第74話 闇賭博
俺はカナベルに教えてもらった情報屋を頼りに、闇賭博が行われている建物にたどり着いた。
薄暗い室内には熱気とざわめきが渦巻いている。大勢の男たちがテーブルを囲み、低い声でささやき合ったり、時折大きな声を上げたりしていた。
「さて、どう動くか……」
慎重に周囲を観察していると、黒服を着た男がこちらに近づいてきた。
「お客さん、どうされましたか?」
ここは駆け引きせず、率直に要件を伝えることにした。
「ナダルに会いたい。ランバートの件で世話になったバンダナが来たと伝えてくれ」
黒服の男はじっと俺を見つめたあと、短く頷く。
「ここで待っていろ」
しばらくして、黒服の男が戻ってきた。
「こちらへどうぞ」
彼に案内され、奥の部屋の前でボディーチェックを受ける。
「武器は持っていないようだな。入れ」
部屋の中に入ると、豪奢な装飾品に囲まれた空間にナダルが座っていた。
落ち着き払った様子で、こちらを見ている。
「いつかは来ると思っていたが――異世界人のバンダナだったな。それで、今日は何の用だ?」
「さしで話したい」
ナダルは薄く笑みを浮かべた。
「ふっ、相変わらずストレートだな。それに、この前とは雰囲気が変わったようだ」
「まぁ、色々あったからな。それで、どうだ?」
俺が周囲を気にしているのに気づいたのか、ナダルは軽く手を振り、部屋にいた黒服の男たちを退室させた。
「これでいいか?」
「ああ、助かる。聞きたいのは、魔素の核と愚者の金粉だ」
その言葉を聞いた瞬間、ナダルの表情が強張った。
「魔素の核と愚者の金粉だと?」
「ああ。情報が欲しい」
ナダルは鋭い目つきで俺を見据えた。
しばらく沈黙が続いたあと、重い声で口を開く。
「お前、相変わらず危険なものに首を突っ込むな。その情報は、ただの興味では済まされない代物だ」
ナダルは椅子に深く座り直し、静かにため息をついた。
「ランバートの件で借りがあることは認める。だがな、バンダナ。お前が今求めている二つの素材――それはインフェルナス教と関係しているだろう? もしそうなら、ただ事じゃない品だ。それを手に入れようとするなら、どれだけの危険を背負うことになるか分かっているのか?」
「危険だろうと構わない」
俺の言葉にナダルは黙り込み、目を細めた。
「白銀貨十枚だ。それだけ危険を伴う情報ということだ」
「わかった」
即座に白銀貨十枚を机の上に置く。
「即決か……。まあ、そういうところは気に入っているがな」
ナダルは苦笑しながら続けた。
「これは口封じの意味も含めた情報料だ。覚えておけ」
俺は静かに頷いた。
「まず、魔素の核についてだ」
ナダルは重々しい口調で説明を始める。
「これは、高濃度の魔力が凝縮された球体だ。過去、魔導師たちが使っていたと言われる純粋な魔力の結晶。その一つが、『深淵の魔泉』と呼ばれる遺跡にあるという噂がある」
「深淵の魔泉?」
「ああ。ここから南にある地底湖のダンジョンだ。ただし、このダンジョンの等級は不明で、王都の許可が必要だ」
「わかった」
「次に、愚者の金粉についてだが、これは『賢愚の鉱峰』に存在するとされている。場所は王都から東に行ったグランバール山脈を越えた先にある。後で簡単な地図を渡そう」
「それは助かる。まずは、深淵の魔泉に向かうことにする」
ナダルは苦笑しながら首を振った。
「まったく、お前の無鉄砲さには呆れるな。ただし、忠告しておく。どちらも命がいくつあっても足りないような場所だ。無理だと思ったら引き返せ」
「忠告感謝するが、俺には立ち止まる時間がない」
俺はナダルに礼を言い、立ち上がった。
「ナダル、世話になった。必ず戻ってくる」
「戻ってこなくてもいいさ。ただ、お前が無駄死にするのを見る趣味はない」
ナダルの言葉に軽く頷き、俺はその場を後にした。
もしよろしければブックマークへの登録、応援をよろしくお願いします。
応援は下にある『☆☆☆☆☆』より押すことで可能です。
ブックマークも頂けると本当に嬉しいです。
作者のモチベーションになりますのでよろしくお願いします。