第73話 ものまねの進化
俺はチェルシーとダニエルと一緒に冒険者ギルドの訓練場にいた。
ダニエルは額の汗を拭いながら、疲れ切った表情で息を吐く。
「はぁ、はぁ……やっと終わりましたな」
俺は深く頭を下げた。
「ダニエルさん、本当にありがとうございます」
チェルシーは苦笑いを浮かべ、手を腰に当てながら呆れたように言う。
「やれやれだね。バンダナがダニエルから教えてもらうだけじゃ飽き足らず、あたいまで巻き込んで模擬戦をやるなんてさ。年寄りに徹夜はきついんだからね」
実は、チェルシーの屋敷で忍者について話し合った直後、俺はできるだけ早く忍者のスキルを学びたいとダニエルに頼み込んだ。彼も快諾してくれ、急いで訓練を開始した。
そして、思ったよりも早く基本を身につけたところで、チェルシーが「実戦形式で試してみるべきだ」と提案し、三人で模擬戦を行うことになったのだ。
チェルシーがため息をつきながら続ける。
「それにしても、バンダナの『ものまね』スキルは計り知れないね」
俺は苦笑いしながら答えた。
「そうだな。正直、俺自身も驚いている。『ものまね』がエキストラスキルになっているなんて知らなかった」
チェルシーは腕を組み、じっと俺を見つめる。
「エキストラスキルね。そりゃあ、あたいのテラ級魔法まで真似されるわけだよ。ほんと驚きだね」
ダニエルが少し微笑みながら言う。
「チェルシー様、バンダナさん。そろそろ私は屋敷に戻らせていただきます。少し仮眠を取った後、お嬢様と共に王都へ向かおうと思います」
チェルシーが申し訳なさそうに言った。
「悪かったね、こんな朝方まで付き合わせて」
俺も頭を下げて感謝を伝える。
「ダニエルさん、本当にありがとうございました」
ダニエルは軽く首を振り、穏やかに答えた。
「いえ、これもお嬢様のためです。そしてバンダナさん、どうか、残りの素材である魔素の核と愚者の金粉について情報が入り次第、教えてください」
俺は力強く頷いた。
「分かった。任せてくれ」
ダニエルが屋敷へ戻るために訓練場を後にし、俺とチェルシーも宿泊先に戻ることにした。
その日の疲れを癒すように、静かな夜が訪れていた。
翌朝、ユリアスたちと別れを告げ、俺とチェルシーは彼女の屋敷を後にした。
「さて、まずは冒険者ギルドで情報収集だ」
俺はそう意気込み、街の冒険者ギルドに向かった。
ギルドに到着すると、受付で対応してくれたカトリーナやギルド長のガッサムに「魔素の核」と「愚者の金粉」について尋ねてみた。しかし、二人ともその名前を聞いたことがない様子だった。
ガッサムは肩をすくめながら言う。
「悪いな、バンダナ。どっちも聞いたことがない品だ。だが、情報屋たちにも聞いてみるといい」
俺は軽く礼を言い、ギルドを後にした。
「まぁ、焦っても仕方がない。次の手を考えよう……そうだ、カナベルのところに行ってみるか」
俺は近衛兵厩舎に向かった。すると、訓練場の一角にいたカナベルが俺を見つけて駆け寄ってくる。
「バンダナ、久しぶりだな。どうだ、最近は?」
俺は赤き翼やユリアスたちの話を伏せつつ、近況を軽く話した。
「そうか、ブルーワイバーンを倒したのか。お前もまた一段と腕を上げたようだな。それで、今日は何か用事があって来たのだろう?」
俺は少し真剣な表情を見せて答える。
「実は、魔素の核と愚者の金粉について情報を探しているんだ」
カナベルは腕を組み、しばらく考え込む。
「ふむ、お前のことだ。余程の事情があるんだろうが……正直、どちらも聞いたことがないな」
俺は肩を落とし、残念そうに言った。
「そうか、それは残念だ……」
その時、カナベルがふと何かを思い出したように目を見開く。
「待て、そうだ! ナダルなら知っているかもしれないぞ」
「ナダル? 闇の賭博所のオーナーだったあのナダルのことか?」
カナベルは頷きながら説明する。
「そうだ。あいつは闇の世界に精通している。魔素の核や愚者の金粉みたいな得体の知れない物でも、情報を持っている可能性が高い。それに、闇の賭博所の件でお前には借りがあるはずだ。ナダルは意外と人情深い男だから、力を貸してくれるかもしれない」
俺は少し思案し、意を決したように頷いた。
「わかった。なんとかナダルと接触してみるよ」
カナベルは俺の肩を軽く叩き、励ますように笑う。
「お前ならうまくやれるさ。また何かあったら声をかけてくれ」
俺はその言葉に感謝し、ナダルの居場所を探すために行動を開始した。
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