英雄カゲロウのものか。そして、ユリアス姫は英雄タミコの装備……通りで強いわけだ」
俺は静かに言い返す。
「それで、もう諦めるか?」
「ハハハ、冗談はよせ。だが、ここまで追い詰められたのは誤算だったな」
レオニクスはふたりの仲間を見やる。
「エリナス、ダリアナ、最後の手段だ」
彼の声が静かに響いた次の瞬間――
「インフェルナス様、万歳!」 「インフェルナス様、万歳!」
彼らは小瓶を取り出し、迷うことなく悪魔水を飲み干した。
直後、彼らの体が激しく痙攣し、肌の色はどす黒く変わる。爪が伸び、牙が鋭く生え、眼は不気味な赤い光を帯びた。
レオニクスは低い声で呟いた。
「我らの望みはインフェルナス様の復活。例えこの身が滅びようとも構わない……貴様らに、その偉大さを思い知らせてやる」
彼の剣が禍々しい瘴気をまとい、不気味に輝いた。
「『魔轟地獄斬』!」
悪魔の呪詛をまとった剣が振り下ろされると、大地が裂け、煉獄の炎を帯びた瘴気が噴き出し、周囲を焼き尽くす。
チェルシーが警戒の声を上げた。
「バンダナ、ユリアス、気をつけな! その炎は普通の火じゃないよ。瘴気を帯びてるから、一度浴びたら徐々に体力と魔素を奪われるよ!」
俺はすぐに反応する。
「わかった。『聖壁』!」
聖なる障壁が展開され、瘴気と激しくぶつかり合った。
ドォォォン!!
爆風が轟き、俺たちは壁際まで吹き飛ばされる。息が詰まるほどの圧力が全身を襲った。
レオニクスが嘲笑する。
「見たか、これこそがインフェルナス様の力だ」
エリナスが続けた。
「そうよ、これがインフェルナス様の力。『テラ級・呪氷崩滅』!」
冷気が悪魔の呪詛を纏いながら大地を一瞬で凍結させる。 そして、直後に爆発し、鋭利な氷塊が四方へ飛散した――。
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