第81話 悪魔水
「流石にしぶとい。だが、終わりにしよう」
レイアードがダリアナに合図する。
「バンダナ、私もあなたのことは嫌いじゃなかったのよ。でも、ここまでよ。『テラ・フレイムバースト』」
灼熱の炎が放たれ、俺の体を包み込む。逃げ場はない――これで終わりかと絶望しかけたその時、チェルシーの言葉が脳裏に浮かんだ。
「これを背負いバックに入れて持っていきな。それと、転移石も渡しておくよ。ピンチの時に使いな」
「これだ……!」
俺は最後の力を振り絞り、空間収納から転移石を取り出す。
握りしめて発動すると、次の瞬間、視界が白く染まり、灼熱の苦痛から解放された。
転移に成功したのを感じた瞬間、俺は意識を手放した――
どれくらいの時間が経ったのだろうか……
目を開けると、見慣れた天井が視界に入る。まだ霞む目で周囲を見回すと、椅子に座って眠るチェルシーの姿が目に入った。
「チェ、チェルシー……」
かすれた声に反応し、彼女が目を覚ましてこちらに駆け寄る。
「バンダナ! 気が付いたかい! 体の方はどうだい? 気分はどうだい?」
「ああ、チェルシー、大丈夫だから落ち着いてくれ」
俺は必死な様子の彼女をなだめた。
「本当に驚いたよ。あたいが部屋にいたら、いきなりすす焦げのお前さんが現れたんだからさ。回復魔法で治療したけど、それでも丸三日間も寝ていたんだよ」
「そうか……チェルシー、本当にありがとう。君からもらった転移石がなければ、今頃俺は……」
「そうかい。相当危ない状況だったみたいだね。詳しく話しておくれよ」
彼女の言葉に促され、俺はこれまでの出来事を語った。
ナダルのこと、深淵の魔泉での『魔素の核』、賢愚の鉱峰での『愚者の金粉』、そしてレオニクスたちとの激闘――すべてを話し終える。
チェルシーは少し沈黙した後、ゆっくりと口を開いた。
「バンダナ、すまなかったね」
チェルシーは申し訳なさそうに顔を伏せる。
「あたいも、本当はお前さんと一緒に旅に出たかったんだ。『魔素の核』や『愚者の金粉』を手に入れるためにさ。でも、あたいが動けばインフェルナス教に気付かれてしまう。それじゃ、両方を手に入れるなんて不可能になる。だから、お前さんに全部任せるしかなかったんだ。けど……予想外だったね。あいつら、禁断の薬『悪魔水』を使うなんて」
「『悪魔水』?」
俺はその言葉に聞き覚えがなかった。
「自分の寿命と引き換えに、ステータスを何倍にも引き上げる薬だよ」
チェルシーは苦々しげに説明を続ける。
「少なくとも20年以上は寿命が縮む。だから、普通の人間が3回も使ったら確実に死ぬさ」
「……20年以上だと?」
驚愕を隠せない。成人が数回使用しただけで命を落とす――そんな代物を使うなんて。
「そうさ。それでも彼らは悪魔復活のために命すら捧げる覚悟をしている。インフェルナス教の信念には狂気さえ感じるよ」
チェルシーの言葉には、怒りと悲しみが滲んでいた。
「バンダナ、今は何も考えず休みな」
「ああ……ありがとう、チェルシー」
俺はベッドに身を沈めると、疲労感に負けてすぐに深い眠りへと落ちていった。
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