第76話 王家に災いをもたらす者に死を
「さて、どうしたものか」
目の前の湖底に沈む祭壇。あの場所で「成人の儀」が行われ、使用されていたものが「魔素の核」だと予想しているが、肝心の祭壇までたどり着く方法が思い浮かばない。
俺は地底湖の周囲を捜索し、手がかりを探していた。そのとき、複数の人間の話し声が聞こえてきた。
とっさに「忍び足」を使い、気配を完全に消して岩場の陰に身を潜める。
「おい、やっと着いたな。ここが地底湖だ」
現れたのは三人ほどの男たち。どうやらリーダーらしき男が指揮をとっているようだ。
「見ろ、あれが祭壇だ」
リーダーの男は湖底の祭壇を見つめながら、バッグから水晶玉のようなものを取り出した。
「準備はいいな? さっさと終わらせるぞ」
男は水晶玉を手に、壁際に向かって歩き出すと、湖の岸辺近くの壁が微かに光を放ち始めた。
「よし、ここだ」
男が光る壁を押すと、その部分がゆっくりと凹み、湖のすぐそばに隠された地下への階段が現れた。
「成功だな。おい、行くぞ!」
男たちは階段を降りていく。
階段が再び壁に隠されるまでの一連の動作を、俺は「鑑定」スキルで見極めていた。
「なるほど……」
地下階段の仕組みがわかった。
水晶玉から放たれた水属性の魔素を、特定の壁の部分に一定量流すことでスイッチが作動する仕掛けになっているらしい。
俺は静かに男たちが使った壁際に近づき、「ものまね」を発動させる。
そして、さっきの水晶玉から放たれていた魔素を再現して壁に流し込む。
壁が淡い光を放ち、やがて階段が現れる。
「上手くいった……。やはり、あの男たちは監視員が言っていた無断侵入者のパーティーか」
俺はさらに気配を抑えつつ、慎重に階段を降り始めた。
地下へ続く暗い通路は、ひんやりとした湿気が漂っている。
足音を立てないよう神経を研ぎ澄ませながら進むと、遠くから男たちの声が再び聞こえてきた。
「ここからが本当の勝負だな……」
地下に降り立つと、そこは広々とした広場になっており、中央には湖の底で見えたあの祭壇がそびえ立っていた。
頭上を見上げると、天井は透明な壁でできており、ここが確かに湖底であることが一目でわかる。
祭壇の背後には、大剣を構えた巨大な騎士の石像が立っている。
その威圧感は尋常ではなく、ただの装飾品ではないことを示していた。
俺は影に身を潜めつつ、先ほどの男たちを観察する。
彼らは祭壇の周囲を念入りに調べていたが、リーダーらしき男が何かを見つけたようだ。
「ここだ」
男は水晶玉を祭壇の中段に慎重に置く。
すると、水晶玉が強く光り始め、仕掛けが作動するような重々しい音が広場全体に響き渡った。
「ゴゴゴゴゴ!」
その瞬間、祭壇の背後に立っていた巨大な騎士の石像が動き出す。
石像の目が真紅に輝き、低く威厳のある声が広場に響いた。
「我が王家の聖域を守護するガーディアンなり。汝ら、王家の者ではないな」
石像の視線が男たちに注がれると、彼らは一瞬怯んだが、リーダーがすぐに冷静さを取り戻した。
「待ってくれ! 我々は王家の使いだ」
そう言いながら、男は首から下げたペンダントを掲げる。
それには王家の紋章が刻まれていた。
石像はじっとペンダントを見つめ、再び口を開く。
「うむ。確かに、それは王家の紋章だ。汝らの望みを言うがよい」
リーダーは堂々と答える。
「魔素の核を授けてほしい。我々は世界を守るため、ひいては王家を守るためにそれを必要としている」
その言葉を聞いた石像の目が一瞬青く光った。
だが、それも束の間、再び目は赤く輝き出す。
「よかろう。汝たちに授けよう」
男たちは安堵の表情を浮かべたが、その次の石像の言葉が状況を一変させた。
「近くまで来て取りに来るがよい」
彼らは警戒しながらも、ゆっくりと石像に近づいていく。
しかし、その瞬間、石像が大剣を高々と振り上げた。
「愚か者ども! 王家に災いをもたらす者に死を!」
石像の大剣が振り下ろされると、男たちは悲鳴を上げる間もなく、その場から完全に消滅してしまった。
広場には再び静寂が訪れる。
石像は何事もなかったかのように、元の位置に戻り動きを止めた。
俺は岩陰からその一部始終を見届け、冷や汗が背中を伝う。
「……どうやら、ただの試練じゃないらしいな」
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