第79話 愚者の金粉
数日かけて洞窟を進んでいくと、ようやく霧が晴れた広い空洞にたどり着いた。
「どうやらここが最深部のようだな」
周囲を見渡すが、『愚者の金粉』がありそうな場所は見当たらない。
『魔素の核』のときのような祭壇や石像もなく、水源と思われる小さな池がひとつあるだけだ。
「本当に『愚者の金粉』なんて存在するのか……」
不安を抱きつつ手がかりを探していると、人の気配を感じた。
俺はすかさず岩陰に身を隠し、気配を消して様子を伺う。
「ここが最深部だな。念のため警戒を怠るなよ」
洞窟に現れたのは四人組のパーティーだった。
声には聞き覚えがある。
「レオニクス、この窪みだよ」
「そうだな。情報と一致している」
レオニクスという名前――間違いない。
彼らは『赤き翼』、さらに悪名高い悪魔崇拝組織『インフェルナス教』の連中だ。
俺は息を潜め、彼らの動きを監視する。
彼らは池のそばの窪みから何かを取り出し、それを池に投げ入れると池から泡が立ち上り、黒い物質が表面に浮かび上がってくる。
その黒い物質は、やがて黄金色に輝き始めた。
「ダリアナ、今だ」
レオニクスの合図で、ダリアナという女性が魔法を唱えると池に浮いていた金色の粉が、空中へと舞い上がった。
レオニクスは袋を取り出し、空中に漂う金色の粉を慎重に集めていく。
「よし、『愚者の金粉』を手に入れたぞ!」
満足げな表情を浮かべたレオニクスたちは、洞窟の奥へと姿を消していった。
広大な空洞での光景を見届けた俺は、慎重に岩陰から姿を現す。
「やはり、ここに『愚者の金粉』があったか……だが、方法が謎だな」
レオニクスたちのやり方を観察した限り、池に何かを投げ入れると金色の粉が現れる仕掛けのようだ。
彼らが投げ入れた物の正体が重要だろう。
池の縁までゆっくり近づき、さっきの場所を詳しく調べると、窪みがあった場所には、わずかに黒い粉末が付着していた。
「これか?」
黒い粉末を指先に取り、鑑定スキルを使う。
『鑑定』:魔素を凝縮した鉱粉。高濃度の魔素を含む黒い鉱粉。特定の条件下で他の物質と反応する
どうやらこれが鍵らしい。
レオニクスたちはこの鉱粉を池に投げ込み、池の中で何らかの反応を引き起こして『愚者の金粉』を生成したのだろう。
「ならば俺も試すしかない」
洞窟内をくまなく探し、似たような鉱粉が採取できそうな場所を見つける。
手に入れた鉱粉を握りしめ、池に戻ると慎重に投げ入れた。
すると池の表面が小さく波立ち始め、やがて泡が立ち上る。
「よし、これで合っているはずだ」
池の中から黒い物体が浮かび上がり、徐々に黄金色へと変化していく様子が見える。
「これだ……これが『愚者の金粉』だ!」
俺はダリアナが使った魔法をものまねする。
「『ものまね 空中浮遊』」
魔法で金粉を浮かせ、慎重に袋の中へと収めた。
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