第71話 ドラゴンスレイヤー
俺たちはチェルシーの屋敷の前に立っていた。
呼び鈴を鳴らすと、しばらくして執事が現れ、屋敷の中へと案内される。
チェルシーは軽快に話しながら扉を開け、部屋に入ってきた。
「さて、どこかのじゃじゃ馬娘が、またあたいを訪ねてきたよ」
彼女の視線が俺に向けられると、深いため息をついた。
「はぁ~、じゃじゃ馬娘だけかと思ったら、バンダナまでいるじゃないか。お前さん、カナベルの叙爵式に行ったきり、一か月もご無沙汰じゃないか。まるで紐の切れた凧みたいだね」
俺は少し気まずそうに笑うが、すぐにユリアスが前に出た。
「チェルシー様、申し訳ありません。これには訳があります」
ユリアスはこれまでの経緯を簡潔に説明する。チェルシーは話を聞きながら腕を組み、思案深げに頷いた。
「ふーん、あたいがバンダナのことを話しておいて正解だったみたいだね。お前さんたちだけじゃ、エアリアルワイバーンには勝てなかっただろうし」
「はい。それでバンダナさんを巻き込んでしまいました」
チェルシーは少し考え込んだ後、問いかける。
「それで、エーテル銀は手に入ったのかい?」
「はい、ここにあります」
ユリアスはバッグからエーテル銀が入った瓶を3本取り出し、テーブルに並べた。チェルシーは瓶を手に取ると、その左目が一瞬赤く光った。
「本物だね。第一段階はクリアだ。これで、あいつらと肩を並べることができた」
ユリアスは静かに頷き、安堵の表情を浮かべる。しかし、次の瞬間、チェルシーが俺の方を見て驚きの声を上げた。
「バンダナ、お前さん、称号を手に入れてるじゃないか!」
「称号?」
俺が首を傾げると、チェルシーは呆れたように肩をすくめる。
「はぁ~、その様子じゃ、またステータスを確認してないんだね。相変わらずだ。お前さん、『ドラゴンスレイヤー』の称号を手に入れてるよ」
「えええ!」
俺は驚きの声を上げた。
「なぜ、ドラゴンスレイヤーの称号が……」
俺が戸惑いながら尋ねると、チェルシーは肩をすくめて笑う。
「そりゃ、上位種のワイバーンを数体倒すか、ドラゴンを討伐すれば得られる称号だって聞いたことがあるねぇ。しかも、ユリアスたちにはついていない。つまり、お前さんだけがとんでもないヤツだって証明されたわけさ」
チェルシーは笑いながら言うが、その言葉の重みに俺は少し困惑する。そんな俺をよそに、ユリアスが真剣な表情で話を切り出した。
「チェルシー様。残りの素材、ムーンストーン、霊樹の樹液、魔素の核、愚者の金粉はどこで手に入るのでしょうか?」
チェルシーは少し考え込み、冷静に答える。
「ムーンストーンは王都で手に入る。ただし、誰でも手に入れられるものじゃないよ。まぁ、ユリアスなら手に入れられなくもない」
「それは本当ですか?」
ユリアスが食い下がるように尋ねると、チェルシーは静かに頷いた。
「ただし、辛い道のりだよ。王宮の奥には聖なる教会があるのは知ってるだろう。そこには満月の光しか通さない特別な部屋がある。その部屋で、王家の血を引く者だけがムーンストーンを手にすることができる」
「わかりました。私がやります」
ユリアスは即答する。チェルシーはその真剣な表情を見て、さらに説明を続けた。
「ただし、生半可な覚悟では手に入らない。その部屋は暗く、音も聞こえない。何十日も満月の光が差し込むのを待ち続けなければならないんだ。満月がない日は、ずっと暗闇の中さ。それに耐えられるかい?」
「きっと耐えてみせます」
ユリアスの瞳は真剣そのもので、その覚悟が伝わってくる。チェルシーは満足そうに頷き、言葉を続けた。
「うん、いい顔になったじゃないか。元気だけが取り柄のじゃじゃ馬娘は卒業したようだね」
「はい! バンダナさんと一緒にエアリアルワイバーンと戦った経験が、私を変えました。全てはバンダナさんのお陰です」
ユリアスは熱いまなざしを俺に向ける。その視線を受け止めると、何とも言えない気恥ずかしさが込み上げてくる。そんな様子を見たチェルシーが、呆れたようにため息をついた。
「バンダナ、お前さんって男は、ほんとに……はぁ~」
チェルシーの表情には、呆れと感嘆が入り混じっていた。
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