第70話 報酬
俺は疑問を隠せずに問いかけた。
「影守部隊ってなんだ?」
ダニエルは静かに、どこか物悲しげな声で答えた。
「影守部隊は、王国の最精鋭で構成される隠密部隊です。私たちの任務は、王国を影から守ること。暗殺、諜報、護衛――すべて影の中で遂行される特殊な任務です。その存在は最高機密とされ、王室や一部の高位貴族だけがその実態を知っています」
「まるで『忍者』だな……」
俺がそう呟くと、ダニエルは一瞬驚いたような表情を見せたが、すぐに冷静に返答した。
「……やはりそうですね、バンダナさんは異世界から来た方ですね」
その言葉に、一同の視線が俺に集まる。俺は少し戸惑いながらも、正直に打ち明けることにした。
「そうだ。俺は異世界の『日本』という国からここに来た」
ダニエルは小さく頷きながら言った。
「やはり……。『忍者』という言葉は、悪魔大戦の英雄カゲロウのジョブ名でもあります。そして、私のジョブでもあります」
「えっ、ダニエルさんが忍者? 本当か?」
俺は思わず声を上げた。
ダニエルは淡々と説明を続ける。
「ジョブには先天性と後天性があります。私の場合、後天的に“忍者”のジョブを取得しました。忍者のジョブを得るには、王都にある『試練の洞窟』を突破する必要があります」
「その試練の洞窟って、どんな試練があるんだ?」
矢継ぎ早に質問を重ねる俺に、ユリアスがくすくすと笑い声を上げた。
「ふふふ……チェルシー様の言う通りですね。まるで少年のように目を輝かせて質問するのですね」
俺は少し照れくさくなり、視線をそらしながら頭をかいた。
「いや、その……つい気になっちゃってさ」
「さあ、ここで長話をしていてもしょうがない。素材を確認して、地上に戻ろう」
ベルギアがそう言うと、エアリアルワイバーンが落としたアイテムを一つひとつ手に取った。
「まず、目的のエーテル銀が二つ出た!」
ユリアスは満面の笑みを浮かべ、手を叩いて喜ぶ。
「やったわー! これで必要な個数がそろいました!」
ベルギアは続けて他の素材を確認する。
「それから……疾風の翼膜、暴風の爪、星鉄、竜骨の粉末か。どれも貴重な素材で、武器や防具の製作に役立つものだな」
ユリアスが俺を見つめ、真剣な表情で言った。
「この素材はすべて、バンダナさんが受け取るべきです」
「いや、なぜ俺が?」
俺は困惑して尋ねる。
「あなたがいなければ、エアリアルワイバーンを倒すことはできなかったでしょう」
ユリアスの言葉に、俺は首を振った。
「いや、それは皆の力があってこそだ――」
すると、アルカナが口を挟んだ。
「そんなことないわよ。エアリアルワイバーンはワイバーンの最上位種で、実力はS級。その魔獣に最後の一撃を与えたのはあなた。それに、私が使ったオーロラ・フロストストームはテラ級の魔法。誰でも使える魔法ではないのよ」
ダニエルも頷きながら言葉を継いだ。
「その通りです。私が使った神速や氷結乱撃斬、お嬢の七星発勁拳もそうです。これらはそれぞれのジョブが持つエキストラスキルで、発動には膨大な魔素と熟練が必要です。しかし、あなたはそれらを立て続けに発動しました。こんなことができる人は、私も初めて見ました」
ベルギアも俺に向き直る。
「俺の聖壁もそうだ。あの場で偶然エキストラスキルに目覚めて発動できたが、それすらもお前が戦況を支えたからこそだ。チェルシー様が言っていた通り、ジョブ『ものまね士』は俺たちの常識を超えているのかもしれない。だからこそ、この素材はお前が受け取るべきだと思う」
仲間たちの熱意に、俺は渋々ながらも頷いた。
「……わかった。それじゃあ、有り難く受け取らせてもらうよ」
冒険者ギルドに戻ると、ユリアスは受付で何やら手続きを済ませ、戻ってきた。
「バンダナさん、これでエーテル銀の依頼は達成です。報酬の白銀貨20枚は、冒険者ギルドの口座に入れておきました」
俺は報酬額を聞いて、思わず眉を上げた。
「えっ、多すぎないか?」
ユリアスはにっこりと微笑みながら答える。
「今回はエアリアルワイバーンの討伐でしたので、特別に追加しておきました」
追加しておきました、って……白銀貨20枚って、2億円相当じゃないか!?
額の大きさに驚き、言葉を失ったまま固まる俺。ユリアスが心配そうに顔を覗き込んできた。
「バンダナさん、大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫だ」
なんとか平静を装いながら返事をすると、ベルギアが口を開いた。
「ところで、バンダナはこれから何か予定があるか? 良ければ、俺たちと一緒にチェルシー様のところに行ってほしい。今回の件を一緒に報告したいんだ」
チェルシーか……久しぶりだな。元気にしているだろうか?
「わかった。同行しよう」
「やったー!」
ユリアスは満面の笑みで飛び跳ねるように喜んでいた。その様子を見て、俺は思わず口元を緩めた。
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