第83話 英雄たちの装備
「この水晶玉は、カゲロウとタエコの装備を封印したものだよ」
チェルシーが静かに語る。
「お前さんとユリアスは、これから悪魔封印に向けて、これまで以上に苛烈な戦いを迎えることになるだろう。カゲロウに似ているお前さん、タエコに似ているユリアス――この装備は、お前さんたちが使うべきものだ」
チェルシーは水晶玉を俺に差し出す。
「エドワード公爵の屋敷にある『異世界人の扉』を通じて、装備の封印を解きな」
「わかった。任せてくれ」
俺は水晶玉を受け取ると、すぐにエドワード公爵の屋敷へ向かった。
「お久しぶりです、バンダナ様。チェルシー様より伺っております。こちらへどうぞ」
屋敷に到着すると、執事のスコットが出迎え、俺を奥へと案内する。慎重に廊下を進み、屋敷の奥深くに隠された『異世界人の扉』へと通される。
「よくぞ参られた」
扉の前にはエドワード公爵が待っていた。
「チェルシー殿から事情は聞いておる。さあ、扉の先へ進むがよい」
「エドワード公爵、ありがとうございます」
俺は丁寧に礼を述べ、『異世界人の扉』を開く。
中へ入ると、以前訪れたときと変わらぬ光景が広がっていた。中央の台座には、懐かしいコントローラーが据え置かれている。
「上上下下左右左右BA……」
コマンドを入力すると、奥の扉が静かに開き、封印の間が姿を現した。
「懐かしいな……」
八面体の水晶が静かに輝いている。その神秘的な光景に目を奪われていると、不意に声が響いた。
「バンダナ、久しぶりだな」
「……サイモン!」
聞き覚えのある声に振り返ると、透明な光の中から現れたのはサイモンの幻影だった。
「ははは、覚えてくれているとは嬉しい限りだ。ここに戻ってくる日が来るとはな」
「サイモン、俺はこの水晶玉を使ってカゲロウとタエコの装備の封印を解きたい。彼らの力が必要なんだ」
一瞬の沈黙の後、サイモンは穏やかに答えた。
「わかった。しかし、装備の封印については、彼ら自身に許可を得るがよい」
そう言うと、八面体の水晶がまばゆい光を放ち始め、水晶玉がゆっくりと吸い込まれていく。その瞬間、空間全体がまばゆい輝きに包まれた。
「……バンダナ……」
光の中から現れたのは、カゲロウとタエコの幻影だった。静かに俺を見つめ、二人は微笑む。
「ずっと、チェルシーを通して君を見ていた。我々の装備を使う覚悟はできているか? チェルシー、いや、悪魔を封印する覚悟はあるのか」
「もちろんだ。俺たちは必ず悪魔を封印し、この世界を守る」
「そうか。それでこそ、未来を託せる」
カゲロウとタエコは頷き合い、手を掲げた。
その動きに呼応するように、八面体の水晶から二本の刀『影霞』と『月影刃』、赤黒い軽装備『シャドウ・スカーレット』、光り輝く手甲『天光の拳甲』、拳法着『破天闘衣』が現れた。
「これが俺たちの残した力だ。存分に使え」
「バンダナさん。チェルシーちゃんをよろしくね」
その言葉とともに、二人の姿は光の中へと溶けていった。俺は装備を手に取り、深く息を吸い込む。
「これがあれば、いけるかもしれない」
『異世界人の扉』から外へ出ると、公爵が俺を待っていた。その姿を見た瞬間、彼は目を見開き、驚嘆の声を上げる。
「素晴らしい! これぞ、200年前から語り継がれる英雄カゲロウ殿の装備だ!」
「エドワード公爵、装備の封印を解くことができました」
「うむ。これでチェルシー殿やユリアス姫のもとへ向かう準備が整ったな。さぁ、急ぎなさい!」
公爵の励ましを受け、俺は屋敷を後にする。
「神速!」
力を込めると、身体が光に溶け込むような感覚が襲う。まるで空を飛ぶような軽さだ。周囲の景色が瞬く間に後方へ流れ、速度も制御も、すべてが自分の意志で思いのままだ。
「これが……英雄カゲロウの装備の力か……!」
風を切る音さえ心地よく感じる中、装備が持つ潜在能力の片鱗に触れた気がした。
「チェルシー、戻ったぞ!」
屋敷へ戻ると、チェルシーが出迎えてくれた。しかし、彼女も俺を見て驚いたような表情を浮かべている……いや、俺も彼女の姿に驚かされた。
「その装備は……」
「驚いたかい? あたいも決意を固めて、封印を解いたよ。これはあたいが悪魔大戦で使っていた装備さ」
チェルシーの杖とローブからは、見ただけで圧倒されるほどの魔素がほとばしっている。その存在感は圧倒的で、ひと目でただの武具ではないと分かる。
「す、すごいな……」
「そうかい? でもバンダナ、よく聞きな。この装備以上のものがお前さんの手にはある。これからの戦いで、それを存分に活かしきるんだよ!」
「……ああ、任せろ!」
互いの装備に目をやりながら、俺たちは決意を新たにする。ユリアスがいる王都へ向けて、準備を整え出発した。
次なる戦いへの道が、いよいよ動き始める。
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