表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
84/100

第84話 拳聖の誕生

 王都に着き、俺たちはまっすぐ王宮へ向かった。


「チェルシー伯爵、お待ちしておりました」


 門番がチェルシーに深く頭を下げ、案内を始める。


 広い廊下を進むうち、貴族や侍女たちの視線が俺たちに集まるのを感じた。


「チェルシー、俺たち、やたら注目されてないか?」


 低く囁くと、チェルシーは小さく笑った。


「そりゃそうさ。あたいたちの動向を嗅ぎつけてる貴族連中も多いんだ。秘密にしたつもりでも、こういう場所じゃ噂は勝手に広がるもんさ」


「そうか……なら、俺は『忍び足』で姿を消すか」


「忍び足? 何を言って……」


 俺がスキルを発動すると、装備の効果もあって完全に気配が消えた。


「こりゃたまげたね……あたいですら、かすかに感じる程度だよ」


「これなら都合がいい。もし王宮にインフェルナス教の潜伏者がいれば、俺が死んだと思わせられる」


「上手い考えだね。じゃあ、そのままついてきな」


 チェルシーに導かれる形で、俺は気配を消しながら進んだ。


 途中、部屋の前に立っていたダニエルがチェルシーを出迎えた。


「チェルシー様、お越しいただきありがとうございます。ところで……バンダナ様のお姿が見えませんが、まさか本当にインフェルナス教の手に……!」


「ダニエル、細かいことは後だよ。ユリアスがいる部屋に案内しておくれ」


 チェルシーの声に、ダニエルは一瞬戸惑いながらも頷き、部屋の中へと案内した。


 さらに本棚を操作すると隠し扉が現れ、その奥へ俺たちを導く。


 隠し部屋の中には、ユリアスがいた。


 顔には疲れの色が浮かんでいるが、目はしっかりと光を湛えていた。


「チェルシー様、お久しぶりです」


「ユリアス、大丈夫かい?」


「はい、私は大丈夫です。それに……『ムーンストーン』も無事に手に入れることができました」


 そう言って、ユリアスは小箱を持ち上げ、中身を見せた。


 神秘的な輝きを放つ石が、確かにそこにあった。


「よくやったね」


 チェルシーはユリアスの頭を撫で、優しく笑った。


 だが、ユリアスの表情が曇る。


「そういえば……バンダナ様はどちらにいらっしゃるのですか? まさか……うっ……!」


 ユリアスの目から、ぽろぽろと涙がこぼれ落ちた。


 俺が死んだと思っているらしい。


 その瞬間、俺は静かに気配を戻しながら姿を現した。


「ユリアス、心配するな。俺はここにいる」


 ユリアスは俺の声に驚き、振り向いた。


 その目は、涙で潤んでいる。


「バンダナ様! ご無事で……本当に良かった……!」


 彼女は安堵のあまり、俺の胸に飛び込んできた。


 その小さな体は震えていたが、その気持ちは痛いほど伝わってくる。


「すまない、心配をかけたな」


 俺はユリアスを落ち着かせるように、そっと抱きしめた。


 俺たちは席に座り、お互いの近況を話しながら束の間の平和を楽しんだ。


 そんな中、ダニエルがふと口を開く。


「バンダナ様。その装備……もしや、カゲロウ様のものではありませんか?」


 俺は静かに頷いた。


「やはりそうでしたか……。バンダナ様の忍び足、私でも気配を捉えることができませんでした。それに、その刀は……」


「そうだ。まだ使ってはいないが、昔から使っている愛刀のように馴染んでいる。不思議な感覚だ」


「それも無理はありません。カゲロウ様が異世界人であったように、バンダナ様も異世界人。同じ出身であることで、その刀がバンダナ様と共鳴しているのでしょう」


「……そうかもな」


 俺は刀を見つめ、手に馴染む感覚を確かめた。


 その時、ユリアスが俺とチェルシーを交互に見ながら、悲しげな表情で言う。


「バンダナ様の装備もそうですが、チェルシー様の装備もとても立派です……。私など、もうお二人と一緒に戦うことなんてできないでしょう……。あの頃が懐かしい……」


 彼女の声はかすかに震えていた。


 チェルシーはそっとユリアスに近づき、優しい笑みを浮かべる。


「ユリアス、そんなことはないさ。ほら、これを見な」


 そう言いながら、チェルシーは空間収納から何かを取り出した。


 それは、一対の輝くグローブと美しい軽装のクロークだった。


「これはね、タエちゃん――タエコの装備さ。あの子が、お前さんに託してくれたんだよ」


「これは……!」


「これが光り輝くグローブ『天光の拳甲』と拳法着の『破天闘衣』さ。これを装備すれば、お前さんの身体能力と魔素は数段アップする代物だ。タエちゃんは拳聖だったから、この装備はきっとお前さんの力になってくれる。さあ、装備してみな」


 チェルシーの言葉に従い、ユリアスが慎重に装備を身につけると、彼女の体が眩い光で包まれた。


 その光はしばらくの間輝いた後、ユリアスの体に吸い込まれるように収まった。


「こりゃ、たまげたね……! ユリアス、お前さん、ジョブが『拳聖』に変わったよ!」


 チェルシーの言葉に、ユリアスも驚きながら自分の体を見つめた。


「はい……私にもわかります。まるで、英雄タエコ様の力を直接受け取ったような気分です」


 ユリアスの体からは、チェルシーと同じような強力な魔素の波動が放たれていた。


 それを感じ取った俺は、彼女の成長を実感し、微笑む。


「ユリアス、これで俺たちは対等だ。俺たちと一緒に戦おう」


「はい!」


 ユリアスは涙を拭いながら満面の笑みを浮かべ、力強く頷いた。


 彼女の目には新たな決意が宿っていた。


 これで、俺たちのチームは再び一つになり、悪魔との決戦に向けて万全の態勢が整った。


もしよろしければブックマークへの登録、応援をよろしくお願いします。

応援は下にある『☆☆☆☆☆』より押すことで可能です。

ブックマークも頂けると本当に嬉しいです。

作者のモチベーションになりますのでよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ