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第78話 愚者の罠

 俺はグランバール山脈を目指し、馬車に揺られること数日。

 

 途中のキャンプ地では、冒険者や商人たちと出会い、情報を交換した。


 彼らの様子や話ぶりから察するに、ここは『深淵の魔泉』のような秘匿性の高い場所ではなさそうだったが、その分、厄介な仕掛けや守護者が潜んでいる可能性は否定できない。


 到着後、ナダルからもらった地図を頼りに、『賢愚の鉱峰』へと向かう。


 両脇に切り立った山々が迫り、地図に記された滝が目の前に広がっていた。


「おかしいな。地図だとこの辺りのはずなんだが……」


 滝の周辺を慎重に探索するが、目立った入り口らしきものは見当たらない。


 苔むした岩肌と、ごうごうと流れる水音に気を取られ、進展がないまま時間だけが過ぎていった。


 しばらく滝を見つめながら考えていると、不意に気づく。


「あそこだ……あれが入口だ!」


 滝の裏側、霧が薄くなった瞬間に見えた空洞に、俺は思わず声を上げた。


 慎重に滝つぼの岩場を下り、滑らないよう足元に気をつけながら進んでいくと、目の前に明らかな洞窟の入り口が現れる。


「ここが『賢愚の鉱峰』に違いない」


 洞窟の入り口は湿気に包まれ、岩壁には青白い苔がびっしりと生えており、冷たい風が湿り気を含んで吹き、霧は洞窟の奥へと吸い込まれていく。


 その先は、まったく見通せない。


「行くしかないな」


 俺は気を引き締め、洞窟の奥へと足を踏み入れた。


 中はまるで幻影のような霧に包まれ、一寸先も見えないほどだ。


 俺は足元に注意を払いながら進み、『地図捜索』と『鑑定』を併用して、慎重に道を切り開いていく。


「かなり視界が悪いな……」


 独り言を漏らした瞬間、顔を何かがかすめた。


「うぉっ、今のはなんだ?」


 慌てて周囲に目を凝らすが、霧が濃すぎて敵の姿は視認できない。だが、背筋をゾクッとさせる何かの気配は確かにある。


「これは、ただの霧じゃないな」


 じっと霧を観察すると、魔素が微細に漂っていることに気づく。それが『魔素感知』を妨害しているのだ。


「嫌なダンジョンだな……」


 壁を背にして剣を構え、背後を取られないよう身構えると、突然、霧の中から複数の気配が動き出した。


「きた!」


 敵の動きは統率が取れている。「スウォームコンバット」――連携を得意とする集団だ。

 数体が一斉に襲いかかってくるのを、剣で防ぐので精一杯だった。


「あいつら連携で動く……ダニエルとの模擬戦を思い出せ!」


 かつて夜間の真っ暗闇で行った戦闘訓練が脳裏をよぎる。

「気配察知」を発動すると、霧の中でも敵の動きが朧げながら浮かび上がった。


「見えた! 『疾風連撃斬』」


 疾風の如く剣を振り抜き、敵を次々と切り伏せていく。最後の一体が崩れ落ちると、霧の中には再び静寂が訪れた。


「ふぅ、片付いた」


 安堵する間もなく先に進むと、洞窟の壁に埋まる光る鉱石を見つける。


「これは……ミスリル鉱石か」


 何気なく手を伸ばしかけた、その瞬間。


 突如として、反対側の壁から無数の矢が噴き出した。


「間に合え、『聖壁』!」


 即座に魔法を発動し、透明な壁を展開して矢の嵐を防ぎ切る。


「危なかった……ここは、気を抜くとすぐに罠が襲ってくる」


 戦闘後の油断を狙うような仕掛け。このダンジョンは明らかに『愚者』を陥れるために設計されている。


「愚者の金粉を手に入れるには、慎重さと知恵が試される場所だな……」


 静かに呟き、俺は改めて気を引き締め、さらに洞窟の奥へと歩みを進めた。


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