第85話 作戦会議
準備を整えた俺は、チェルシーに確認する。
「チェルシー、準備はできたが、これからどうする?」
チェルシーは少し考え込んだあと、答えた。
「そうだね。まずは作戦会議に参加しよう。王国側の動きを把握しないとね」
横にいたダニエルが話に加わる。
「チェルシー様のおっしゃる通りです。王国は現在、インフェルナス教を殲滅するための部隊を編成しています。ただ、バンダナ様は特殊な立場ゆえ、個別で動くことを前提とした作戦になるでしょう」
俺は頷きながら提案する。
「なるほど。それなら、俺は気配を消して会議に参加する。レオニクスたちには、俺が殺されたことにしておきたい」
ダニエルは少し驚いた様子を見せたが、すぐに理解したように頷いた。
「わかりました。それが最善かもしれません。聖騎士団には、そのように伝えます。では、こちらへどうぞ」
ダニエルに案内され、作戦会議室に入ると、すでに何名かが集まっていた。
「ユリアス姫、チェルシー様、お待ちしておりました」
「久しぶりだね、バセット」
王都騎士団隊長のバセットが深く頭を下げる。その隣には王都魔道団隊長のセシリアが座っており、顔見知りのベルギアやアルカナの姿もあった。他の参加者も、一目で精鋭とわかる者たちばかりだ。
会議が始まり、話が進むにつれ、次第に状況の全貌が明らかになっていく。
会議の要点はこうだ。
・悪魔大戦の際に使われた『神鎖の神殿』がインフェルナス教の本拠地となっている
・そこには強力な魔法陣が存在し、インフェルナス教が収集した素材は、その魔法陣でしか錬金できない
・封印魔法を完成させるために必要な工程が複雑であり、部隊が別々に動く必要がある
・特に重要なのは、ユリアスとチェルシーがそれぞれ別行動で悪魔封印の魔法陣を完成させる役割を担うこと
会議が一通り終わった後、ベルギアが不安げに尋ねた。
「チェルシー様、バンダナの姿が見えませんが……彼は、本当に……」
チェルシーはわずかに間を置き、視線を伏せながら答える。
「あたいにもわからないさ……でも、あたいはあいつが生きているって信じているさ」
その迫真の演技に、ベルギアは肩を落とし、呟いた。
「そうですか……」
俺は部屋の片隅でそのやり取りを見つめながら、背徳感に苛まれていた。味方を欺いているという事実が心に重くのしかかる。しかし、それが作戦上の最善策であることは確認していた。
作戦会議に参加している間、俺は密かにあることを実践していた。
それは、ユリアスやチェルシーが話している最中に、目線を合わせない人物を観察することだった。
俺の考えでは、何か後ろめたいことがある者ほど、目線を逸らす傾向があるはずだ。
案の定、一人の貴族の男が不自然に目を逸らし続けていた。話が彼の方へ向けられるたび、まるで逃げるように視線を避ける。その様子に、俺の中で警戒心が強まる。
作戦会議が終わると、俺は静かに気配を消し、その男の後をつけた。
男は慎重に周囲を警戒しながら、王宮の片隅へと向かう。やがて、別の男と密かに話を交わし始めた。
「やはり、あの男は死んでいるようだ。このことをレオニクス様にお伝えしろ」
「承知しました」
男たちは素早くその場を離れた。
俺の作戦は成功したようだ。レオニクスたちは俺が死んだと信じている。
俺はチェルシーたちのもとに戻った。
「バンダナ、今までどこに行っていたんだい?」
チェルシーが心配そうに問いかける。
「ああ、ちょっと王宮内を捜索してた」
チェルシーは肩をすくめて笑う。
「そうかい。まぁいいけど、少しは休んだらどうだい?」
「そうだな」
俺は一息つき、明日からの作戦に備えるため、部屋へと戻った。
これからが本番だ――気を引き締めなければならない。
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