第77話 魔素の核
先ほどの出来事を振り返りながら、不可解な点に思い当たる。
「一体、石像は何を基準に王家の者かどうかを判断しているんだ?」
しばらく考え込んでいると、ふとチェルシーの言葉が脳裏をよぎった。
――いいかい、よく聞きな。お前さんには『鑑定』があるだろう。それは非常に強力な武器にもなるのさ。
生きとし生けるものはすべて魔素を持っている。その魔素の流れを観察することで、相手が魔法を放つのか、戦技を使うのか、見抜くことができる。
チェルシーは少し間を置いて、強調するように続けた。
――つまり、あたいが言いたいのは、相手のことがわかるってことだよ。簡単じゃないけど、極めてみな。
チェルシーの言葉を思い返しながら、俺は先ほどの男たちの様子を思い出す。
石像の目が青く光った瞬間、男の魔素の流れが一瞬だけ変化していた。それを、俺は見逃していなかった。
「そうか……。石像は、魔素の流れを見ているのかもしれない」
なんとなく仕組みが理解できたが、それをどう利用するかが問題だった。
「うーん、魔素……流れ……そうか! これしかない!」
俺は覚悟を決め、祭壇の元へ向かう。
まず、祭壇に置かれていた水晶玉をそっと取り外し、空間収納へとしまい込んだ。
次に、両手を使い、水晶玉と同じ大きさになるように慎重に魔素弾を生成する。
「ここが一番重要だ……『ものまね』!」
魔素弾を水晶玉に見立て、祭壇の上に置いた。
「ゴゴゴゴゴ!」
魔素弾に反応して、石像が再び動き出す。その赤い目が、まっすぐ俺に向けられた。
「我が王家の聖域を守護するガーディアンなり。汝、王家の者では……」
石像の動きが一瞬だけ止まる。だが、すぐに仁王立ちの姿勢を取り、再び言葉を紡ぐ。
「汝の力を示せ。我の胸に、全力で!」
その言葉に、俺は一瞬だけ躊躇した。しかし、すぐに腹をくくる。
「ここで引いたら終わりだ……『ものまね タオ流奥義・七星発勁拳』」
虹色に輝く拳を生み出し、俺はそれを全力で石像の胸に叩き込んだ。
拳が直撃した瞬間、星々の輝きが弾け、広場全体に轟音が響き渡る。
「ギギギ…… 照合中…… 照合中……」
石像は首を左右に振りながら、何かを確認しているようだった。
やがて動きが止まり、目が青く光ると、静かに口を開いた。
「汝を王家縁の者と認める」
その言葉を聞き、俺は思わず拳を握りしめた。
「やったぜ……!」
俺が行ったのは、ユリアスの魔素の流れを自分の体内で再現し、それを攻撃に込めるという、大胆な賭けだった。
「まさか、これで通じるとはな……」
静かに息を吐き、俺は次の行動に移るべく石像を見つめる。
石像がゆっくりと俺に顔を向け、厳かに言葉を紡いだ。
「王家縁の者よ。汝は、何を望む」
俺は一呼吸置き、静かに答える。
「魔素の核を望む」
石像の青く光る目が、淡い青へと変わり、静かに頷くような仕草を見せた。
「望みは叶えられた」
その言葉を最後に、石像は元の位置へ戻り、完全に動きを止め、静寂が訪れる中、俺は祭壇へと目を向ける。
祭壇の台座には、七色に輝く、美しい石が鎮座していた。
「鑑定!」
『魔素の核』:高濃度の魔力が凝縮された球体。
心の中で拳を握りしめる。
「間違いない……これが、魔素の核だ!」
慎重に手を伸ばし、その宝石のような石を空間収納へしまい込む。
魔素の核の重量感――それは、単なる物理的な重さではなかった。
手にした使命の重さを、強く感じさせた。
「よし、これで一つ目の目標は達成だ」
俺は深淵の魔泉を後にしながら、自らの次なる目的地を思い描く。
次に向かうのは、「愚者の金粉」を求め、王都の東にあるグランバール山脈を越え、さらにその先――「賢愚の鉱峰」だ。
「まだ終わりじゃない」
静かに息を整え、再び歩き出す。
俺の背中を吹き抜ける風は、次なる冒険の始まりを告げていた。
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